毎年1月初旬に秋冬メンズ・ファッションウイークの先駆けとしてフィレンツェで開かれる、ピッティ・イマージネ・ウオモ。4日間に渡るバッソ要塞でのメンズウエア見本市を中心に、市内各地はイベントやゲストデザイナーのショーで沸く。第107回目を迎えた今回は、東京ファッションウィークの日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)がピッティとパートナーシップを組んで初の開催。ハイライトは、なんと言ってもセッチュウ初のショーだった。

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピのタイトルイメージ
2025.02.02

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピッティウオモ107ハイライト

毎年1月初旬に秋冬メンズ・ファッションウイークの先駆けとしてフィレンツェで開かれる、ピッティ・イマージネ・ウオモ。4日間に渡るバッソ要塞でのメンズウエア見本市を中心に、市内各地はイベントやゲストデザイナーのショーで沸く。第107回目を迎えた今回は、東京ファッションウィークの日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)がピッティとパートナーシップを組んで初の開催。ハイライトは、なんと言ってもセッチュウ初のショーだった。

「セッチュウ」初のショー。見せたのは、“折衷”コンセプトと遊び心

 セッチュウのデザイナー、桑田悟史さんが“折衷”をコンセプトに同ブランドを設立したのは2020年のこと。最初のキャリアはロンドンのサルトリアルの聖地、サヴィルロウでのメンズ注文仕立て服の工房だった。同時に通ったセントラル・セント・マーチンズ・スクールを卒業後はガレス・ピュー、リカルド・ティッシ率いるジバンシィ、カニエ・ウエスト改めYeのYeezy、Edunと言ったデザインスタジオで、20年の間経験を積んだ。彼がこだわる日本と西洋の“折衷”は単なるスタイルではなく、それぞれの文化に特有の服へのアプローチだ。特に平面裁断による着物のシンプルな構造とテーラリングを融合させると言う非凡なコンセプト、そして手仕事にこだわった完成度が注目され、2023年には最も有望な若手デザイナーを選出するLVMH賞に輝いた。昨年はヴェニス・アートビエンナーレのオープニングウイークで、アート関係のオーディエンスからも注目を集めることに。サヴィル・ロウで200年もの歴史を誇るデーヴィス&サンとのコラボレーションによるテーラード・アイテムを、和紙ランプや陶器スツールを絡めたまさに“折衷主義”のインスタレーションで発表したのだ。このタッグ組みはその後も続き、最新コレクションでも彼特有の折り紙のアイデア(畳むためのガイドラインにもなるプリーツ加工の折り目)を取り入れたモーニングスーツ、ダブルブレストのブレザーとテールコートを同アトリエが製作。

彼の服にはユニセックスなピースが多い。単に女性が着られるサイズのメンズ、と言う安易さではなく、異なる体型にもフィットするテーラリングだ。桑田氏によれば、男性と女性のボディでは、実は腕の付け根辺りはほぼ一緒。もちろん違う部分は多いが、今の時代に“性別”を意識した服が必要かどうか考えると、彼としてはノーだとか。また男性用と女性用でほとんどパターンが変わらない着物も、桑田氏流ユニセックスの背後にあるそう。彼の服作りでは、ジャポニズムに転ぶことなく“和”が“洋”服に溶け込んでいる。メンズ、ウイメンズのルックをミックスし、18世紀建造のフィレンツェ国立中央図書館で開かれた今回のショーでも、畳のように見えるファブリックの被り物やケープが違和感を与えることなくルックを際立たせていた。またショーの幕を開けたモノトーンの一連は、タータンチェックではあるが、どこか大島紬風。よく見ると羽織に似たジャケットや袴スタイルのパンツも合わせられている。またむら染めで仕上げた“和紙”デニムのむら染の色は、炭を思わせる。

「僕の服は毎シーズンほとんど同じですよ」と桑田氏は笑う。シグネチャーである折り紙プリーツや幾通りもの着方を提案する数々のボタンは繰り返し提案されているものの、所々に奇抜なアイデアをフラッシュのように挿入し、ミニマルには終わらない遊び心を見せている。例えばオリジナルのシルクジャカード生地で仕立てたドレス。モチーフの着想源はなんと源氏物語の再解釈だ。日本のカサノヴァ(派手な女性遍歴で知られる、18世紀イタリアの社交家)とも言える光源氏のストーリーは、桑田氏曰く元祖ラブコメディ。そこで彼は、遥か昔の公卿が現代に現れ、釣りをする男性と情事を繰り広げる、と言うシュールな筋書きを想定した。これをはじめ“フラッシュ”ルックはランウェイではやや唐突に思えたが、ショーの後に上の階で開かれたプレゼンテーションを見たら、すべてに納得が行った。クラシックなショーケースに収められたのは、桑田氏の代表作に加え、彼の世界観を象徴する私物アイテムの数々だ。靴の木型から正方形に畳んだ手袋、釣り用の竿とルアー、ガンダムのプラモデル、春画、たこの吸盤をイメージしたジュエリーなど。またフレグランスが近い将来発表されることから、香水ボトルの両側にはメインの原料であるバラの花びらと、なんと梅干しが。未発表製品の“情報解禁日”というマーケティング概念がないのはまったく新鮮だ。ちなみに桑田氏は「毎回ショーを開くことが目的ではないので、今回が最初で最後」と言う。これが本当なら、今回は貴重な体験だったと言えるだろう。“I WANT LESS, AND LESS THAN THAT”をマニフェストとしたショーでは彼の、ショーマンよりもコンセプター、そして職人的な立ち位置が感じられた。

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_1

日本のパターンを思わせるタータンチェック。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_2

ボタンの掛け方で幾通りにも切られるニットは、セッチュウのシグネチャーピース。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_3

プリーツを折りたたみガイドラインとデザインのアクセントにしたブレザーも、シグネチャー。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_4

一点のみ”フラッシュ”的に登場したフェイクファーのコート。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_5

前述のコートは、このルアーと関連しているかもしれない。Photo: Minako Norimatsu

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_6

バックステージにて。左が、畳風テキスタイルのケープ。Astra Marina Cabras

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_7

ショーのフィナーレにて、桑田悟史氏。Photo: Minako Norimatsu

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_8

フィレンツェ国立中央図書館でのセッチュウのプレゼンテーション。Photo: Vanni Bassetti

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_9

源氏物語に着想源を得たシルクジャカードのドレス。Photo: Vanni Bassetti

男性の色気を感じさせた、エムエム6。

もう一つのゲストデザイナーは、エムエム6 メゾン マルジェラ。メゾン マルジェラのライン6「女性のための衣服(ガーメント)」が独立する形で誕生し、2022年秋冬よりオールジェンダーのコレクションを展開してきたエムエム6にとって、初のメンズウェアに終始したショーとなった。遡り、2006年にはマルタン・マルジェラ自身がピッティ・ウオモのゲストデザイナーに招かれた経緯があるから、意味のあるカムバックでもある。またグレン・マーティンスがジョン・ガリアーノに替わってクリエイティブ・ディレクターに、と劇的な変化を遂げようとしているメゾンにおいて、コレクティブ、つまりチームでデザインされるエムエム6は安定した姿勢を見せている。ストーリーテリングではなくワードローブ、つまり服自体にフォーカスするラインの最新コレクションに際し、チームはメゾンのアーカイブズを顧みたとか。

会場はフィレンツェの中心地からやや外れたオルティコルトゥラ庭園の中に位置する、アール・ヌーヴォー様式のガラス張り温室、テピダリウム・ジャコモ・ロスター。陽が落ち、暗闇に浮かび上がった高いランウェイをゲストたちが立ち見で取り巻くという光景は、メゾン マルジェラ初期のプレゼンテーションを彷彿とさせた。四人の女性モデルを交えたショーで最も顕著だったのは、光沢のあるレザーからプラスチックコーティングを施したニット、ベルベット、ラメなどさまざまな素材で展開し、マットと光沢のコントラストを遊んだ黒のバリエーション。スーツ、トレンチコート、ボマージャケットと言ったエッセンシャル・アイテムが黒やキャメル、サンドベージュと言ったトーンで展開される中、ターコイズブルーのジャガードのスーツはグラマラスなナイトライフのアクセントを添えた。さらにラバーやテープの加工、ベルクロ(面ファスナー)使い、スポットライトフェード(照明によるスポットが外側に向かってぼやけていくのに例えられる、エアブラシ加工)のデニムはモダンなアクセントだ。 

 背後のアイディアは、自身のイメージ作りに積極的でファッションアイコンでもあった“ジャズの帝王”、マイルス・デイヴィス。そしてマゾッホによる19世紀の性愛小説「毛皮を着たヴィーナス」。前者の直接的な解釈としては両肩が吊り上がったパゴタショルダーのジャケットやトランペットバッグ、星のプリントのシャツなどがあげられる。。トラックリストにはパルプのThis is Hardcoreも使われ、デカダントにさらにロックな雰囲気を加えて、“官能的で実用的”を謳うコレクションを演出した。

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_10

エムエム6のショー会場となった、温室、テピダリウム・ジャコモ・ロスター。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_11

女性モデルが着たのは、リネンにシャイニーなコーティングを施したトレンチコート。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_12

レザーのセットアップも、女性モデルで。Photo: Giovanni Giannoni

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_13

コレクションからアイコニックな小物、バイカーバッグ。Photo: Astra Marina Cabras

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_14

エムエム6のバックステージより、中央のルックが、”スポットライトフェード”を施したデニムのセットアップ。Photo: Astra Marina Cabras

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_15

ムードボードの中心は、マイルス・デイヴィスの写真、Astra Marina Cabras

バッソ要塞で気になったブランドとユニセックスアイテムは?

バッソ要塞の見本市で、ウイメンズアイテムをスポットアウト。まずはニットを幾つか。

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_16

1960年代からヴェネトでカシミア、メリノやリネンのニットをデザイン、生産するファミリー、Longo & Cの若い世代であるジャンルカ・ロンゴ。彼によるファンキーなニットブランドが、Longo knitwear。Photo: Minako Norimatsu

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_17

Longo Knitwearのスタンドにて。

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_18

ハンブルグ で2013年にスタートしたカシミアブランド、ヘイドーン。オンラインでまずはデザインとサイズ、60色からメインカラーを選び、カスタマイズできるディテール(例えばネックライン、ポケットの縁、ストラップなど)もセレクト。3-5週間でデリバリーされる。Photo: Minako Norimatsu

中国のカシミアブランド、コンサイニーと、ビジネスオブファッションnで私られるジャーナリスト、アンジェロ・フラッカベントとエトロのシニアデザイナーを務めるルカ・ダレーナとのコラボレーションによるカプセル・コレクション。

そしてフットウェアのピックアップはこちら。

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_19

ファッションの家系に生まれた二人のいとこがヴィンテージを着想源に2023年にパリではじめたブランド、カレブ・パリ。旅、特にカリフォルニアのスポーツウエアをイメージした最新コレクションでは、このトライブ・スニーカーがヒットしそう。Photo: Minako Norimatsu

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_20

歴史あるメディカル・シューズ、ショール。最近ではスタイリッシュなモデルも増えて私もゼブラ柄やフェイクファーのサボを愛用。今年はこのヘビーデューティーシューズのミュールタイプをぜひ! Photo: Minako Norimatsu

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_21

 ローファー、スニーカー、モカシン、スリッポン、ミュール……。一枚革による驚くほどソフトなユードットのシューズは、いずれもビスポーク。ショップまたは受注会で試し履き(完全予約制)し、レザー、ソール、ハードウエアを選ぶと浅草で職人が手作りしてくれ、4−5週間で完成する。オンラインオーダーも可。 Photo: Minako Norimatsu

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_22

前述ユードットとともに「ジャパニーズ レザー ショールーム」に参加していたのは、日本製にこだわるレザーのトータルブランド、エーレザー。全て同色のトータルルックでインパクトを与えた。ダブレットなど日本が誇るブランドとのコラボレーションも。Photo: Minako Norimatsu

最後に特筆したいのは、ムーミンとのコラボレーション!

「セッチュウ」初のショーをレポート! ピの画像_23

バッソ要塞、Scandinavian Manifestoのコーナーで際立っていたのが、デンマークを拠点とし、パリと東京にインスパイアされて素材にこだわったベーシックウエアのブランド、rue de Tokyo。本来カラーアニメのムーミン・キャラクターを、トートバッグ、スイングトップ、シャツ、キャップ、スカートなどにモノクロで刺しゅうしたアイテムがシック。プリントのT シャツやシャツ、パンツも。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/

記事一覧を見る