あの日みた雪

はじめて見たときは、レースのようだなぁと思いました。小粒のパールがスカラップ状にお行儀よく並ぶこちらのネックレス。ジュエリーブランドのRubas.でオーダーしました。“Ripples short necklace”という名前が示すとおり、パールがさざ波を打っているようにも見えます。オーダーしてから何ヶ月か経ち、ネックレスが手元に届いたとき思い浮かんだのはなぜか、子どものころ珍しく雪が降った日の記憶でした。

その日はパウダリーな雪が、はらはらと静かに降っていて、わたしは家の近くの広場でひとり、その様子をじーっと見上げていたんです。雪の正体をつかまえようと、手のひらを空へ差し出していると、黒い毛糸の手袋の上に、ふっと雪が舞い降りました。そのとき生まれてはじめて、雪の結晶と肉眼で対面したのです。それまで本に出てくる絵でしか見たことがなかった結晶のかたち。雪の結晶って、あの絵のまんまなんだ!星は実際に「」こういうかたちをしていないのに!と、ファンタジーが突然目の前に立ち現れたようで、驚きと喜びがない交ぜになったことを覚えています。しかしそんなことを考えていると手の温もりによってたちまち結晶は溶けていきました。あーあ、せっかくつかまえたのに……。

このネックレスが呼び起こすのはそんな記憶です。規則的なラインや、白くて冷たい雪の粒にも似たパールがそうさせるのでしょうか。身に着けると、あの日つかまえた途端に消えてしまった雪のかたちを、肌にとどめておけるような気持ちになるんです。ちょっとセンチメンタルな思い出に寄り添う、大切なジュエリーのひとつです。

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エディターITAGAKI

ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。

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