サステイナブルって言いたくない
ブランドを設立したのは2019年3月。「3、4年前に自分のブランドを始めようと考え始めたのだけど、時間もお金も、労力もなくて。香港に戻って、デザイナーをしていたスージーとスタートしたのが3月でした」とフィリス。もともと高校の同級生で幼馴染だったふたり。今では同じ志のもと、ともにブランドを手がけています。アイテムの製作にあたっては商品計画やコンセプト、ひとつの色選びに至るまでも互いに相談しながら進めている。「違う視点から考えることで、新たな発見があるんです」とスージー。
2020年春夏のルック。このシーズンは、手工業や生地店が多くある香港の下町の「サムソイポー」からインスパイアされた(日本の浅草的なところだそう!)
そして作られたものの背景を理解することは、消費者にも必要なこと。「私たちは作っているものにきちんと責任を持ちたい。自分たちのプロダクトを理解しているからこそ、正しく伝える義務があるから。そして買う立場としては、食べ物でも服でも『これはどこから?どうやって?』と知ること、疑問を持つことが本当に大事」(フィリス)。たとえばリサイクルと一口にいっても、製造前の工程がエコなのか、手もとに渡ったあとに再生できる素材なのか。スーパーでも“オーガニック”という言葉だけを鵜呑みにしない、とか。自分自身の「目」を磨く必要もありますね。
ファッションを純粋に楽しむワードローブ
そんな彼女たちの理にかなった製作背景を抜きにしても、YanYanのユニークでプレイフルなデザインは、シンプルにかわいい! 糸が少しずつしかないことも逆手に取り複数の素材や色をミックス&マッチ。見ていて高揚感が湧き上がるルックスなんです。インスピレーションは“OLD LADY”。「ちょっと奇妙でファニー。彼女たちは自分のためのドレスアップを楽しんでいますよね。それでいてとっても心地よいスタイル」とスージー。「着たときにハッピーになることが大事! 細く見えるからとかトレンドカラーだから、ではなくみんな自分自身のために装うことを考え始めましたよね。ただ好きだから、という理由が一番大事」とフィリスも続けました。象徴的なアイテムといえば「私たちは地味だと思っていたから、まさかこんなに人気が出ると思わなかった!」とふたりが驚いた、花のビーズをあしらったニット。私もYanYanをはじめて知ったのは、この服でした。
「デビューコレクションで出して、飛ぶように売り切れたんです。糸は、スコットランドの環境に配慮した高品質なもの。普通に買ったらすごく高かったと思う(笑)。花の飾りは、昔ながらの問屋のようなショップで買ったデコレーション・ビーズから作りました」。右のベストのパイナップルノットは、カンフージャケットなど中国の伝統服から。「クールなチャイナ服を作りたい」という初志の通り、現代的なニットウェアとして昇華されています。それにしてもビーズワークって、なんでこんなにときめいてしまうんでしょうね……。そしてスージーがお気に入りのピースはこちら。
「『孫悟空』の筋斗雲がモチーフになっているの。チャイニーズなデザインに、ハワイアンTシャツのようなトロピカルな空気感を組み合わせたら可愛いよね、と」(スージー)。色鮮やかなレインボークラウドはヴィンテージライクな佇まいも感じさせます。といいつつも、ただ“古着っぽい”テンションに陥らないのはふたりの色彩感覚がとてもモダンだから。このカーディガンもブルーやレッドの配色がなんとも絶妙。伝統的なモチーフを織り交ぜながら、たとえばネオンカラーを随所に効かせることでぐっとコンテンポラリーに。他にも、太極拳をするときに履くようなゆったりしたニットパンツや、なんと19年前(!)の糸を使用したトップスなど、ストーリーを知れば知るほど面白いアイテムが揃います。
クールなすべての人たちのためのニットウェア。その裏側には押し付けるわけではなく、スージーとフィリスの哲学がそっと流れていて、理解が深まるほど好きになる。着る立場としても、新しいものが生まれる背景を知ってより深く愛情を持って大事にしたいな、と改めて思いました。YanYanのニットウェアはオンラインショップと都内セレクトショップでお求めになれます、ぜひ実物を触ってみてください~!
好きな服は、タートルネックのニットと極太パンツ。いつも厚底靴で身長をごまかしています。