女性をあらゆる呪いから解き放つ。長田杏奈さんの、優しさに満ちたパンク精神

大学では、同級生の男子が女子のルックスに当たり前に順位を付ける。社会人になれば、「うちの子は器量が悪いから勉強させなきゃ」と笑いながら平気で言う人がいる。「足細くないんだから、ミニスカートはやめれば」と、男性がお酒の席でアドバイスしてくる。友人が、「わたしはブスだからちょうどいいブスらしく生きていく」と自虐する。枚挙にいとまがありません。文字で書くとゾッとするけれど、ちょっと前までそれが当たり前の光景でした。もしかしたら今も。



こんな絶望的な世の中で、長田杏奈さんに仕事で出会えて本当に良かったと思うんです。SPURをはじめとする女性誌で気骨のあるビューティ特集を数々手掛けるライターさん。長田さんの文章に流れるのは「優しい視点」。この視点によって、あらゆる呪いでガッチガチに縛られた人々を、少しずつ解放し続けています。
そんな長田さんの初めての著書『美容は自尊心の筋トレ』、すばらしかったです。優しい視点に貫かれたパンク精神が炸裂しています。この筋トレは、自分を愛せるようになる(LOVE YOURSELF)練習にとどまりません。無遠慮に人のルックスを話題にし、傷つけてくる人々への防御力アップでもあり、そういう価値観が蔓延する世の中への静かな宣戦布告でもあるなぁと受け取りました。読んだら泣いてしまう女性もきっと多いと思う。だってページをめくるたび、「大丈夫だよ」と抱きしめられる感じがするんです。年齢、体験、体型、私たちを縛るさまざまな呪いを、ひとつずつひとつずつ、丁寧にほぐしてくれる。まるで心のマッサージを受けているような気持ちになる。そして同時に、生きていく強さを与えてくれるんです。

この本は、自分のことが好きな人も、嫌いで仕方ない人も、みなさんに読んでいただきたいですが、実はメディアに携わる人々の必読書でもあると思います。優しい視点というものが、メディアにとっていかに大切か。長田さんの原稿を仕事で読ませていただくことが多いのですが、そこで感じるのは、「ペンで人を楽(らく)にすること」ができる人だなぁということ。この雑誌は、会社は、私自身は、まだまだ全然できていない、と正直思います。

圧倒的かつ絶対的な美の価値観を掲げながら、自から発する「自虐」と他者への「劣化」という言葉でお互いをすり減らしていく時代の終焉。うわべなんかじゃなくて、本質的な美の多様性は、世界ではとっくに浸透しています。そして誰もが思い思いに自分を慈しむことができる社会はすぐそこです。この新しい時代に、どういう思想で美容を発信していくのか。その道しるべとなるような本なのです。

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エディターITAGAKI

ファッション、ビューティ担当。音楽担当になったので耳を鍛えてます。好きなものは、色石、茄子、牧歌的な風景。