なりたい自分になれる、新作をコンプリート 「靴&バッグに願いを!」

春、服の前にまず買うべきは新しいバッグと靴。SPUR 3月号の別冊付録に掲載された、靴&バッグの一部をオンラインでもお届けします。イットバッグ、イットシューズブームを経て、バッグも靴も、目指すスタイルや「なりたい私」を叶えるツール。トレンドにあわせて選ぶだけでなく、シーンやTPOで使い分ける様々な個性を演出してくれます。2017年、あなたはどのバッグ&靴でどんな自分を目指しますか?

Introduction

"ひとりダイバーシティ"時代の今
必要なのは靴なのか、バッグなのか――?

ー Interview with 中野香織 ー

『王室の秘密は女王陛下のハンドバッグにあり』という本に、イギリスのエリザベス女王とそのハンドバッグについての面白いエピソードが紹介されています。女王は、ハンドバッグを暗号メッセージのツールとして使っていたというんですね。昼食会や晩餐会の際に、テーブルの上にバッグを置いたら〈そろそろお開きの時間〉、床の上に置いたら〈私の隣のゲストはものすごく退屈!〉というように。マーガレット・サッチャーも会議のときは必ず黒いハンドバッグを持っていて、そこからメモを取り出し、読み上げていたというエピソードがあります。「サッチャーにとってのハンドバッグは、チャーチルにとっての葉巻である」と言われるくらい、相手を時に威圧さえする政治のツールでした。バッグを持つことは男性にとっては野暮に見えるおそれがあります。ハンドバッグにいたっては女性しか持ちません。エリザベス女王やサッチャーは、男性政治家たちの騎士道精神の世界の中で、「高い女性」のアピールとしてハンドバッグを使っていたんじゃないでしょうか。それくらいバッグは女性を象徴するものです。
 足もとのおしゃれはもともと男性のものでした。中世ヨーロッパでは男性もヒール靴を履いてましたし、脚線美を誇示するのも男性。ハイヒールが女性のフェミニニティやセクシーさを表すものとして欠かせなくなったのは戦後のマリリン・モンロー以降。地に足が着いていない、高いヒールの浮遊感から連想されるような非日常的な存在感が、女性らしさのひとつの典型になったとも取れます。ハイヒールは女性に不自由さをもたらすと同時に緊張感も生み出す。履くときは気持ちが切り替わるんです。靴を脱ぐ"畳文化"が根底にある日本では欧米ほど強く意識しないかもしれないですが、女性のマインドを決めるのは靴だと思いますね。
 一方で現代女性にとって、地に足着けて働くことも大切。フラットシューズも大容量のバッグも必要です。けれどいつも実用ばかりじゃスマートではない。場面にあった装い、靴とバッグの選択が重要になります。イットバッグやイットシューズという存在が定着したのは、ドラマ「SEX and the CITY」ブーム以降じゃないでしょうか。デザインの選択肢が増えた結果、靴とバッグは自分のスタイルと直結するものになりました。時に男性目線を意識したり、女性同士「最新のモードがわかっている私」を誇示するシグナルを送りあったり。場所やコミュニティによって"私"はいくつあってもいい、いわば"ひとりダイバーシティ"時代。固定的にいつも同じ個性でいるより、場面にあわせてさまざまな自分を自然に演じ分けられる人のほうがカッコいい。今、靴もバッグも、なりたい自分を演出する切り替え装置としての役割を果たしているんだと思います。

Profile
なかの かおりエッセイスト・服飾史家。2008年より明治大学国際日本学部特任教授。著書に『モードとエロスと資本』(集英社新書)、『紳士の名品50』(小学館)など。講演のほか、新聞や雑誌、ウェブの連載も多数手がける。

Cover
ルイ・ヴィトンとシャネルがこの春提案する靴とバッグはどちらもスポーティな佇まい。伝統的なクラフツマンシップとモダニティの融合に注目したい。
バッグ〈H32×W30×D15〉¥425,000(予定価格)/ルイ・ヴィトン クライアトサービス(ルイ・ヴィトン) 靴〈ヒール3.5㎝〉¥108,000(予定価格)/シャネル ボディスーツ・スカート・グローブ/スタイリスト私物

photography:Hiroko Matsubara styling:Kayo Yoshida hair:Kazuki Fujiwara〈Perle〉 make-up:Masayo Tsuda〈mod's hair〉 model:Veronika R

※記載されている記号は、H(高さ)、W(幅)、D(奥行き・マチ)、単位はセンチメートルです。

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SPUR MAGAZINE

着たい服はどこにある?
トレンドも買い物のチャンネルも無限にある今。ファッション好きの「着たい服はどこにある?」という疑問に、SPURが全力で答えます。うっとりする可愛さと力強さをあわせ持つスタイル「POWER ROMANCE」。大人の女性にこそ必要な「包容力のある服」。ファッションプロの口コミにより、知られざるヴィンテージ店やオンラインショップを網羅した「欲しい服は、ここにある」。大ボリュームでお届けする「“まんぷく”春靴ジャーナル」。さらにファッショナブルにお届けするのが「中島健人は甘くない」。一方、甘い誘惑を仕掛けるなら「口説けるチョコレート」は必読。はじまりから終わりまで、華やぐ気持ちで満たされるSPUR3月号です!