反戦や改憲反対を訴えるデモが増えるなか、未来を担う若い世代は今の社会をどう見つめているのだろうか。若者たちの活動を通じて、平和について考えてみたい。

2026.06.25

「この世界はどうなっていくんだろう」 大学の枠を超えて活動する、平和ゼミナールの学生たちの思い

反戦や改憲反対を訴えるデモが増えるなか、未来を担う若い世代は今の社会をどう見つめているのだろうか。若者たちの活動を通じて、平和について考えてみたい。

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核兵器のない世界を目指して、平和や社会問題について学び、行動している大学生グループがある。ロシアとウクライナの戦争を契機に日本でも核抑止をめぐる議論が高まるなか、次世代である学生が平和運動を担っていこうと、2022年春に学生有志5人が集まり、「東京学生平和ゼミナール」を結成した。初期メンバーの田原ちひろさんは、設立に至った背景についてこう話す。

「国際情勢が緊迫化し、戦争体験を直接語れる方が減少している今、学生が主体的に行動していく必要があると考えたことが大きな理由です。また、大学の枠を越えて学生が集い、意見を交わし合える場をつくることも目的としていました。物事を考える上では、まず『知ること』が不可欠です。学びと議論を両立できる環境を整え、平和について考え行動する力を育むことを目指して、本ゼミナールを立ち上げました」

活動開始から今年で5年目、バトンは次の代に引き継がれている。同団体の事務局メンバーとして企画や運営に携わる、和光大学表現学部総合文化学科2年の佐倉翠さんと、明治学院大学国際学部国際学科2年の佐藤未来さんに話を聞いた。

学生が主体的に平和について考え、行動する「東京学生平和ゼミナール」

「東京学生平和ゼミナール」事務局メンバーの佐藤未来さんと佐倉翠さん

(左から)明治学院大学国際学部国際学科2年の佐藤未来さん、和光大学表現学部総合文化学科2年の佐倉翠さん

―今日はお時間をいただきありがとうございます。まず、東京学生平和ゼミナール(以下、平和ゼミ)がどんな団体か教えていただけますか。

佐倉翠さん(以下、敬称略):私たちの活動は、有志の学生によって運営されています。目的や活動内容に賛同する大学生や専門学生は誰でも参加することができますが、学生以外がメンバーとなることはありません。現在は、私と佐藤さんを含む5人の事務局メンバーがいます。週に1度、5人でオンラインミーティングを行い、企画内容や運営について話し合っています。

佐藤未来さん(以下、敬称略):平和ゼミでは、個人の尊厳の尊重と非暴力、反ヘイト、ジェンダーフリーを基本原則としています。また、参加者の思想や信教、政党支持の自由を守ることをスタンスとして活動しています。

―おふたりとも、大学1年生から平和ゼミに参加されていますが、核や平和に関心をもつようになったきっかけは何ですか。

佐倉:高校1年生の時に、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、この世界はどうなっていくんだろうと不安になりました。その後もガザをはじめ、世界各地で多くの人びとが戦争の犠牲になっていくのを見るたびに、胸が苦しくなりました。私は今、大学で演劇を専攻しているのですが、戦争が背景にある作品に触れる機会が多く、歴史を学ぶ必要があると思っています。同時に、そういった文化的な活動を続けるためには、平和を維持していかなければならないという思いもあり、平和ゼミに参加するようになりました。

佐藤:私は小学生の時に友達とうまく関われず、学校に行きたくないと思っていた時期が長くありました。自分と同じような思いを抱く人がいるのは悲しいことだなと思ったのが、平和について考える最初のきっかけです。その後、進学した中学が平和学習に力を入れていたので、自然と興味をもつようになりました。平和ゼミの活動を知ったのは、高校生の時です。たまたま参加していた学習会で、初期メンバーの方と出会い、お誘いいただきました。

原水爆禁止世界大会で被爆体験を語る、被団協の田中煕巳さん

原水爆禁止世界大会で被爆体験を語る、被団協の田中煕巳さん(提供写真)

―核なき世界を願う平和ゼミは、主にどんな活動をしているのでしょうか。

佐倉:毎年8月に広島と長崎で開催される国際的な平和集会、原水爆禁止世界大会の学生ツアーを企画しています。今ちょうど準備をしているところで、都内のいろんな場所で学生たちに参加を呼びかけたり、カンパを募ったりしています。昨年は、26人が参加してくださいました。私自身も初めての参加だったのですが、被爆者の語りを直接生の声で聞いたことが深く印象に残っています。一つひとつの言葉に重みがあり、原爆の凄惨さをいっそう強く感じました。

佐藤:ツアー内容の企画・準備から旅行に必要な手配まで、ほぼすべてを自分たちでやるのですが、ほかではなかなかできない経験だと思っています。ツアー中は、学んで終わりではなく、参加者一人ひとりがその日どう感じたかを共有し、意見を交流する時間も設けました。昨年の参加者から、「知らないことがたくさんあって、行ってよかった」という感想をいただいた時はとても嬉しかったです。

―いい経験になったのですね。ほかにはどんな活動をしていますか。

佐倉:2017年に、核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約が、122ヵ国の賛成で採択されました。しかし、アメリカの「核の傘」に頼る日本は、唯一の被爆国でありながら核兵器禁止条約に署名をしていません。平和ゼミは、日本政府に核兵器禁止条約への署名と批准を求める署名活動を行っています。また、私たちは核兵器廃絶だけでなく、すべての人の人権が尊重される社会の実現を願っています。そのため、さまざまな分野の専門家を講師に招き、人権や社会問題について学ぶための勉強会を定期的に開いています。

佐藤:署名集めや学習会のほかにも、ロシア大使館やアメリカ大使館、イスラエル大使館前で、国際法違反の戦争に反対する抗議行動を行ってきました。私は実際にアメリカ大使館前でスピーチをしたことがあるのですが、トランプ大統領に直接訴えるつもりで、力を込めて気持ちを伝えました。

おかしいと思ったことを、おかしいと言える社会であってほしい

アメリカ大使館前で抗議行動をする、平和ゼミの学生

(提供写真)

―アメリカ大使館前では、どんな思いで抗議されたのでしょうか。

佐藤:私は、おかしいと思ったことをおかしいと言えなくなる社会になってしまうのがとても怖いと思っています。大使館前でのスピーチでは、そんな社会に絶対させないという強い気持ちを表しました。昨今は「平和活動」と呼ばれるものに対して否定的あるいは攻撃的な意見もありますが、つねに声を上げられる世の中であってほしいと思っています。

―勇気ある行動ですね。家族や友人は、平和ゼミの活動を応援してくれていますか。

佐倉:知人は頑張ってねと言ってくれますが、自分から積極的に平和ゼミの活動について話すことはないですね。

佐藤:私も同じです。反対されることはないけれど、自分から大っぴらにすることもありません。

―なぜ積極的に言わないのでしょうか。

佐藤:こういう活動をしていると「すごいね」と言われることがあるのですが、同時に「自分とは違う人」という壁を作られるんじゃないかという不安がどこかにあります。事実、偏った思想を持っていると誤解されたり、関わりたくないと距離を置かれたりすることがあります。もちろん、いろんな意見の人がいるのは当たり前なので、そのような考えに意見するつもりはまったくないのですが、孤独を感じることはあります。

佐倉:大学で友人といろんな話をしますが、物価が上がって生活が苦しくなったらどうしようという話題になっても、どうすれば世界から核兵器や戦争をなくせるかという話にはなりません。世界平和というと、どうしても自分たちの生活からは遠く感じてしまって、深く考えられる環境ではないのかもしれません。

―仲間を増やすのは難しいと感じていますか。

佐藤:そうですね。どうやって人を集めるかは平和ゼミの一番の課題です。夏の原水爆禁止世界大会の学生ツアーは、参加者30人を目標にしているのですが、興味があっても現地に行くまでにはいたらない人が多いです。親しい友人や、昨年参加してくれた方など、人脈を頼りに地道に声をかけているところです。

―それでも、おふたりが活動を続ける原動力は何でしょうか。

佐倉:私自身、幼い頃からずっと閉塞感を抱いて生きてきました。混沌とした現代社会で、自分と同じように感じる子どもを増やしたくないと思っています。これから生まれてくる彼らを不幸にさせないためにも、私たちが今行動しなければという思いでやっています。

佐藤:私の場合、きてほしくない未来がきてしまうことへの恐怖心が大きいです。先ほど述べた通り、おかしいと思ったことを言えない社会になるのが一番怖い。そうならないための手段が学ぶことや声を上げることであるならば、私はそれを続けたいと思っています。誰かのためというよりも、自分自身のためにやっています。

分断が深まる今、考えを押し付けず、相手を理解することから始める

インタビューにこたえる、「東京学生平和ゼミナール」事務局メンバーの佐藤未来さんと佐倉翠さん

―残念ながら、国際社会は核廃絶とは逆の方向に進んでいます。2026年の核不拡散条約(NPT)再検討会議でも、成果文書の内容に合意できないまま決裂しました。

佐藤:NPTは、約190の国と地域が参加する国際的な核軍縮の枠組みです。そもそも核軍縮をしようという趣旨でNPTに加盟しているはずなのに、さまざまな意見の対立があって文書が採択されずに終わったことには、非常にがっかりしました。分断の深まりを感じるし、どうしてその結論に至ってしまったのかという疑問が強く残ります。

佐倉:日本は核の傘に守られている立場です。しかし、だからと言って、守っている側の国が何をしても黙っていることしかできないのでしょうか。核に頼らない安全保障を考えるべきだと思います。

―核を「必要悪」と位置づける核抑止論については、どう考えますか。

佐藤:その考えをもつこと自体がダメだとは思いません。核抑止論を支持する人も、核廃絶を目指す人も、大切な人や国を守りたいという気持ちは同じで、手段が違うということなんだと思います。核兵器はなくしていくべきだと私は考えますが、核抑止論を否定するつもりはありません。

佐倉:私はやはり、核抑止論はありえないと考えています。81年前に日本に2つの原子爆弾が投下され、その威力がどれほど凄まじいものかが証明されています。核兵器は「絶対悪」であるということを、唯一の被爆国の若者として訴えていかなければならないと思っています。

―意見や立場の異なる人と対話するには、どうすればいいと思いますか。

佐藤:たとえば、この人は核推進派で、この人は反核派というふうに、「この人はこういう人間だ」という先入観がはたらくと、身構えてしまって話したいことを話せなくなるんじゃないでしょうか。フラットに向き合うことができれば、共通点が見つかるかもしれません。

佐倉:難しいことですが、まずは相手のことを理解するところから始めないと、うまくいかないんじゃないかと思います。たとえ排外的なことを言っている人であっても、頭ごなしに否定したり、非難したりするのではなく、お互いの思いを解き明かしていく必要があると思います。

―おふたりは、今後も核廃絶を目指して平和活動を続けていきますか。

佐藤:戦後81年が経ち、戦争経験者や被爆者の記憶を継承しなければならないという思いが強くあります。また、将来は中学高校の教員になりたいと思っているので、何かしらのかたちで子どもたちに平和について伝えていきたいと思っています。ただし、自分の考えを押し付けることはしたくありません。政治的中立性を守りつつ、自分の知識や経験を手がかりに、考える材料を提供していきたい。そのためにも、平和ゼミのメンバーとして活動している今のうちに、できるだけ多くのことを吸収して卒業したいです。

佐倉:私たちは、何の権力もない市民であり、しかも学生です。署名を集めたり抗議をしたりすることしかできず、とても微力です。それでも、何もやらないよりはいいと思っています。平和ゼミとは別に、高校生平和ゼミナールという団体があり、彼らと活動をともにすることがあります。何としてでも平和を守りたいという強固な意思をもって活動している高校生たちの姿を見ると、心が動かされます。佐藤さんが言うように、今のうちにできる限りのことをして、次の人たちにいいバトンを渡せるようにしたいです。

「東京学生平和ゼミナール」事務局メンバーの佐藤未来さんと佐倉翠さん

学生たちの小さな声を、国のリーダーに直接届けるのは難しいのかもしれない。たとえそうであったとしても、ひとりでも多くの人に伝えることができるのなら、確かな意義がある。国を動かすのは、私たち市民だから。