語り合うことで拓ける未来「わたしと彼が、生理の"ホント"を語るなら」CASE: 2

男性にも知ってもらいたい、生理のこと。思いきって身近な男性と語り合うことで、お互いの関係性もいっそう深まるはず。子育て中のモデル&ヘアスタイリスト夫婦、アスリートカップル、同じ会社で働くチームメイト同士の3組が、生理をテーマにトーク!

 

CASE : 2
フィギュアスケート選手 --- 小松原美里さん
フィギュアスケート選手 --- 小松原 尊(Tim Koleto)さん 

生理もケガも、一緒に乗り越えてきたからこそ今がある

――フィギュアスケート全日本選手権のアイスダンスで3連覇中の小松原美里さんと小松原尊(ティム・コレト)さんカップル。2016年から互いをパートナーにして競技をしてきたふたりは、プライベートでも夫婦だ。昨年秋に尊さんが日本国籍を取得。現在は米コロラドを拠点に新シーズンに向けて練習に励んでいるふたりが、アスリートならではの生理の悩みや、パートナーシップについて本音でトーク!

過度のストレスで、生理が止まってしまった大会前

美里さん(以下M) 私が初潮を迎えたのは16歳のとき。なんと国体の大会当日、本番直前の5分間の公式練習が終わった瞬間だったの。練習中からすごく調子が悪くて、おかしいなと思いつつトイレに行ったら、まさかの生理が! 自分の番まではあと15分弱。タイツは汚れてしまっていたけれど、幸い衣装は大丈夫で。パニックでどうしたらいいかわからず、トイレのドアを出て最初に会った大人の女性を捕まえて、「初めて生理が来たみたい、どうしたらいいですか!?」って聞いた。ちなみにその女性は浅田真央さんの先生だったのね。急いでドクターのところに連れて行ってもらったけれど、本番はもうボロボロ。散々な体験でした。
尊(ティム)さん(以下T) それは大変だったね……。
M 生理に関しては、今でも大変な思いをしているね。私は生理前は体がむくむし、すごく疲れやすい。そして生理が始まると、インナーマッスルが全然使えなくなってしまう。特に、男性に体を高く持ち上げてもらうリフトのときは、インナーマッスルを繊細に使わないといけないのに、それがうまくできなくて。
T 生理中は、練習で大きなリフトの回数を少し減らしたりするよね。ケガをしないためにも、そうやって調整するのは大事。
M 今は月経カップなどでだいぶ改善したけれど、リフトではパートナーの顔まわりに私の下半身が来るし、もちろん脚も広げるから、経血がもれていないか練習中に気になってしまうことも。汗をかいているだけでも、「経血かもしれない」と思って慌てて確認したり。本当にしんどいときは、ティムにもそう伝えているよね。
T そうだね。昔は、「もしかしたら今週は生理かな?」と察するだけだったけど、今は美里が言ってくれるからラクになった。昔は、生理で美里の機嫌が悪いと「僕が何か悪いことをしたかな?」と焦っていたからね(笑)。僕だってテンションが低い日や、調子の悪い日はある。だからお互いに気を使うのは当たり前だよ。
M 今年3月の世界選手権の前、緊張のあまり、私の生理が止まってしまったのを覚えている? ティムとも、「まだ生理が来ていないんだ、おかしいね」って話したよね。
T 本当は大会の2週間くらい前に来るはずだったんだよね。ストレスがかかりすぎて遅れてしまった。女性にしろ男性にしろ、大会はすごくストレスフルなものだしね。美里が生理で調子の悪そうなときは、僕はあえて少し距離を置くようにしている。パートナーになって6年、やっとそういう感覚が、お互いにわかってきたんだと思う。
M たくさんのことを話し合ってきたから、今はすごく細かいこともわかり合えるようになったね。
T やっぱり、2019年に美里の大きなケガ(脳しんとう)があって、それをふたりで乗り越えたのが大きかったね。
M そうだね。私も、自分ひとりだったらたぶんあのときに辞めていたと思う。ティムが待っていてくれたから頑張ろうと思えた。
T生理もそうだけど、ケガがあったからこそ、美里のことをよりよく理解できるようになったと思うよ。

パートナーには意外と言わない? スケート選手の生理事情

M 私は今まで、ティムの前に3人のパートナーと組んだことがあるけれど、10代の頃は相手に生理の話はしたことがなかったな。20歳を過ぎた頃からは言うようになったけれど。
T 僕は、美里以外のパートナーから生理の話を聞いたことは一度もないよ。
M ええ〜〜! そうだったの?
T 話してもらえないから、「今は生理なのかな?」と空気を読んで気を使ったりしていた(笑)。
M 女性スケーター同士は、よく生理の話をしているよ。女子更衣室で、「もう嫌だ、生理が来た!」とか、「今日、3日目なんだよね〜」とかね。
T すごく面白い話! だって、男子選手が集まっても、絶対に生理の話にはならないから。生理については、みんな(肩をすくめるポーズをしながら)こんな感じ。僕はアメリカの学校でごく標準的な教育を受けたけど、生理については男女に分かれて簡単に教わったくらい。本当は男女で一緒に授業を受けたほうがいいよね。あと、男性たちは、機嫌の悪い女の子がいると「きっと今日は生理なんだよ」とからかったりすることがあるけど、あれはやめたほうがいいね。生理にまつわる女性の痛みやフラストレーションを、男性がちゃんと理解できたら、ああいう冗談は減ると思う。生理がない人には、そのつらさがわからないからね。
M 妊娠中の赤ちゃんの重みを疑似体験できる器具があるじゃない? あれの生理の痛み体験バージョンがあったらいいのにね。
T それがあったらやってみたいね。1回だけなら、たぶん、きっと……。
M 本当かなー?
T が、頑張ります……。

Profile

こまつばら たける(ティム・コレト)●アメリカ合衆国出身。シングルスケーターとして競技を始めアイスダンスに転向。2016年に美里選手とカップル結成、翌年に結婚。昨年に日本国籍を取得し、日本名も持つ。日本のアニメとゲームが好きだそう。

こまつばら みさと●岡山県出身。フィギュアスケート(アイスダンス)選手。2018- ’19シーズンの世界国別対抗戦では日本チームのキャプテンを務め、チームを銀メダルに導く。2019年には練習中に脳しんとうを起こし、リハビリに努めていた時期も。

SOURCE:SPUR 2021年9月号「わたしと彼が、生理の"ホント"を語るなら」
interview & text: Chiharu Itagaki 

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