2026.06.25

今、女性プロデューサーが注目される理由とは?【上岡磨奈さん×つやちゃん対談】

ここ数年、女性アイドルグループはまさに群雄割拠の時代を迎えている。そして、作り手である女性プロデューサーたちにも注目が集まっている。彼女たちが手がけるアイドルはなぜ共感を呼び、熱狂を生むのか。プロデューサーやウォッチャーの声を手がかりに、その現在地をひもとく。

ここ数年、女性アイドルグループはまさに群雄割拠の時代を迎えている。そして、作り手である女性プロデューサーたちにも注目が集まっている。彼女たちが手がけるアイドルはなぜ共感を呼び、熱狂を生むのか。プロデューサーやウォッチャーの声を手がかりに、その現在地をひもとく。

INDEX

女性であることがどう影響するのか

上岡磨奈×つやちゃん

つやちゃん(以下、つや) 最近、女性プロデューサーが増えてきたといわれることが多いですよね。

上岡さん(以下、上岡) 正直、私はあまり増えたとは思っていないんです。もともと活躍されている女性プロデューサーの方はいましたし、私自身、出役として活動していたときに関わったプロデューサーも女性が多くて。ただ、近年になって注目されるようになった、という感覚はありますね。

つや 私も近い印象です。女性プロデューサー自体は以前からいたけれど、木村ミサさんや指原莉乃さんのように、もともと表舞台で活躍していた人がプロデュース側に回ったことで、フォーカスされることが増え、存在感が大きくなった。結果として「女性プロデューサーが増えた」という印象につながっている気がします。

上岡 そうですね。出役だった方はプロデューサーになってからも発信する機会が多いですし、前に出て話すことへのハードルも低い。だから目立って見えるんだと思います。

つや 安易に「女性プロデューサーの時代」みたいな言い方をするのは、少し事実と違うのかもしれませんね。

上岡 最近、取材などでも「女性ならではのクリエイティビティ」とか「女性ならではの視点」という話を求められることが増えました。もちろん、女性として生きてきた経験が表現に影響することはあります。でも、それ以上に木村さんなら木村さん、指原さんなら指原さん、それぞれの個人としてのクリエイティビティやプロデュース力が注目されたらいいですよね。

つや たしかに、アイドルとして活動してきた経験があるからこそ見える景色はあると思いますが、それを全部「女性だから」と片づけることで逆に見えにくくなるものがあります。

上岡 出演者として活動した経験を経てプロデュースに進むという流れ自体は、つんく♂さんや純烈の酒井一圭さんなどもいて、決して新しい話ではありません。ただ、女性が出演者としてキャリアを積み、その経験を生かしてプロデューサーとして活躍することが、より一般的に注目されるようになった。それ自体はよい変化だと思います。

つや 注目を浴びた理由として、日本のアイドルシーンとは少し違う立ち位置ですが、ちゃんみなさんがプロデュースしたHANAの影響も大きいかもしれないですね。上岡さんはほかに、女性のプロデューサーがいるグループで注目している人たちはいますか?

上岡 飛鳥井里奈さんが手がける、Chalcaというグループに注目しています。見ていて印象的なのは、プロデューサーもメンバーと同じようにファンに愛されているところ。たとえば、誕生日をお祝いしたり、プロデューサーの名前もペンライトで光らせたり。それがよいか悪いかは別ですし、他の現場でもあることかもしれません。ただ、女性プロデューサーの場合、ファンとの距離感が比較的近く、親しみを持たれやすい傾向はあるのかなと感じます。飛鳥井さんはもともとフォトグラファーということもあって、ビジュアルの作り方がとても上手。その強みを生かして、メンバーのZINEや写真集のような出版物も継続的に制作していて、そうした表現の広げ方も素敵ですね。

Chalca

Chalca : フォトグラファー・飛鳥井里奈のプロデュースのもと、2024年10月に始動した5人組アイドルグループ。韓国語でシャッター音を意味する名前には「心のシャッターを切りたくなる」という意味が込められている。撮影:飛鳥井里奈

つや 他には、Adoさんがプロデュースするファントムシータもいますね。海外でも大きな注目を集めています。

上岡 ファントムシータに関しては、女性プロデューサーだからというよりも、世界観の構築やクリエイティビティそのものが注目されている印象です。

つや ちなみに、KAWAII LAB.や指原さんプロデュースのイコノイジョイについては、「かわいいを再定義した」と語られることも多いですが、そのあたりの実感はありますか?

上岡 以前とは違うタイプの「かわいい」のブームが来ている感覚はあります。特に大きいのは女性ファンの存在ですね。最近は、女性アイドルを応援する女性ファンが当たり前の存在になってきました。かつては、アイドルを応援すること自体にネガティブなイメージがありましたよね。

つや それによってアイドルが単なる鑑賞対象ではなく、「このメイクや髪型を真似したい」「この考え方に憧れる」といった形で、自己プロデュースの参考モデルになってきました。自己形成のためのアイドルファン、という在り方が増えています。

上岡 木村さんや指原さん、他にシンガーソングライターの大森靖子さんも、みんなアイドルファンであることを公言していますし、その「好き」をプロデュースに持ち込んできた人たちです。だからこそ「アイドルが好き」ということ自体のイメージを変えることができたのかもしれません。

アイドルとしての経験値がプロデュースに生きる?

つや 一方で、アイドル経験者がプロデューサーになることで、労働環境や人権意識が改善してきたという話もありますが、実際はどうなんでしょう?

上岡 重要な論点ですね。私は、単に「プロデューサーが経験者だから/女性だから、メンバーに寄り添える」という話には同意しかねます。男性であれ女性であれ、プロデューサーは基本的に権力を持つ立場だから。アイドル経験者だから労働環境や人権意識については安心、というのは成り立たないのではないでしょうか。

つや プロデューサーがアイドル経験者だから/女性だから安心ということではなく、その人自身を見ないとわからないということですね。ただ、その一方で、運営やプロデュースの在り方が変わったからなのかはわかりませんが、結果的にアイドルグループの空気感が変化してきている部分もあるように感じます。MVのビハインド映像を見ていたりすると、本当に仲がよさそうなグループが増えました。

上岡 昔は逆でしたよね。「仲よしでやってるんじゃない」と言われることがあったり、メンバー同士の連絡を禁止している現場もあります。でも今は、むしろ交流の時間を作る現場も増えています。遠征の合間に遊びに行ったり、みんなで過ごす時間を意図的に設けたり。メンバー同士の関係性を、パフォーマンスにどう生かすかという考え方に変わってきている気がします。

つや その背景には、グループを長く続けるという発想もありますよね。アイドルグループって、脱退や解散の繰り返しじゃないですか。でも今は、サステイナブルに活動することへの意識が強くなっている。指原さんも、=LOVEを立ち上げた当初「信じられないくらいの時間をかけて頂点に連れていきたい」と話していました。そういう意味で私が時代の節目だと感じたのは、過激なパフォーマンスやセンセーショナルな打ち出しをするグループの解散が増えたこと。もしかしたら今後、さらに解散が続くかもしれません。

上岡 グループを長く続けるという発想が出てきた一方で、メンバー自身が主体的に関わるケースも増えました。昔からメンバーが作詞や衣装制作をすることはありましたが、今はそれが「メンバーの才能」として評価されるようになってきている。興味深いのは、振付師や衣装デザイナー、審査員、プロデューサーとして活躍する元アイドルが増えているということ。アイドルとしての経験がセカンドキャリアにつながってきました。

つや みんなの意識がそこまで向くようになってきたのは、いいことですね。今日話していて、改めて「女性プロデューサー」とひと括りにしてしまうことの難しさを感じました。

上岡 ただ、その一方で、女性プロデューサーだからこそ生まれやすい関係性というのはあるのかもしれません。それは「女性ならではの感性」という話ではなくて、ロールモデルとして機能しやすいということ。昔からいた女性プロデューサーの例として、小林清美さんのことを思い出すんです。

つや というと?

上岡 元peach sugar snowの広瀬愛菜さんが卒業ライブで「私はアイドルになりたかったんじゃなくて、清美先生になりたかったんだ」と話していた言葉がすごく印象的だったんです。女性のプロデューサーや先生って、単に作品を作る人というだけではなく、人間形成に影響を与える存在になりやすい。ロールモデルとして想像しやすいからこそ、よくも悪くも影響力が大きいんですよね。

つや なるほど。今日の話を通して感じたのは、「女性プロデューサーが増えた」というよりも、これまで見えにくかった女性たちの仕事が見えるようになった、ということかもしれません。

上岡 本当にそうだと思います。これまで積み重ねてきた仕事や経験が、ようやくきちんと評価されるようになってきた。その結果として、今の注目があるのかなと思いますね。

小林清美

小林清美:自身もシンガーソングライターとして活躍。音楽事務所「K&Mミュージック」を主宰し、アーティストの育成、楽曲提供、プロデュースを手がける。

上岡磨奈プロフィール画像
上岡磨奈

1982年生まれ。俳優、アイドル、作詞家などを経て、社会学研究者に。著書に『アイドル・コード―託されるイメージを問う』(青土社)など。

つやちゃんプロフィール画像
つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿多数。著書に『わたしはラップをやることに決めた―フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)など。