ランウェイ新時代、準備はオーケー? #深夜のこっそり話 #1278

1920年代に活躍したクチュリエである、エルザ・スキャパレリは「多難な時代において、ファッションはいつでも大胆になる」と遺しました。第一次世界大戦後の混乱の時代を駆け抜けた彼女ですが、まさかそこから100年後に再び世界が未曾有の困難に直面するとは予想していなかったでしょう。

新型コロナウイルスの影響が続いています。国内ではようやく緊急事態宣言が解除され、徐々に動きを取り戻しつつありますが、ファッションの世界では戦々恐々としたムードが残ります。

そんな中、イギリスのファッションジャーナルサイト『ビジネス・オブ・ファッション』から、気になるプロジェクトが発足しました。その名も「Rewiring Fashion」。言うなれば、ファッション再構築論といったところでしょうか。賛同しているのは、ミッソーニや3.1フィリップ・リム、クリストファー・ケイン、Yプロジェクトをはじめとするブランドや、レーン・クロフォードやセルフリッジといったリテーラーなど、現在までに1,900以上もの企業が名を連ねています。

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Rewiring Fashion」が掲げるミッションの中でも、特に画期的なのがコレクションシーズンの刷新。現状のコレクションスケジュールには、春夏と秋冬のメインコレクションに加え、プレコレクション、メンズ、ブランドによってはここにオートクチュールも加わります。新しいシーズンはいつでも心が躍るものですが、正直ここまで頻繁にあると追いかけるだけで一苦労です。この問題を改善するために、コレクションの頻度を減らして一つ一つのコレクションを大切にしてはどうか、という提案です。

実はこのムーブメントに先んじて、4月末にサンローランはすでに独自の指針に基づいてコレクションを発表することを明らかにしています。同じくグッチは、これまで年間5回行ってきたショーを2回のショーに集約することを発表。長らく議論の的となってきた課題改善に向け、ついにビッグメゾンが動いた!と目を見開いたのは私だけではないはずです。

この動きの中で、ファッションショーの在り方についても言及されています。伝統的なファッションショーだけでなく、テクノロジーが発達、浸透した現代に合わせた新しいプレゼンテーションの仕方を考えてみてはどうか、ということです。

これに呼応してかは定かではありませんが、今年の7月に開催される予定だったミラノとパリのメンズファッションウィーク、そして9月のロンドンファッションウィークはすでにデジタルでの展開を発表しています。ベルリンのファッションイベント「リファレンスフェスティバル」では、全面デジタルに合わせて、なんと「あつまれ どうぶつの森」のバーチャルファッションショーも。テクノロジーによって全てがバーチャルに置き換えられる、とは思いませんが、ファッションイベントがより多様化すると考えると少なからずポジティブに捉えられるはずです。

これらの改革論が聞かれるようになったのは、最近のことではありません。長年の課題が、コロナショックの影響でより表面化した、と言った方が適切かもしれません。

ちなみに「Rewiring Fashion」では、もう一つのミッションが掲げられています。それは、セール商戦の見直し。そもそも大量の在庫が売れ残っている現状は、サステイナビリティの観点から見ても大きな問題です。加えて、セールで安く買う癖がついてしまうと、商品の価値が下がる。もっと言ってしまえば、ブランドの価値さえも下げてしまうということです。エンドユーザーである私たちも、普段の消費行動を見直し、流動的なトレンドに流されず、長く使えるものを正規価格で買う、という心がけが求められている。そう、このムーブメントはなにも、ファッション業界人だけのものではなく、ファッションを愛する全ての人が向き合うべきアジェンダなのです。

コロナショックにより、大変革を迎えようとしているランウェイシーン。このエポックメイキングなムーブメントに、胸を高鳴らせる私は不謹慎でしょうか。

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