#スパイダーマン 【トム・ホランド】身長コンプレックスも克服。「普通の青年」が世界一のヒーローになるまで

俳優と役柄は別ものだが、少年漫画の主人公のような人生を歩んだスターもいる。かつて10代で歴代最年少の実写版スパイダーマンに就任したトム・ホランドは、第4作『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』(日本公開2026年7月31日)で同役の歴代最長キャリアに到達した。

もっとも、最も主人公らしいエピソードは、そもそも俳優志望ではなかったことかもしれない。


俳優と役柄は別ものだが、少年漫画の主人公のような人生を歩んだスターもいる。かつて10代で歴代最年少の実写版スパイダーマンに就任したトム・ホランドは、第4作『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』(日本公開2026年7月31日)で同役の歴代最長キャリアに到達した。

もっとも、最も主人公らしいエピソードは、そもそも俳優志望ではなかったことかもしれない。


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ジブリも経験したダンサー

#スパイダーマン  【トム・ホランド】身の画像_1

photo:Aflo

1996年、英ロンドンの閑静な住宅街で芸術家庭の長男として生まれたトーマス・スタンリー・ホランド。赤ん坊のころジャネット・ジャクソンの曲にあわせて踊っていたことから、母親に勧められヒップホップダンス教室に通い始めた。やがてその才能がスカウトの目に留まり、ミュージカル版『リトル・ダンサー』(2008〜2010)の主演を射止める。

通っていた学校がラグビー強豪の男子校で一人バレエをやっていたことから、いじめを受けることもあった。しかしコメディアンの父親から「本気でやり遂げろ」と教えられ、11才から13才にかけて170以上の公演をつとめあげる。初日には扁桃炎を抱えながら踊ったほどだ。

すると、またしてもスカウトの目にとまり、映画界へ。子役としてジブリ映画『借りぐらしのアリエッティ』(2010)英国版吹き替えや、津波被害に遭う家族を描く実写映画『インポッシブル』(2012)の演技で評価されていった。

とんとん拍子で「期待の新人俳優」になっていったかたわら、大学進学を前に大工の訓練も受けていたトム。本腰を入れてプロの演技の道を選ぶようになったのは、子どものころからの漠然とした夢を前にしたとき。つまり、スパイダーマン役の選考過程だった。

「普通の青年」の挑戦

#スパイダーマン  【トム・ホランド】身の画像_2

photo:Aflo

 ティモシー・シャラメらを含む7,500人が殺到した『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)オーディションで、トムがピーター・パーカー役を射止めた理由はダンサーとしての身体能力。バク転をしながら審査会場に登場し、キャプテン・アメリカ役のクリス・エヴァンスとのアクションテストもダンスのようにこなしたという。

なにより、野心が薄かったトム・ホランドは、庶民派スーパーヒーローの資質が備わっていた。それは、世界中の若者が共感できる「普通の青年」としての素朴な愛嬌だ。

世界最高の人気と興行収入を誇るキャラクターの重責を担ったトムは、持ち前のショーマンシップで駆け抜けていった。読字障害により脚本の読み合わせが難しいとわかると、台詞の全てを事前に暗記した。

身長のコンプレックスも乗り越えた。170cm程度でハリウッドの男性俳優としては低く、シークレットブーツを履いたこともあったというが「縦(身長)は駄目でも横(筋肉)は増やせる」と発想を転換。トレーニングを重ねるうちに、体格を大きく見せるパッドは局部以外必要なくなっていった。

スタントアクションもこなした。モットーは「緊張を興奮に変えろ」。緊張も興奮も似た体感だから、怖くてもアドレナリンだと思えばいいという。

名誉の負傷も刻まれている。現在のトムの鼻には少しS字のカーブがかかっているが、これは2010年代後半にかけて、複数回のアクション映画の撮影で鼻を骨折した後遺症らしい。

「運命の人」と出逢えたことで、苦手な注目への対処法も学んだ。『スパイダーマン』で恋人役を演じたゼンデイヤと恋に落ち、ディズニーアイドル出身の彼女から「有名であることも仕事だ」と教わり、日常での言動にも気を配るようになったのだ。

生活を守るヒーロー

#スパイダーマン  【トム・ホランド】身の画像_3

photo:Aflo

スパイダーマン就任から10年経ち、トム・ホランドも30歳の立派な大人になった。弟と制作会社を運営し、禁酒をした経験からノンアルコール・ビールも販売している。

同年代の男性スターと異なるのは、かなりプライベート重視なことだろう。今のハリウッドで「トムデイヤ」が一番のスターカップルであることは疑いようがない。それでも、2人は結婚式すら秘密裏に挙げてしまっていた。トムの場合、業界や宣伝のイベントに出ることも滅多にない。

「芸能界が大嫌いなんだ」。トムは断言する。「ハリウッドのビジネス主義には恐怖すら感じる」「自分を見失ってしまった先輩や、業界に呑まれた友人をたくさん見てきた」。

擦れていない「普通の青年」として運命の役に選ばれたトム・ホランドは、大人になっても芸能界に慣れることはなかったようだ。それを裏づけるように、究極の憧れにしている存在も俳優ではなくアスリートだという。最近は、F1観戦中に近くにいたサッカー界のスター、アーリング・ハーランドをDMで食事に誘ったものの、相手に知られておらず無視された体験談も。「有名俳優として謙虚にさせられる大事な経験になったよ」(ちなみに、この件が話題になったあとハーランドは誘いを快諾)。

そんな彼が、大人として大切にしているのは、幸せな「普通の生活」を守ること。家族、友人、大好きな大工仕事とゴルフ、母が運営している慈善団体。そして、とりわけ夫婦生活。子どもが生まれたら専業主夫になる道も考えているという。

運命の役も一緒に成長していっている。庶民派スーパーヒーロー、ピーター・パーカーの思春期は、これまでの青春三部作で完結した。最新作『ブランド・ニュー・デイ』で直面するテーマとは、孤独な英雄になってしまった立場で、それでも「もう一度同じ人生を選ぶか」という選択だ。

トム・ホランドの場合、きっとまた「同じ人生」を選ぶだろう。流されるように役者になった少年は、今では自分の意志でその道を選び直している。過酷な業界に痛めつけられても、演技への愛は揺らいでいないから今も闘いつづけているのだ。それこそ、ヒーローの魂だ。

辰巳JUNKプロフィール画像
辰巳JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)