咲かせる、備前/森本 仁さん×椎名直子さん

SPURでもおなじみのスタイリスト・椎名直子さんが注目する作家がいる。備前の森本仁さん。森本さんの作品に椎名さんが花を生ける、という協演から、備前の新しい魅力が見えてきた

進化する備前を日常で咲かせたい

――備前と聞いて思い浮かべることはなんだろう。重い、暗い、それとも古めかしい? 3年前、ふたりが出会った倉敷のクラフトフェアで、椎名さんが感じたのはまったく違うものだった。

椎名 焼締めの鉢から目が離せなくなったんです。ほかの備前はあまりしっくりこなかったのに、森本さんの作品は突き放しすぎた雰囲気ではなく、可愛らしさがあった。実際に家にあったらどう使おうかという想像が自由にふくらむところもいいなと思いました。

森本 備前は主張が強いので、合わせるものの幅が狭いと思う人も多いかもしれません。でも、じつは中に何かが入って、初めてバランスがとれるという側面もあるんです。料理なら和も洋も合わせられるし、食卓にひとつあるだけで、ほかの白い皿を引き立てることもできる。そのために、なるたけシンプルでラインの美しい、身の丈に合った作品作りを意識しています。

――花器の作陶にも積極的に取り組む森本さん。今回はあえて洋花をアレンジするという試みを。

椎名 花が窮屈に見えない。うつわの中で生き生きと咲く姿が素敵でした。

森本 備前は釉薬を使用せず、それこそ原始的な作りなので、野趣あふれる野花も似合います。立ち枯れの花を生けるのも面白い。水が腐りづらく花が長もちする作用もあるんです。

――土の力強さを伝えながら、繊細さを兼ね備える森本さんの備前。なだらかな縁に洋花が寄りかかったときの、自然に溶け合うサマは印象的だった。

椎名 今回の発見は、水を張ったときに、鏡面のようになってとてもきれいだということ。〝おいしそう〟な備前特有の表面の「焼き」も、水が入ると不思議とみずみずしく見えました。

森本 表面張力を利用してぎりぎりまで水を入れると花がよりきれいに映えますね。夏場の涼しさの演出にも、この生け方はおすすめです。

写真①:椎名さんが心を砕いたのは、縁から花弁がこぼれ落ちる案配。水面に映るエキゾチックな蘭が、静謐な涼やかさをたたえて。備前鉢(直径27.5㎝)は「胡麻」と呼ばれる内側の表情も美しい

写真②:背面の下部に丸カンを配した掛花生(高さ24㎝)。壁に掛けることで花弁が前向きに垂れるように設計されている。今回は垂直に立てて設置し、オランダ産スノーボールホワイトの紫陽花を生けた。「ちょうど花が花器にあごをのせたイメージ。気持ちのよいバランスで花を受け止めてくれました」と椎名さん

写真③:花器(高さ15㎝)は弥生土器を思わせるプリミティブな造作が魅力。椎名さんはミニチューリップの一種、シンシアをみずみずしく生けた。「備前は野菜の緑もきれいに際立たせるのですが、その感覚に似ています」と森本さん。中に何かを盛る、生けることで真価を発揮する備前の実力が、ここに


写真④:面取花生(高さ22.5㎝)に、オーストラリア産ワックスフラワーを選んだ椎名さん。「イメージはデレク・ジャーマンの庭や、オキーフの世界です」。窯の中の炎の揺らぎで生じた、鉄のような窯変が、タフな表情に寄り添う


PROFILE
(右)森本仁●1976年備前市生まれ。大学で彫刻を専攻したのち、美濃での修業を経て備前にて作陶を始める。6月3日~8日にはエポカ ザ ショップ銀座 日々にて個展を開催。
http://d.hatena.ne.jp/bizen-hitoshi/
(左)椎名直子●モード誌や女優のスタイリングにて活躍。その女性自身の内面に根ざしたスタイル提案に定評がある。

photography:Mie Morimoto

SPUR2016年6月号掲載
>こちらの特集は電子書籍でもご覧いただけます

FEATURE