M: Marius
S: SPUR
S 先月は、経済思想家の斎藤幸平先生との対談、お疲れさまでした。お話ししてどうでしたか?
M すごく刺激になったし、自分はもっと勉強しないといけないなと思いました。そしてその後、斎藤先生が登壇するイベントに行ってきました。僕は知らなかったんですけれど、「気候正義訴訟」ってご存じですか?
S 初めて聞きます。どんなものですか?
M 最近の異常気象で、日本でも農業をはじめ、さまざまなところに被害が出ていますよね。でも、気候変動に対する国の対策はいまだ不十分で、国民の健康や生活を脅かしている。その責任を国に求めるというものです。つまり国民が原告となって国を訴える。斎藤先生はその呼びかけ人のひとりとして、原告に名を連ねているんですね。
欧米など海外では活発に訴訟が起きているようですけれど、そういう環境運動もあるんだなと思いました。参加費1000円で誰でも原告になれるようなので、興味のある方は検索してみてください!
S それは新しい試みですね。それにしても斎藤先生、本当にアクティブ!
M 「昔、パンクバンドをやっていた」という話もしていて、「なるほど!」と思いました(笑)。
S 腑に落ちます(笑)。さてさて、今月ですが、何か語りたいテーマはありますか?
M 最近、僕が気になっているのが、昨年秋から外国人の在留資格が厳格化されたというニュースです。日本の在留資格には、「留学」や「特定技能」など、さまざまな種類があるんですけれど、問題となっているのは、外国人が日本で会社を運営するための「経営・管理」ビザ。これを取得するハードルが大幅に引き上げられたんですよね。
S 話題になっていますね。これまではビザの取得・更新に必要な資本金は500万円だったのが、3000万円と6倍になってしまいました。高すぎるし、あまりに急すぎます。
M 本当に。特に影響を受けているのが、小さな飲食店を営むアジア人と言われています。インド料理、タイ料理、ベトナム料理、台湾料理……今や至るところにエスニック料理のお店がありますよね。本場の味、家庭的な味が安価で楽しめるからたくさんの方がよく利用するのではないでしょうか。でも、そういう小さなお店が今どんどんつぶれているんですね。長年、日本でお店をやってきた人たちも2028年までに3000万円を用意しないと在留資格が更新できないそうで、多くが閉店に追い込まれている。
S 残念ですね。SNSでも「近所のお気に入りのカレー屋さんが来月、閉店するらしい! どこでカレーを食べればいいんだ!」「よく行っていたネパール料理のお店が閉店になっていた。会社帰りの憩いの場所だったのに」……と嘆く投稿がたくさん見られます。厳格化の法改正に反対するオンライン署名も始まっているようです。
日本をどういう国にしたいのか――。みんなでもっと話し合ったほうがいい
M そもそもなぜ「経営・管理」ビザが厳格化されたかといえば、このビザを悪用して、実際は事業をしないのに在留資格を取得する外国人が増えたからだそうです。ただ法改正にはいい面もあって、たとえば在留資格の更新時、その外国人が社会保険料を払っているか、これまでは確認がなかったけれど、法改正後はちゃんと確認されるようになった。そういう意味での厳格化はいいと思うけれど、一生懸命働いて地域でも愛されている人が締め出されるのは納得がいかないというか。
S そうですね。外国人が営む小さなレストランは、日本の風景にもすでになじんでいるし、最近は地方都市にも増えていて、寂れたシャッター街に活気をもたらしていたところもあります。この法改正は日本にとってデメリットだと感じている人は少なくないでしょうね。
M 欧米が移民問題で苦労しているのを見て、「日本には移民を入れたくない」と考える人がいるのもわかります。そうなる前に日本は移民をコントロールしようということだと思うんですけれど、この在留資格の問題って、結局、誰がこの国に残っていいのか、ダメなのか……という問題につながると思うんですね。そしてそれは、「日本をどういう国にしたいのか」ということ。そこはあまりオープンに話されないけれど、僕はもっとみんなで話し合うべきなんじゃないかと思っていて、皆さんに投げかけたいと思いました。
S マリウスさんは、日本がどういう国を目指していると感じますか?
M たとえば最近のドイツでは、たくさんの移民が入ってきていることもあって、人種がどうであれ、ドイツ語が不自由なく話せて、ドイツの生活になじんでいれば、「ドイツ人ね」って認識されるようになってきています。
一方、日本は、日本で生まれ育って、日本語がペラペラで、なんなら日本人より日本人らしい生活をしていても見た目が違うと、「日本人じゃないね」「外国人だね」となる。それってどういうことなんだろうって、僕は思っていて。
S それで言うとマリウスさんは、「外国人」として見られるということでしょうか?
M はい。自分は日本人のつもりでも、「何人なの?」と、よく聞かれるから(笑)。たとえば日本人の友達と話しているとき、「この前、渋谷の街なかで立ちションしていた外国人の観光客がいたんだよね」「マジ外国人って、マナーが守れないよね」なんて聞くと、自分のことを言われてるわけじゃないのにもやもやしちゃうんです。国籍を問わずマナーが守れない人はいると思いますが、どうして「外国人」という大きな主語でくくるんだろうって考えちゃうんですよね。
何をもって日本人とするのか、礼儀正しければ日本人なのか
S よく言われるのは、日本は島国だから内と外を分けたがる傾向が強いと。以前は、「ガイジン」という言い方もよくしていました。
M 日本はその状況を今後も変えたくないということでしょうか。在留資格を厳しくして、移民を入れないのは、「そういう日本であり続けたい」ということかな。〝純ジャパ(純粋ジャパニーズ)〟だけでやっていきたいと。
S 純ジャパ! 最近、「アイツは純ジャパじゃない」みたいに差別的に使われたりしていますけど、もとは否定的な言葉ではなかったとか。帰国子女が多い大学でよく使われていた言葉で、外国語がペラペラな帰国子女と比較して、「自分は純ジャパだから」とむしろ自虐的に使っていたらしいです。
M ということは、帰国子女も純ジャパではないってことですよね。外国で長く暮らしたら、もう純ジャパじゃないってことなのかな?
S 外国人のホストファミリーをしていたことがありますが、その場合は?(笑)
M そうやって考えていくと、何が純粋で何が純粋じゃないのか、僕はよくわからないんです。何をもって日本人とするのか、礼儀正しければ日本人なのか。まったく協調性がなくても、両親が日本人なら純ジャパなのか。
S 定義するのは難しいかもしれないですね。ちなみにマリウスさんは、どこにいるときが一番居心地がいいですか?
M 「どこ」というより「誰と」……ということが僕にとっては大事かもしれません。8月に友達10人くらいで新潟県長岡の花火大会に行ったんです。純ジャパもいれば、帰国子女がいたり、佐渡島出身だけど、「俺、絶対ロシアの血が入ってる」という友達がいたり(笑)。多様性という言葉がぴったりのグループで、流しそうめんをしたり、布団を敷いて雑魚寝したりして、本当に楽しかった。「マジで今、幸せだね」って。
飾らず、気負わずリラックスして自分らしくいられることが、僕にとってはとても大事で、それは場所でなくて人がもたらしてくれるものなんですね。そしてそのとき、人種とか国籍は関係ないとあらためて感じました。



