マリウス葉さんが『プラダを着た悪魔2』で感じた、今の時代のメディアの在り方

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マリウス葉さんの連載「One step at a time」

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1カ月ほどドイツの実家でのんびり過ごしていたマリウスさん。「東京の喧騒を離れて過ごす時間は僕にとってとても大事」と言う。そんな彼の目に、この映画の世界観はどう映っただろうか

マリウス葉プロフィール画像
マリウス葉

2000年、ドイツ生まれ。幼少期を父の出身地のハイデルベルクで過ごす。元タカラジェンヌの母の影響で歌や踊りのレッスンを始め、11歳のとき、アイドルグループのメンバーとしてデビュー。2022年12月、芸能活動を引退。2024年7月、スペインの大学を卒業した。

M: Marius
S: SPUR

S マリウスさん、5月公開の映画『プラダを着た悪魔2』(以下『2』)はご覧になりましたか?

M 観ました!『プラダを着た悪魔』(以下『1』)が大好きだったので楽しみにしていたんです。

S ネタバレしない程度に内容を説明すると、ファッション雑誌『ランウェイ』を舞台に、悪魔のように厳しい編集長ミランダ(メリル・ストリープ)のもとで奮闘するアシスタントのアンディ(アン・ハサウェイ)の成長を描いたのが『1』。『2』は報道記者として活躍していたアンディが、存続の危機にある『ランウェイ』のために再び編集部に戻ってくるという話です。

S 『1』の公開は20年前だから、マリウスさんはまだ小さかったんですよね。

M そうですね。だから映画館では観てなくて、のちのち飛行機とかテレビで観たんですよね。当時は僕自身、きらきらしたファッション業界への憧れがあったし、おしゃれじゃなかったアンディが服を変えるだけで不思議なパワーを得て、考え方もどんどん変わっていくじゃないですか。服の力ってすごいんだなとわくわくしました。

もちろん負の側面もあってモデルが細すぎる問題とか、ボスのミランダの振る舞いはパワハラじゃないかとか。アンディも仕事を優先するあまり、人間関係が悪化してしまったりして。でも、最終的に自分にとって何が大切かに気づくんですよね。人を裏切って、椅子の取り合いばかりしているビジネスは、自分には合わないと思ってファッション業界を去っていく。自分の人生とかぶるところがあって、大人になって観たときは、また違った感動がありました。アンディの揺るがない信念とか、辞める勇気はリスペクトですね。

S 同じような経験をしたマリウスさんだからこそ、感じるものがあるでしょうね。では、『2』はどうでしたか? 今の時代のファッション・メディア業界の裏側が描かれていますよね。アメリカも日本も似たような状況です。

M そうですね。まず20年前と大きく変わったのは、デジタル社会になったということですよね。コンテンツの内容云々ではなくて、ソーシャルメディアを使って、いかにそのプラットフォームで上位に表示されるようにするか……というアルゴリズムが大事になっているという。

S 今まさに私たちが置かれている状況と同じですね。ファッション業界だけでなくて、あらゆる業界に言えることですが。

M さらに雑誌の撮影もAIで全部できるから、モデルもフォトグラファーもヘアメイクもスタイリストもいらない時代がきているみたいな話もあって。だからよくも悪くも『1』は、ファッションに対する熱量が高かったと思うんですけれど、『2』はそこに社会的な要素がいろいろ入ってきて、純粋にきらきらした世界に浸れなかったのが、僕的には少し残念でした。

S この20年で、単純にいいものを作っていればいいという時代ではなくなってしまいました。それだけ世の中が複雑になっているんでしょうね。

M ですね。大富豪が自分のガールフレンドのために雑誌を買い取っちゃうみたいな話も今どきだなと思いました。

S アマゾンの創業者のジェフ・ベゾス夫妻が16億円を出して、METガラのメインスポンサーになった話を思い出しましたね。

M もちろんいい意味での変化もあって、キャラクター造形に賛否はあれど、『2』は人種の多様性に配慮していたし、ありのままの自分を愛そうというボディ・ポジティブのメッセージも感じました。細くなければダメというわけでなくて、いろんなサイズのキャストがいて素敵でした。

アメリカでは報道の自由度が年々下がっている

S  映画ではメディアの在り方をあらためて考えさせられましたが、実際アメリカでは、メディアの買収合戦がすごいことになっていますよね。先日もメディア大手のパラマウント・スカイダンスが、同業のワーナー・ブラザース・ディスカバリーを17兆円で買収したことが報じられました。

M ネットフリックスが買収競争に負けたんですよね。

S  そうですね。問題は、パラマウントのCEOのデイヴィッド・エリソンさんというのが、テクノロジー業界の大富豪で、トランプ大統領に巨額の献金をしているラリー・エリソンさんの息子だということです。昨年、彼がCEOになった後、パラマウント傘下にあったテレビ局CBSでは、トランプ政権に批判的な人が次々とクビになってしまったそうです。

M 今回買収されたワーナー・ブラザースの傘下にはCNNがあるから、今後リベラルな報道がどこまでできるか心配ですね。これは本当に報道の危機だと思います。考える自由を守るためには、いろいろな情報、いろいろな考え方に触れて、頭をやわらかくすることが大事だと思うんですけれど、それが制限されてしまう社会は本当に怖いと思う。

S  毎年、国際ジャーナリスト組織が発表している「世界報道の自由度ランキング」がありますけれど、アメリカは年々下がって、今年は64位。政権に忖度して、報道の自由がないといわれる日本(62位)より下になりました。

M じつはドイツも昨年の11位から14位に下がったんですよ。

イスラエルのガザ攻撃をドイツでは批判ができない

S  アメリカと同様の問題が起きているんですか。

M まったく別の理由です。前にもこの連載で話しましたけれど、ドイツには第二次世界大戦時にナチス・ドイツがユダヤ人の大量虐殺を行なった過去があります。その反省からイスラエルを差別したり、批判したりするような言動は法律で厳しく禁止されているんですね。

ところが2023年にイスラム原理主義組織ハマスがイスラエル人コミュニティに対して大規模なテロ攻撃をしかけたのをきっかけに、イスラエルのガザ地区への全面攻撃が始まりましたよね。これまでに7万人以上のパレスチナ人が殺害されたといわれています。

S  ニュースなどで見ると、もはや廃墟ですよね。そして病院や学校なども無差別に狙われていて、ここまでやらなくても……と思ってしまいます。

M そうですよね。ドイツ人の中にもそう思っている人はいて、早く戦争が終わってほしいと願っている。でも、イスラエル批判ができないんですよ。イスラエルがたとえ国際法を破ってガザの人を攻撃していたとしても、イスラエルをサポートするというのがドイツの国是だから。

昨日、ちょうど渋谷に行ったらイスラエルのガザ攻撃に反対するデモをやっていたんです。とても平和的に。でも、それをドイツでやったら逮捕されてしまいます。報道も同じで、たとえばメディアで「イスラエルのガザへの攻撃は、ジェノサイドじゃないのか」というようなことは絶対に言えない。だから報道の自由がないんです。

S  それはすごいジレンマですね。

M そうですね。もちろん過去の過ちは反省すべきだと思う。でもドイツ人が守るべきなのはユダヤ人であって、ネタニヤフ政権ではないと思うんですよ。そこは区別すべきじゃないかと。

S  なるほど。国によって抱えている問題がまったく異なるというのがよくわかります。翻って、日本の報道はどうでしょう?

M スポンサーの意見に左右されるオールドメディアより、ネットメディアのほうが元気ですよね。最近はYouTubeの番組でも注目の文化人が対談していたりして勉強になります。でも、ネットはどうしてもエコーチェンバーに陥る可能性があるから、メディアリテラシーが問われますね。

S  やっぱりいろいろな情報に接することが大事ですね。メディア側に責任を押しつけるだけでなく、受け手も勉強しなければいけないですね。

今月のsnaps

マリウス葉さんのスナップ ヴェネチア・ビエンナーレ

初参加したヴェネチア・ビエンナーレ。街じゅうでいろんな展示が行われていましたが、すべては見きれず、残念。

マリウス葉さんのスナップ ヴェネチア・ビエンナーレ

個人的に気に入ったアートは、ビエンナーレの会場エントランスにある案内所の中に飾られていたもの。

マリウス葉さんのスナップ アジサイ

帰国して買ったお庭用のアジサイ。