東京生まれ。慶應義塾大学卒業。米国コロンビア大学大学院修士課程修了。信濃毎日新聞社や米国ブルームバーグニュースなどで記者としてキャリアを積み、2010年からWFP(国連世界食糧計画)の職員に。ローマ本部勤務ののち、エチオピア、ネパール、ナイジェリアで食料支援にあたる。
M: Marius
U: Kiyori Ueno
M 今日はWFP(国連世界食糧計画)日本事務所 広報官、上野きよりさんをゲストにお迎えしています。よろしくお願いします!
U こちらこそ、よろしくお願いします。
M 僕はこれまで「#ごちそうさまチャレンジ」や「WFPチャリティー エッセイコンテスト」などで国連WFP協会の活動に関わらせていただきました。さらに今年から途上国の学校給食支援につながる、国連WFP協会の「レッドカップキャンペーン」のオフィシャルサポーターに就任したので、あらためてWFPの活動や世界の食料危機について知りたいと思い、対談をお願いしました。
U マリウスさんのように影響力のある方に発信していただくのは、本当にありがたいと思っています。WFPの活動についてご説明すると、現在、世界人口の約7.8%、約6億4,500万人が慢性の飢餓状態にあると言われています(※)。原因は紛争や災害、気候変動などさまざまですが、そうした飢餓で困窮している人たちに食料を届けるとともに、彼らが直面するさまざまな課題への解決策を支援する国連の人道支援機関がWFPです。
M 現場の方々は命がけで紛争地帯に食料を運んだりしていて、皆さんの献身には本当に頭が下がります。2020年にはノーベル平和賞を受賞しましたが、飢餓の状況は改善しているのでしょうか。
U 慢性の飢餓人口の数は減っているのですが、パレスチナやスーダン、シリアなどでは、戦争・紛争によって、急性の飢餓に直面する困窮者が生まれています。もともとWFPは限られた地域、いわゆる最貧国で多く活動していました。ところが近年は戦争・紛争によって、それまでは比較的、低中所得だった国々でさえ急に食べ物が入ってこなくなって、一気に飢餓に陥るという急性飢餓状態が起きているんですね。
M 戦術として、人間が飢餓を作り出しているという面もありますよね。悲しい現実です。
U そうですね。ただ日本のように豊かな国では、「飢餓」を自分ごととしてイメージするのはとても難しいのが現実です。広報官としては「飢餓人口が何億人」という数字だけではなく、「現地の子どもや家族がどのように過酷な生活をしているのか」というストーリーを伝えることで、人々の想像力を呼び起こすことが大切だと感じています。
M 僕は祖父母から戦後、食べ物がなくて大変だった話を聞いて育ちましたし、ヨーロッパにいると、戦争から逃げてきた避難民の方々を身近に感じる機会があります。彼らの物語を知っているから、飢餓を身近に感じるのかもしれません。
給食はお腹を満たすだけではなく、教育を受け続けさせる動機づけに
M 印象に残っている支援国はどこですか?
U 10数年前にWFPの職員として赴任した最初の現場であるアフリカのエチオピアですね。当時エチオピアには近隣国から70万人以上の難民が流入していて食料支援が必要だった一方、国内でも干ばつによって水や食料が不足している状態でした。特に地方の農村部は貧しくて、子どもたちは水を汲んだり、家畜の世話をする労働力として働き、学校になんて通わせてもらえない。教育が受けられないと読み書きすらできなくなる。そして子どもたちも結局貧しさから抜け出すことができないわけです。
M 貧困の連鎖ですね。
U はい。では、どうしたらその連鎖を断ち切れるのか。そこで決定的な役割を果たすのが「学校給食」なのです。「学校に行かせれば1食食べさせてもらえる」となると親は子どもを通学させるようになる。決して贅沢な食事ではなくて、多くが豆を煮たような質素なものですけれど、子どもたちにとっては貴重な栄養源なんですね。
M 給食は教育を受け続けさせるための「インセンティブ(動機づけ)」にもなっているんですね。
U おっしゃる通りです。特にグローバルサウスでは、総じてジェンダー格差が大きく、男の子しか学校に行かせてもらえないこともあるのですが、そういうときは、学校に来た女の子には、定期的に食用油を持ち帰らせる仕組みを作ることで、劇的に通学率が上がりました。
M そんなアイデアが! ちなみに、その給食で使う食材はどう調達しているのですか?
U WFPでは国際的に食料を調達するということに加えて「Home-Grown School Feeding」という取り組みを行っていて、できる限り地元の農家から食材を買いつけて調理するようにしています。いわゆる地産地消ですね。そうすることで子どもたちの栄養を守ると同時に、地域の農家の収入増や地元経済の活性化にもつながります。食料支援に依存するのでなく、最終的に彼らが自立して生活できるような道筋を作ることを目指しています。
M それにしても上野さんはどのような経緯でWFPの仕事をされるようになったのですか。
U 私はもともと日本の地方紙などで記者をしていたのですが、次第に「国際的に人助けをする仕事がしたい」という思いが強くなり、WFPへ転身しました。この選択には父の影響が大きいと思います。父は東京で開業医をしていたのですが、夏休みにはフィリピンやスリランカで医療ボランティアをしていました。そんな父が生前よく言っていたのです。「私たちが恵まれた生活ができているのは、たまたまこの時代に、日本という国や環境に生まれた『運』にすぎない。だからこそ将来は人のためになることをしてもらいたい」と。
M お父さまの言葉、すごく心に響きます。人は誰しも生まれる国や地域、家族を選んで生まれてくることはできないですよね。だからこそ、どんな環境に生まれた人間であっても、食料や教育、住居といった基本的な人権や生活の質が保障されるべきだし、恵まれている人は困窮している人に手を差し伸べる義務があると僕も強く感じています。
困っているときはお互いに助け合う。そんな多国間主義で物事を考えて
M お話を聞いていて「学校給食」の大切さをあらためて感じました。そういう意味で、「レッドカップキャンペーン」は大事ですね。
U はい。これは2011年から始まった国連WFP協会の取り組みで、日常の買い物の中で、レッドカップキャンペーンのマーク(赤いカップ)がついた商品を選ぶと、売り上げの一部がWFPが実施する途上国の学校給食(約30円で1食分)に充てられるというものです。
M 参加している企業も60社以上あって、意外なところにマークがついていて、この前、TOHOシネマズのポップコーンのカップにもついているのを発見しました! ぜひ皆さんに協力していただきたいと思います。その他、僕たちができることは何かあるのでしょうか。
U 一般の皆さんに知っていただきたいポイントがふたつあります。ひとつ目は、日本政府は毎年WFPに対して多額の資金を拠出しているということです。そして、この原資は皆さんの税金です。日本国民として「自分たちの税金が世界の飢餓を救っている」ことに誇りを持つと同時に、その使われ方に常に関心を持ち続けてほしいと思います。ふたつ目は多国間主義(マルチラテラリズム)でお互いを支えていくことの大切さです。紛争や災害、気候変動によって、どの国も食料不足になる危険性があります。特に日本は食料自給率が低く、気候変動や国際情勢の影響を受けやすい。将来、いつ支援を受ける側になるかわかりません。だからこそ国際的な協調が大事なんですね。
M いや、本当に明日はわが身ですよね。でも残念ながら、今世界はそれとは逆の方向へ向かっていますよね。トランプ大統領を筆頭に、ヨーロッパも自国第一主義になりつつあります。
U ふたつの世界大戦の教訓から「国際協調」や「国連」という枠組みが生まれたわけですけれど、歴史の風化とともにそれらが崩壊しつつあることに、私も強い危機感を抱いています。ぜひ皆さんには、「自分たちだけよければいい」という発想ではなくて、「困っているときはお互いさま」という考えを忘れずにいてほしいです。
M 本当ですね。その言葉、胸に刻みます。今日は貴重なお話をありがとうございました。世界を支える皆さんへのリスペクトを胸に、自分にできる発信とアクションを続けていきます!


