2021.03.08

祈る者として生きる【UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音】

UMMMI./うみ
1993年東京都生まれの映像作家。これまでに、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに作品を発表。ルイ ヴィトンやアディダスなどのファッションブランドとの仕事の傍ら、音楽好きな一面を生かしMVを制作。

vol.1 祈る者として生きる

『微熱』
Le Makeup
『The Loneliest Punk』
Fatlip

 今回から連載を担当するUMMMI.です。あまりにも冗談めいたこの世界で、今何が起きているのか?ということを、ここでは音楽と絡めて話していくつもり。2020年から世界中で新型コロナウイルスがはやり、アタシも2年間住んでいたロンドンから日本に戻ってきた。その後は、去年の秋に仕事で訪れた北九州が大好きになって、見知らぬこの場所でしばらく生きていくことに決めた。北九州では毎週、東八幡キリスト教会の礼拝に通っている。まだ少し眠たいぼーっとした頭でバスに揺られながらLe Makeupのアルバム『微熱』を聴いて教会に向かう。「神様がいるなら/あの子に光を」「悲しさは広ささ/声が響くから祈ることしかできないのに」。祈る者としての静かな叫びのような、Le Makeupの音楽。もはや聖歌じゃん。東京から遠く離れたまだ誰のこともよく知らないこの街で、ひとり生きていけるような気持ちになる。でも、もちろん人間はひとりで生きていくことなんてできない。だからこそ、まだ出会ったことない、どこかで苦しんでいるかもしれない人々の生活を心配する。何もできないけれど、想像力を働かせて祈ることならアタシにもできるから。元The PharcydeのFatlipも、祈る者として生きるラッパーである。「音楽なんて毎日辞めたいと思っている。でも、もしホームレスになったとしても、『食べ物ください。ラップします』って紙を持って、路上に座ることしか俺にはできない」と、とあるインタビューで語っていた。ここまで覚悟を決めて(あるいは諦めのように)歌い続けるその姿は、懸命な祈りとして音楽に立ち現れる。先の見えないこの時代、祈ったところで何になるかなんてわからないけれど、流れに任せてアタシは祈る者として生きてみよう。

Monthly Pick-up

『Welfare Jazz』
Viagra Boys
¥2,200/Big Nothing
 スウェーデン発、バッドテイストを装った技巧派バンドが2 作目を完成させた。カントリーもパンクもディスコも雑然と投げ込み、ダミ声で自分にも世界にも冷笑を浴びせる彼らの曲は、どこを切ってもバンド名が醸す、いかがわしさが充満しているけれど、妙にキャッチーで放っておけない。
『Believer』
Smerz
¥2,200/BEAT RECORDS
 スメーツは10年近く秘密めいたコラボを続けている、ノルウェー人の女性デュオだ。満を持してリリースされた、ふたりのデビュー作には、R&Bとクラシック、地元の民族音楽とトランスが共存。ウルトラモダンとノスタルジアが交錯し、思いがけない音や声が次々に放たれて、異形のハーモニーを奏でる。

SOURCE:SPUR 2021年4月号「UMMMI.の社会とアタシをつなぐ音」
text: UMMMI. text(Monthly Pick-up): Hiroko Shintani edit: Ayana Takeuchi

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