岩合光昭さんのまわり

「セレンゲティに行こう」。ある日突然、夫にそう切り出されたら、まずはセレンゲティがどこかから確認しなくてはなりません。セレンゲティはアフリカ・タンザニアの国立公園。公園といっても平原が果てしなく広がり、多くの野生動物が生息しているサバンナです。この場所で1982年から一年半を暮らしたのは、動物写真家の岩合光昭さんと妻の日出子さん、4歳の娘の薫ちゃんの家族。『アフリカポレポレ』は日出子さんが、夫光昭さんの取材に同行したセレンゲティでの生活を書いたエッセイです。

水が確保できず食事や洗濯に困ったり、家がヌーに囲まれたり、ワイルドすぎる毎日の生活が淡々とした文体で、でも、とてもいきいきと伝わってきます。大自然のなかで薫ちゃんの成長する様も魅力的。もちろん若き日の岩合光昭さんについても、わかります。

自分がこの本を読んだときは、まだ子供だったので、野生のキリンが毎日遊びにくる家に住みたいなどと気軽に夢見ていましたが、もし親の立場だったらと今になれば分かる大変さ。しかも1982年のことですからね。ちなみに、この本で私が好きなのは、徹底的に生活する人の目線で書かれていること。先述のヌーの群れに囲まれたエピソードでも、ヌーについてくるハエがものすごくて、家の中でも食事するのに苦労した話や、それを追い払う薫ちゃんの様子など、リアルな生活のシーンが描かれていて、自分もそこで暮らしたかのような追体験ができます。本当にタイヘン、だけどなんてワクワクする毎日だろうかと。

岩合さんのまわりで好きな話をもうひとつ。

岩合さんといえば、猫好きの人間のみならず、猫たちの間でも岩合さんに撮られたいと撮影依頼が殺到しているとかいないとかいうウワサですが、こちらのコミックアンソロジー『猫本』のなかで「岩合光 明」(いわごうみつ あきら)なる天才動物写真家とセッションしているのは、『What's Michael?』のマイケル。あの二人(?)が道でばったり出会ったら? こんな展開があるかもしれない!と何度も読み返してしまうお気に入りのストーリーです。作者の小林まことさんによると、「イブニング」に掲載した際、漫画を見た岩合光昭さん本人から喜んで連絡があったそう。その結果、漫画は岩合さんの写真集『ニッポンの猫』にも収録されています。

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エディターIWAHANA

日々、モード修行中。メンズとレディースを行ったり来たりしています。書籍担当。どうぞよろしくお願いします。