はじめてのイタリア靴 ― 忘れられない服 ―

 

歩くことが苦手だったわたし。足が痛くならない靴なんてあるのかなと思い悩んでいた頃、大好きなセレクトショップのカタログに載っていたパンプスにひと目惚れ。田舎の高校生だった私に6万円の靴は高価な買い物。何度も何度もカタログを見た。お店に問い合わせると在庫があり、イタリア製ということを知った。イタリアは靴の国と言うし、この靴なら歩くのが楽しくなるかも、と次の休日に東京まで新幹線で向かった。お店で靴を見つけた瞬間、こんなスリムなパンプスに足が入るのかな?と疑問を感じた。けれど足を入れた瞬間、自分の足じゃないくらい小さく美しく見える。それにとっても柔らかい。6cmヒールなのに、ヒールを履いている感じがしないくらい履きやすい。こんなにかわいいのに、こんなに履きやすいなんて! 

それから不思議とこの靴を履くと足が痛かったことは一度もなく、一番のお気に入りでたくさん履いた。それまで靴の修理なんてしたこともなかったのに、大切な靴だからと東京の修理屋さんまでわざわざ何度も足を運んだ。10年以上も履き続けて、ついに修理屋さんに「もう今回が最後になりそうですね」と。長い間共に歩いてきたから体の一部がなくなるくらいショックだったけど、感謝の気持ちでいっぱいだった。あの靴に出会って以来、手持ちの靴のほとんどがイタリア製になった。今までもっと高価な靴をたくさん買ったけど、あの靴以上に履きやすく大切な靴はない。

(神奈川県 33歳 tp)

※この企画は毎月最終日曜日20時に公開していきます。次回は12月31日(日)20時公開予定です

日本発のモード誌『SPUR』は参加型の新企画「SPUR ナショナル・ファッションストーリー・プロジェクト」を2016年4月より始動しました。このプロジェクトは、皆様のファッションにまつわるエピソードを、SPURが物語としてまとめていくものです。お寄せいただいたエピソードのうち、こちらのコーナーでご紹介させていただいた方には、同時に掲載する描き下ろしイラストをポストカードにしたものと、iTunesギフト1,500円分を差し上げます。性別や年齢は問いません。‪あなたのファッションとのエピソードを応募してみませんか?  詳しくは特設ページにて。


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