デリシャス・フローラルな香りのヒントは、バラのジャム

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(右)「ミス ディオール」のラインから人気の作品をピックアップ。マンダリンとベルガモットが弾けるトップに続き、幸せの象徴であるグラース産のローズとピオニーが豊潤に香るミドルノートへ。そしてホワイトムスクの包み込むようなやさしいベースで幕を閉じるエレガントなフレグランス。
ミス ディオール ブルーミング ブーケ(オードゥトワレ)(50ml)¥9,000・(30ml)¥6,000/パルファン・クリスチャン・ディオール

(左)幕開けはみずみずしい赤い果実のカクテル。ラズベリーとザクロ、ブラックカラントがデリシャスなオープニングを奏でる。ハートノートは蜂蜜とペッパーがかすかに香るローズ ドゥ メが主役。同じローズでもより濃厚で、優美なダマスクローズがブレンドされていることで、深みのあるバラの多重奏に。グラース産のバラのジャムにインスパイアされただけあり、ビターな香りはいっさい含まず、どこまでもポジティブなハーモニーに。
ミス ディオール アブソリュートリー ブルーミング(オードゥ パルファン)(50ml)¥12,000・(30ml)¥8,000/パルファン・クリスチャン・ディオール

アルメルとの契約の決め手は情熱。文化や職人技を守っていこうとする志。そう語るのはドゥマシー氏だ。

「彼女のバラに対する情熱には共感を覚えました。ひとつの賭けではあったのですが、どちらかが新しい第一歩を踏み出さなくては物事は動きません。そう、男女が出会ったときのように」

そうほほえむ彼自身、カンヌに生まれ、グラースを身近に体感しながら育った調香師だ。この土地のテロワールを熟知している。

「グラースは海と山に挟まれた特別な地形をもっています。海からの水蒸気が山にぶつかり、ときにミストラルが吹き降りる。寒暖の差が激しい。そういう気候をバラは好みます。この特別な土地で育まれたローズ ドゥ メには不思議な特徴があって、蜂蜜のような甘い香りがする。手摘みするとよくわかるのですが、少し指の先にこしょうのような深みも残る。そんなアブソリュートが、『ミス ディオール』に用いられているのです」

バラは食用としての側面ももっている。名産品のひとつが、バラのジャムだ。

「やさしさと香りに富み、とてもおいしい。そんな味にフラワーノートが出会ったら? そこから新しい香りの旅は始まりました」

グルマンノートは旬の潮流ではあるけれど、彼が思い描いたのは単なる「おいしさ」ではなかった。プラリネやリコリス、チョコレートの甘ったるさではなく、フローラルな軽やかさはどう表現すればいいか? ひらめいたのがラ コル ノワール城の畑で栽培されていた赤いフルーツの香り。ムッシュ ディオールが思わず畑の果実に手を伸ばし、そのまま味見していたというみずみずしい果物のうまみだ。

「メインはラズベリー。黒すぐりやフランボワーズなどの赤い森の果実もイメージしました。頰ばりたくなるような弾けるトップノートです。ミドルは蜂蜜の甘さとペッパーのようなスパイシーなニュアンスのある甘美なローズ。加えてピオニーが軸となり、ベースは力のあるホワイト ムスクが受け止めます。『おいしい』をフローラルで表現したアプローチは新鮮でした」  

かくして生まれた新作が、「ミス ディオール アブソリュートリー ブルーミング」。プロヴァンスの豊かな土壌で育まれ、5月の早朝に摘まれた力強いローズ ドゥ メの神髄と、グルマンなムッシュ ディオールへの想いが見事に出会った芳香だ。

ムッシュの妹、カトリーヌ自身も生涯を通じて花を愛した女性だった。実際にディオール家の別荘でバラの花を収穫する様子をとらえた写真も残っている。戦時中はレジスタンス運動に参加し、勇敢な自由主義者でもあったカトリーヌの名を冠したこの香水は、自由を謳歌する現代のすべての「ミス ディオール」のために、ムッシュ ディオールから届いたかけがえのないバラの花束でもあるのだ。

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エディターIGARASHI

おしゃれスナップ、モデル連載コラム、美容専門誌などを経て現職。
趣味は相撲観戦、SPURおやつ部員。

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