【シャネル】糸が生む立体美。ポップコーン刺しゅうの秘密に迫る

シャネル特有のコレクション「メティエダール」を支えるのは複合施設le19Mにアトリエを構える「メゾンダール」の数々。普段は表に出ない職人たちを訪ねて、話を聞いた

シャネル特有のコレクション「メティエダール」を支えるのは複合施設le19Mにアトリエを構える「メゾンダール」の数々。普段は表に出ない職人たちを訪ねて、話を聞いた

INDEX

メティエダールとは

シャネルのメティエダール

ガブリエル・シャネルは最高峰の手仕事を取り入れた逸品を作るために、「メティエダール(芸術的な手仕事)」を受け継ぐ職人たちとの密接なコラボレーションを続けていた。そしてシャネルが創業者の意を汲み、サヴォアフェールを守り、推奨して自社に招き入れるようになったのが、歴史があり熟練した職人たちが特定の技術を極めるアトリエ、いわゆる"メゾンダール"だ。

1985年にこの取り組みの序章を飾ったのは、装飾ボタンで知られる「デリュ」とのパートナーシップ。仕立て靴の「マサロ」、羽根細工、花細工からテキスタイル加工までを手がける「ルマリエ」もあとに続いた。2002年からは、職人たちの仕事を讃えるメティエダール コレクションが、毎年12月に発表されている。その後もパーマネントプリーツの「ロニオン」やシャネルとの関わりが深い金細工の「ゴッサンス」を加え、今ではメゾンダールは11にもおよぶ。そして2021年には、パリ19区に完成した建物le19Mにメゾンダールが結集し、創造と技術の相互関係をより深めるようになった。

今回SPURは特別に、このle19Mで帽子の「メゾン ミッシェル」、創作刺しゅうの「アトリエ モンテックス」、そして刺しゅうとツイードの「ルサージュ」のアトリエに潜入。最新の2026年 メティエダール コレクションで発表された作品の制作風景を密着取材するとともに、職人の素顔に迫った。

Atelier Montex(アトリエ モンテックス)

Atelier Montex(アトリエ モンテックス)

ボリューム感が新しい、ポップコーン刺しゅう

Q

この仕事はどういう経緯で始めましたか?


A

若いときから絨毯職人として働いていましたが、体力の要る仕事で、もっと繊細な何かをしたいと思い始めました。その頃たまたま見た、モードの世界のメティエダールを総括した本で魅せられたのが、とてもクリエイティブな刺しゅう。それで刺しゅうの基本を習おうと、専門学校に通い、パリ市の夜間コースも取ったんです。卒業後、多様な素材使いとボリュームのある刺しゅうで定評のある、憧れのモンテックスに入ることができました。

Q

あなたの仕事の、具体的な内容を教えてください。


A

サンプルづくりです。デザインチームから求められたことを具現化するのが先決ですが、アトリエ モンテックスのアーティスティック ディレクターであるアスカ・ヤマシタを通じて、こちらから技術を生かしてのアイデアを提案することも多々あります。それはモンテックスのエスプリでもあるので。

Q

あなた独自のスタイルと言えるものはありますか?


A

基本的な、いわゆる針刺しゅうやかぎ針を使う伝統的なリュネヴィル刺しゅうの技術はものにしています。でももっと新しいことに挑みたくて、レパートリーの範囲をデコパージュやコラージュにも広げたんです。硬い素材に針を通すためのツール、ドレメルの使い方もマスターしました。技術を開拓したり思いがけない素材を試したりすることもよくあります。

Q

今回の刺しゅうについて詳しいことを教えてください。


A

ラフィアを取り入れた、ボリュームのあるポップコーン刺しゅうです。ラフィアを使うことは新しくはないですが、アーカイブスからのサンプルを基本に、結び目やビーズを加えてボリュームを出しました。つまり平面の図案を、立体的に仕上げたのです。ラフィア自体は針を通すと裂けてしまいますから、布の表側にモチーフのラインを描くように置き、糸でラフィアを固定していきます。さらに、ニュアンスのある色合いも加えました。

Q

困難に直面したら、どう取り組みますか?


A

まずは自分のやり方を見直し、同僚たちとも話し合います。

Q

いい職人でいるために心がけていることは何ですか?


A

刺しゅうに限らず、いろいろな分野に関して常に新しいことに目を向けています。ですから展覧会にはよく出向きますね。そして毎日欠かさないのは、手仕事。刺しゅうとあまり遠くはありませんが縫い物、そして料理、日曜大工まで。新しいツールを試すのも楽しいですね。基本に立ち返るのも大切ですから、25,000もある自社のアーカイブスも参照しますよ。

Q

メティエダール コレクションのやりがいは何ですか?


A

私たちの腕の見せどころであり、クリエーションに参加して自分なりの表現ができる機会でもあるので、励みになります。もっともっと新しいことをやっていこうという気持ちにさせてくれるんです。

創作刺しゅうの「アトリエ モンテックス」

1 素材を観察。ラフィアにどの間隔で結び目を入れ、ビーズをどう組み合わせていくかを検討する 2 図案は素材別に異なる色で描かれている 3 パーツの試作も、大事な工程の一つ 4 実際に刺しゅうをする段階では、針を布の表へ、裏へ、と通す作業がきれいにできるよう、まずは布を器具で挟んでピンと張らせる

Agathe Crinon プロフィール画像
Agathe Crinon

アガート・クリノン●専門学校で刺しゅうを習得。14年前に入社し、Studio MTX 部門(現在は独立してle19Mの一部)の、次いでアトリエ モンテックスの試作を担う。

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