東京を中心に広がる、フェミニンな甘さがありながらもそぎ落とされたピュアなスタイル。そんなムードの服を、スタイリスト小嶋智子さんが東京ベースの8ブランドからセレクトした。
東京を中心に広がる、フェミニンな甘さがありながらもそぎ落とされたピュアなスタイル。そんなムードの服を、スタイリスト小嶋智子さんが東京ベースの8ブランドからセレクトした。
ユークロニア デザイナー 佐藤百華 × スタイリスト 小嶋智子
大人の女性をとびきり素敵に見せるレース
小嶋智子(以下小嶋) ユークロニアには、撮影で本当に助けられています。レースのアイテムをいくつ重ねてもクリーンさが保たれていて、着る人になじむんです。「衣装」っぽくならない。その秘密が知りたいです。
佐藤百華(以下佐藤) もともと甘すぎるレースは好きではなくて。ヴィンテージレースの、ほろほろと壊れてしまいそうな繊細さに惹かれていたんです。ブランドを立ち上げる際にも、女性の可愛らしさというよりは、静かでポエティックな内面を引き出せるような服を作っていきたいと思っていました。
小嶋 すごく納得感があります。ユークロニアの服は撮影現場に持っていくたびに、40代以上の女性スタッフ、特にレース好きの方々にすごく好評で。毎回驚きの声が上がります。若い人にはもちろんのこと、大人の女性を素敵に見せてくれる。私自身、幼少期には母からフリフリのドレスを姉妹お揃いで着せられていて、思春期にはそれが嫌になったことも。大人になってまたレースに出合い、やっぱり好きだなぁとよく着ていたものの、さらに年齢を重ねるとなんだかレースの甘さがしっくりこなくなってしまって。そんな矢先に出合ったのがユークロニアだったんです。40代、50代でも似合ってしまう、固定観念を飛び越えるパワーがある。
佐藤 ものづくりの上で心に描いているのはソフィ・カルやピナ・バウシュ。彼女たちが生涯を通してまとったとしても美しく映るようなレースの服を作れたらと思ってます。内向的だけれど力強く繊細な作品を生み出すアーティストに惹かれるので、その影響があるのかもしれません。
小嶋 佐藤さんが思い描く女性像がそもそもすごく大人だから、幅広い年齢の人に刺さるんですね。今回の撮影でお借りしたような肌が透けるアイテムが人気ですが、肌の見え方とレースの関係性はどう考えていますか?
佐藤 肌に直接当たるという点で研究したのは下着としてのレースの歴史です。身につけて自分自身が心地よいと感じること。他人に見せるためではなく、近くで自分が見たときに美しいと思えること。そんな質のよいランジェリーの要素を服に落とし込めたらと思っています。
小嶋 そぎ落とすところはぎりぎりまでそぎ落として、大切なエッセンスを残す。その残し方にセンスが出ると思うのですが、ユークロニアのレースの表現にはそれを感じます。「ミニマルロマンティック」ってそういう美学だと思うんですが、ちょっと日本的な、わびさびにも近い考え方なのかもしれないですね。ちなみに海外での反応はどうですか?
佐藤 おかげさまで、少しずつ買いつけが増えています。どの体型でも着られる、ストレッチのきいたレースは特に好評です。レースはヨーロッパ発祥ではあるものの、世界中のメーカーが日本の工場に発注しているほど、国内の技術力には定評がある。私たちもメイド・イン・ジャパンのものづくりにこだわっています。
文化服装学院を卒業後、大手アパレルにデザイナーとして入社。イギリスのノッティンガム芸術大学で服飾を学ぶ。レースに魅了され、自身で技術を磨きながら2022年にユークロニアを立ち上げる。
pan デザイナー 尾崎美佳 × スタイリスト 小嶋智子
まとう人の体に真摯に向き合い続ける
小嶋 最初にリースに伺った際に試着して、驚きました。体の、拾ってほしくない線は拾わずに、きゃしゃな部分はきれいに見せてくれる。そういう服って本当に珍しい。なぜここまで女性の体を熟知しているの?と思うほどです。
尾崎美佳(以下尾崎) ありがとうございます。私は服飾学校で学んだことはないんですが、映画が好きだったので、画角や表現を学ぶために写真の学校へ通いました。写真家のアシスタントを務めつつ、女性の日常をテーマにしたヌード写真の作品に取り組んでいまして……。
小嶋 そうだったんですね。とても腑に落ちます。そのときの哲学や目線が、服のラインに息づいている感じがします。
尾崎 確かにつながっているのかもしれません。そのあとはアパレルの販売員として働き、多くの女性のお客さまに接していたのですが、そこでたくさんの方々の、“好き”と“嫌なこと”を聞いた経験も服作りに生きています。約10年間にわたる接客で得た「お客さまとの対話」は特に根幹をなしています。今もお客さまをショールームに呼ぶたびに対話を重ねて、試着したお客さまの体に向き合い、フィードバックを次のクリエーションに反映します。たとえば定番のパンツは、股上が深いんですが、それはお尻のラインを出さないようにするため。ヒールを履く人もいればフラットを履く人もいるから、着こなしの自由度を広げたいという思いもありました。実際に着る人の悩みくらい、作り手側が配慮しておきたい。“生まれたままを受け入れて”というのは、誰もができることではないからこそ、デザインで身体をつくるという意識を少しでもpanの服作りに取り入れています。
小嶋 今って日に日にファッションへの目線が厳しくなっています。「本当にこんなにたくさん必要?」というくらい服があふれている時代に、着る人の体にとことん向き合い、奇をてらわずに、でもピュアな驚きがある服って珍しい。積み上げられた努力に感動します。着たときに、自分の理想をかなえてくれる服だと思います。
尾崎 ありがとうございます。美しく見える細部の作りは、いつも大切にしています。ウィメンズウェアはドレス文化をルーツに持ち、美しさや感性を大切に育まれてきました。ウィメンズの服を作っていくうちに、今度はメンズのテーラリングの構造やロジックを学びたいと感じるようになりました。実際前職で2年間メンズを担当したことで、細部の仕様に理由をもって服を作る考え方を深く学ぶことができました。
小嶋 確かに女性って、“なんか可愛い”で服を着ることができていたのに、年齢を重ねるとあるとき急にそうはいかなくなる。そこで迷子になっている人たちの体に、panの服はそっと寄り添いながらカバーしてくれるんです。ブランドが描く女性像はどういう人ですか?
尾崎 天邪鬼なんですが、いい大人が舌を出すような感覚を大事にしていて。少女性を残しているというか、いつまでも大人になりきれないというか。優雅なもの、厳格なものも好きですが、クラシカルさとそれを裏切る危うさがそのまま共存している世界観が好きです。どこかに行ってしまいそうな女性、と言いますか。
小嶋 すごく共感します。実は、昔の黄桜のCMが好きなんです。胸やお尻も全部出てしまってる、やたらと色気のある河童が、普通に家族でお花見してて。色っぽいのに、自然体。あの世界観が心に残っています。人間も動物として生きているんだと確認できる、ほんの少しの野性味が私の考える色気。靴擦れしたら、サンダルを持って裸足で帰ってしまうような、少女の心を忘れたくない。ロマンティックな優雅さに自由な色気を一滴足した女性像に惹かれるのですが、panの服にもそんな空気を感じます。
写真を学び、カメラマンアシスタントとして活動したのち、大手アパレル会社に入社。15年間で、販売、プレス、バイヤー、ブランドの立ち上げを経験。2022年にpanを設立した。
青木千加子さんに師事し、2015年に独立。モード誌、広告を中心に活躍する。ロマンティックなスタイリングに定評があり女優、タレントからの支持も厚い。








