いびつなハートの応援歌【PREEK】#107

街路樹の葉が色づき、近所の雑貨屋の店先にクリスマスツリーが飾られ始めた。夕飯の買い出しで立ち寄ったスーパーでは、早くもしめ縄飾りが売られている。息つく暇もなく、今年も年末がやってきた。ドタバタと、せわしない足音を立てて。

行きたいところは山ほどある。なのに今すぐやるべきことが波のように押し寄せてきて、1日の大半をラップトップの画面と睨めっこしながら過ごしている。かつて昭和の時代にチェッカーズとして一世を風靡したやんちゃな少年たちが生意気に歌ったように、令和を奔走する中年の私もまた「心はギザギザ」である。わかってくれとは言わないが、わかってくれる人もいると信じたい。

芦沢佳澄さんがデザインするプリークのリング

キーボードをカタカタしたり、スマホの画面をタップしたり。何かとぎすぎすした手もとに添えたいユーモアは、ギザギザハートならぬ、いびつなハート。芦沢佳澄さんがデザインするプリークのリングは、まるで子どもが描いたような奔放なシェイプが愛おしい。この程よい脱力感こそ、まさに今の自分が求めているものなんじゃないかと思っている。

形こそラフではあるが、作りはじつに繊細だ。原石から削り出されたハートモチーフが、シルバー925の地金に寸分の隙もなくセットされている。技巧を凝らし、あえて形を崩す美学。日本有数のジュエリー産地、山梨県甲府市の伝統工芸士による高度な職人技が活かされている。

鉄紺のような深い色に、ところどころ褐色がにじむ色石は、まるで複雑な心と対峙しているかのよう。ピーターサイトと呼ばれるその石は、持ち主の心の迷いや不安を取り去る「前進の石」といわれている。嵐のような忙しさに追われても、厳しい逆風に立たされても、この独特のうねりのある石の模様に視線を向けるたび、自分自身を見つめ直す時間を持てるような気がする。

ハートの輪郭を縁取るのは、上品なグレーダイヤモンド。
リング 各¥110,000

ハートの輪郭を縁取るのは、上品なグレーダイヤモンド。純白とはひと味違う落ち着いた輝きが、石の個性をまろやかに中和する。さながらカクテルグラスの縁にまぶした塩のように、リングの意匠に深みを与えている。

指に宿るのは、強さと温もりと、自由なマインド。「完璧なんて、つまらないでしょ」そんな作り手のチャーミングなメッセージが伝わってくるよう。

リング〈SV925、ピーターサイト〉¥110,000
リング〈SV925、ピーターサイト〉¥110,000

誰だって、歪んだ心を持っている。余裕がなくて意地悪を言ってみたり、自信がなくて卑屈な考え方をしたりすることもあるし、生きていれば思いもよらないことが起きたりもする。いつ何時もきれいなハートの持ち主でなんかいられないのだ。もしも「性格歪んでるね」などと言われたら、「そんなに悪いことですかね?」と開き直ってしまえばいい。

感情をうまく吐き出せないときは、手もとに寄り添ういびつなハートを眺めてみよう。「あなたは、あなたのままでいいんだよ」と、優しく背中を押してくれるかもしれない。

エイチ ビューティー&ユース(PREEK)
https://store.united-arrows.co.jp/
050-8890-9491

連載「寝ても覚めてもきらめきたいの」:SPURエディターがパーソナルな感情とともに綴るジュエリーエッセイを堪能して。

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