地域の不安に寄り添い、増える犯罪や事故を未然に防ぐ
人気のない夜道をひとりで歩く女性、学校の帰り道をひとりで歩く子ども、ひとりで外出する高齢者、災害や事故。私たちが暮らす町には、いたるところに不安や危険が潜んでいる。
日本は世界的に見ても安全な国といわれているが、それでも日々、各地で多くの犯罪が起きている。警察庁の統計によると、2025年度の刑法犯認知件数は77万4,142件で、うち街頭犯罪の認知件数は25万8,733件。2003年から2021年まで一貫して減少してきたが、2022年から4年連続で増加している。13歳未満の子どもが路上で被害にあうケースや、帰宅途中の女性を狙った街頭犯罪も後を絶たない。ストーカー事案の相談等件数も2万2,881件(前年比16.9%増加)と、依然として高い水準で推移している*。
安全を脅かすものは犯罪だけではない。近年は温暖化の影響による異常気象の増加に伴い、夏の水難事故が多発している。2024年の水難発生件数は1,535件で、過去10年間で最多となった**。
超高齢社会の日本では、認知症で行方不明になる人の数も年々増加傾向にあり、2024年は1万8,121人と発表されている。大半の人は無事に発見されているが、見つかるまでに日数がかかるケースも少なくない***。
地域コミュニティの衰退により、人間関係が希薄化していることも深刻な問題だ。「誰かが助けるだろう」「トラブルに巻き込まれたくない」そんなふうに見て見ぬふりをする無関心な社会が、孤立を深めている。
パトランは、こうした社会課題に取り組むべく生まれた、市民主体の防犯・救命活動だ。「その走りは『ため』になる」をスローガンに、町の異変に気づき、声をかけ、手を差し伸べることで、犯罪や重大事故を未然に防ぐことを目指す。
異変に気づいてから行動するまで、180秒の勇気
パトランの主な活動内容は、夜間や通学時間帯のパトロール、道路や建物の危険箇所の発見と報告、環境美化、そして救命・救助がある。たとえば、街灯切れや不法投棄、不審人物・車両を見かけたら自治体や警察に報告したり、ゴミを「星くず」と表現して拾い集める「星くずひろい」を行ったり、事故現場に遭遇したら現場対応を行ったり。路上にあるさまざまな問題を、ランニングしながら解決する手助けをする。
パトランJAPAN代表の立花祐平さんは、昨今はとりわけ救命・救助の可能性を強く感じていると話す。
「2023年の夏、福岡県宮若市で3人の小学生が川で遊んでいる最中に溺れ、命を落としました。夏休みの初日に起きた痛ましい水難事故で、それ以来パトランでも救命活動を意識するようになりました。これまでに全国各地で行った救命・救助活動は300件以上にのぼります。路上で倒れて意識不明になっていた高校生の救助や、外出して行方がわからなくなった認知症の方の保護、マラソン大会でのランナーの救護活動などに貢献してきました」

パトランJAPAN代表の立花祐平さん
パトランが掲げるのは、「180秒以内に行動する」こと。いざというときに勇気をもって困っている人に声をかけ、救命できる人を増やしていきたいと立花さんは言う。「180秒は、人が倒れてから救命措置が始まるまでの、運命を左右する時間でもあります。救命知識をもち、早急に対応できる仲間が増えていくことで、救える命があると感じています」
赤いユニフォームを着れば、誰でも参加できる
福岡県で5人で始めたパトランの活動は、十数年で日本全国(46の都道府県)に広がり、登録メンバーはおよそ4,000人になった。年齢層は幅広く、特に40代が積極的に活動している。
パトランに参加するには、個人での活動とチームでの活動の2パターンがある。前者の場合は、パトランWEBサイトでメンバー登録(無料)し、赤いユニフォームを購入して着用すれば、好きな場所でいつでも気軽に活動できる。パトランしながら出勤する人、子連れで参加する人、星くずひろいをしながらウォーキングする人、それぞれが自分に合ったスタイルで、無理のない範囲で続けられるのが魅力だ。
後者の場合、全国各地で活動している19の公式チームの中から希望するところに登録し、各チームが行っている合同パトランに参加する。規定の条件を満たせば、新たにチームを設立することもできる。チームで活動することによってメンバー同士の交流が深まり、人とのつながりが生まれることで、孤立化の予防が期待される。
企業や学校が主体となって取り組む「パトランクラブチーム」もある。現在、スイス発のスポーツブランド、On(オン)の日本法人であるオン・ジャパンをはじめ、高校や大学など9チームが活動している。立花さんは、企業との連携を積極的に進めていきたいと話す。
「昨今、社会貢献に取り組む企業が増えてきたことにより、さまざまな企業からパトランを実施したいとお声がけいただくようになりました。今年に入って、新たに企業向けのパトラン体験プログラムを整備したので、CSRや従業員の健康促進、人材育成の面で活用いただきたいと考えています」
広がるパトランの輪。世界に向けて
パトランでは、独自のWEB集計ツール「パトっち」を活用し、これまでの実績を可視化させてきた。メンバーが活動情報を記録することによって、パトラン全体の活動人数や時間、成果を抽出できる仕組みだ。2025年度のパトラン回数は39,551回。パトランが始まってから、のべ20万人以上が活動に取り組んできた。
活動エリアも人数も順調に増え続けている一方、財源不足という課題もあると立花さんは言う。「バックオフィスの人材の余力がなく、メンバーの活動を十分にサポートできていないのが現状です。我々の行う活動分野は寄付への理解を得にくいのですが、活動に共感してくださる寄付者を地道に増やしていく必要があります」
目指すのは、全世界にパトランを普及させること。毎年8月には「World Patorun Month(WPM)」を開催し、メンバー以外の人もパトランに参加できる機会を設けている。アジアを中心に、海外でも徐々に活動の輪が広がっているなか、さらに多くの国々へ展開していきたいと立花さんは意気込む。
健康維持のため、仲間づくりのため、地域に貢献するため。パトランへの参加理由は人それぞれだ。自分なりの目的を持ち、普段の生活では出会えない人とコミュニケーションをとり、楽しく参加することが、ひいては社会のためになる。自分たちが住む町をより安心できる場所にするために、まずは気軽にパトランに参加してみてはどうだろう。ランニング初心者でも大丈夫。仲間はきっと近くにいるはずだ。
*警察庁「令和7年の犯罪情勢」より
**警察庁「令和6年における水難の概況等」より
***警察庁「令和6年における行方不明者届受理の状況」より