中絶について偏見なく話せる社会へ。『中絶がわかる本』から学び、みんなで考え語ろう!中絶・避妊編【フェムテック調査団/これからのわれわれの身体を語る!】

女性の身体まわりのモヤモヤ問題やフェムテックなどの新しい分野を探求する「フェムテック調査団」の連載は2020年にスタートしました。当初は生理についても人前で語るのが難しい状況でしたが、2年たった今はかなりそのハードルは下がってきています。
illustration:Shiori Clark


そして、今、われわれの身体のまわりで注視したいトピックが「中絶」です。昨年末、
80以上の国や地域で承認され、WHO=世界保健機関が安全で効果的だとして推奨(必須医薬品指定)している「経口中絶薬」が、イギリスの会社より日本の厚生労働省に承認申請されました。1年以内に承認の可否が出る予定ですが、認可された場合は国内初の「経口中絶薬」となり、手術をしない中絶法として、選択肢が増えることになります。しかし、母体保護法や費用などの問題もあります。

そこで、今知っておきたい「中絶と避妊」をテーマに、女性の身体や権利問題について詳しいライターの長田杏奈さん、『中絶がわかる本』の監修である北原みのりさん、「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんの3人に登壇いただきました。

フェムテック調査団メンバーを含めたウェビナーイベントの冒頭で触れた話が、GUCCIの2020年クルーズ コレクション。取材した翌日に、現地ローマでクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレにインタビューをしたSPUR統括編集長の五十嵐より語られました。

ランウェイを歩くジャケットの背中には「MY BODY MY CHOICE(私の身体は私が決める)」。70年代のフェミニズムのスローガンがあしらわれ、またイタリアで望まない妊娠について中絶が合法化された日付、1978年5月22日の数字がデザインされたほか、子宮全体に卵巣が刺しゅうされたドレスが披露されたコレクションのエピソードです。

翌日のインタビューで「1978.5.22」を大きくデザインした背景を問うと、クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレは
「自分の身体について決める権利は決して奪われてはいけない。だから教会にある碑文をイメージして、大きく日付を掲げた。人類にとって、また自由にとって、星が生まれるのと同じくらいに1978.5.22は重要な日なんです。なぜなら、それは女性たちが自由を勝ち取った大切な日であるから。最近はフェミニズムに対していろんなニュースがあるけれど、自分はそれに対して怒りを感じた。だから自分の服は自分の気持ち、意思と同じように反応したんで。今、それを言わなければならない」と答えたそうです。

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日本では中絶は認められていますが、しかし、われわれも今、重要なタイミングにあります。中絶は望まない妊娠の時だけに考えるだけでよいのか? いや違う、みんなで考えるべき問題です。現状、情報が足りていない背景もあり、今回のウェビナー開催に至りました。

ゲスト3人のトークは、避妊の話からスタート。避妊において、コンドームが主流であり、ピルはまだ少数派という日本。それとは大きく違い、避妊方法に様々な選択肢のある海外の現状や、種類豊富なそれぞれの方法、再生21分あたりからは中絶について語りました。アンケートを取りながら進めていますので、ご自身はどうか?と考えてみるのもよいかもしれません。「中絶のことを何で知りましたか?」という問いには、世代によって「ケータイ小説」、ドラマ「おしん」、「金八先生」などの声も。性教育の授業などで中絶の説明を受けた記憶がほとんど無いという結果もあり、きちんと学んだことがないという事態が明るみになりました。

母体保護法、配偶者の同意サイン、時期、費用、中絶の方法、中絶に対するスティグマ(負の烙印)などの問題点などにも触れています。全て、私たちが知っておきたい内容です。動画を見て、ぜひ考えてみてください。

『中絶がわかる本』(アジュマブックス)

ロビン・スティーブンソン著 塚原 久美 訳 福田 和子 解説 北原 みのり 監修
小学生に中絶のことや身体の権利について理解してもらおうと制作し、児童文学賞を受賞した一冊。児童書とはいえ、大人でも知らない情報が多いのでは。中絶に関して困難な状況を乗り越え、状況を変えてきた女性たちの話がまとめられています。ウェビナーイベント内でも北原さんが触れていますが、世界の各国事情の中には、日本に関する情報はありません。執筆者いわく、「日本の情報は入ってこない」と。それは「先進国であり、クールな国」と思われているという現状もあるそう。北原さん、福田さんいわく、現状を海外の人に話すと、多くの人が衝撃的な驚きを見せるとか。動画とあわせて、過去からの世界事情、そして身体に関する権利を読んで知ると、新たな発見や考えが芽生えるかもしれません。

ウェビナーで紹介された「中絶」が描かれた映画や動画、本など
「スリーウイメン この壁が話せたら」1996年 デミ・ムーア主演
「17歳の瞳に映る世界」2020年 タリア・ライダー主演
「彼女の権利、彼らの決断」https://www.netflix.com/jp/title/80192834
「セックスエデュケーション」https://www.netflix.com/jp/title/80197526
「ファザーファッカー」内田春菊(文春文庫)
『子どもを守る言葉「同意」って何?』(集英社)https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-333166-4


PROFILE

長田杏奈
ライター。美容をメインに、フェムケアや女性のからだまわりについての執筆やインタビュー記事も手がける。趣味は植物栽培。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)、責任編集に『エトセトラ VOL.3 私の私による私のための身体』(エトセトラブックス)。売上の一部は、maccannaの作成する「性暴力被害者支援のためのワンストップセンター短縮番号ステッカー」などにあてるバンダナをSUZURIで販売中

北原みのり
1970年神奈川県生まれ。作家。1996年にフェミニズムの視点で女性のためのセックストイや吸水ショーツなどを扱うショップ「ラブピースクラブ」を設立。著書に『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)、『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(朝日新聞出版)、など多数。代表を務めるアジュマブックスからは『ハヨンガ』などフェミニズム書籍を発行。性暴力などの女性差別に立ち向かうアクティビストとしても知られる。


福田和子
SRHR専門プログラムアナリスト。スウェーデン・ヨーテボリ大学大学院公衆衛生修士課程修了。留学先のスウェーデンで学ぶ中で、日本では特に若年女性のSRHRが守られていないと感じ、2018年5月「#なんでないの プロジェクト」をスタート。「#緊急避妊薬を薬局で プロジェクト」共同代表。ユネスコ『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】ー科学的根 拠に基づいたアプローチ』(明石書店)の共訳も手がける。