女性芸人の笑いは、どこへ向かうのか? これまでとこれからを考える

数多くの女性芸人への取材をしてきたライターの西澤千央さん。本企画を通して見えてきた、女性芸人のこれまでとこれから

女性芸人のイラスト

女性芸人に、彼女たちがぶち当たってきた「壁」について話を聞く『女芸人の壁』の取材を始めたのが2020年。さまざまな女性芸人たちの足跡をたどって来た。あれからさらに女性芸人の母数は増え、活躍の場も多岐に広がったように見える。今回の特集でも、その「変化」を随所に感じた。

スターを孤独に追いやった無自覚なバイアス

かつての女性芸人たちはテレビに一本釣りされる形でスターダムへと駆け上がっていった。そんな中、まだ芸歴が浅い状態で突然テレビの平場に立たされ、うまく立ち回ることができず、「やっぱり女芸人はおもんない」というレッテルに苦しんだ人も少なくない。周りには頼れる同期も先輩もいない。助け合うような関係性もない。なんなら一人だけ「売れた」ことで嫉妬の対象にもなる。「私は芸人として面白くない」……そうやって自信を失い、自分を見失っていく。彼女たちの多くが「孤独でした」と口にした。

彼女たちを「孤独」にしていたのは、女性芸人が少ないという「数」だけの問題ではない。私自身、自分はものすごくフラットで平等な人間だと思っていた。そして、たとえば熱いものに触ったときに反射的に手を引っ込めるように、面白いという感覚も自然と湧き上がる平等なものだと信じて疑わなかった。しかし実際に取材を進めるうち、自らのバイアスにどんどん気づかされていく。「女性芸人って面白いの?」という無自覚なバイアス。「女性芸人が賞レースの決勝に出られないのは、公平に見て面白くないからだ」という人がいる。果たしてそうなのだろうか。私たちは女性芸人を「公平に」見ているのだろうか。私たちのその無自覚なバイアスが、彼女たちを「孤独」に閉じ込めていたようにも感じるのである。

テレビも芸人界も、圧倒的男性社会であることは自明の事実。そして『女芸人の壁』のようなテーマを取材で話すことは、その社会の構成員として非常に立場を危うくする。多くの女性芸人にオファーを断られたし、それも当然の判断だと思った。「テレビの中でそのキャラになるのは嫌ですもんね」「『こいつはフェミだろう』みたいな言い方をしてくる。そんなところで世間に説明する役なんてしたくないじゃないですか」。双子の女性漫才師Dr.ハインリッヒは、取材の中でこう話していた。女性芸人への定番のフリ、容姿いじりに対して「感謝しながら傷ついていた」と話していたのは、「どこ見てんのよ!」で一世を風靡した青木さやか。お笑いというチームの一員としては「いじってくれてありがとうございます」であり、しかし心のどこかに穴があく。女性芸人たちの、これがリアルな感覚なのだろうと思った。

今年、女性芸人No.1を決める賞レース「THE W」が「一定の役割を終えた」として、9年の歴史に幕を下ろした。初代チャンピオンに輝いたのはピン芸人のゆりやんレトリィバァ。私が最初にゆりやんを見たのは、2012年NSCの夏合宿取材をしたとき。彼女は合宿の目玉として行われたネタ見せバトルで優勝した。女子っぽいネタでもあるあるでもない、堂々と自信たっぷりに、突拍子もないネタを披露していたのを覚えている。深いところで自分の面白さを信じているから揺るがない。新しい時代の女性芸人が登場したと思った。ゆりやんのその後の活躍は言わずもがなであるが、アメリカに拠点を移したのも、一つ日本のテレビの限界を示しているように思う。テレビが求める団体芸の中に身を置くより、一人で戦うことを選んだのだろう。

話術一つで関西のテレビ界に君臨した上沼恵美子は、大阪から出られない自身の状況をこう話した。「やっぱりね、革靴の上から水虫掻いてるようなもどかしさというのが、大阪にはあるんです。いくら頑張ってもローカルタレント」。夫から東京進出を禁止され、それに従った上沼。知名度の差にもどかしさを感じながら、その悔しさをパワーに変えて、「M−1」審査員まで任されるようになる。しかし、ただ一人の女性審査員、しかもほとんど東京のテレビに出ない上沼はお笑いミソジニーの標的になった。「『M−1』で暴言吐いた子もわかります。私を知らなかったんだと思いますから、仕方ないです。ローカルタレントの寂しさですね」。主婦として大阪に留まった上沼と、テレビの枠から抜け出し海外に渡ったゆりやん。対照的でありながら、どちらも「一人で戦う」ことを選べたのは、自身の「芸」への深い信頼ゆえかもしれない。

上沼の5歳下である山田邦子は、「オレたちひょうきん族」から人気に火がつき、全盛期にはテレビのレギュラーを週14本抱えていた超売れっ子。当時の話を聞くと「なんか全部調子よく、都合よく忘れていっちゃうんですけど」と笑う。山田の父親が怒ってスタジオに乗り込んでくるほど、強烈な容姿いじりをされていた彼女を支えていたのは、おそらくこの持ち前の「鈍感力」。「今でも思いますよ。男だったらなぁって。まだ思います。でも女の子だったから、人気になったんでしょうしね」という言葉が印象的だった。

空気を読まずに躍進する新世代の女性芸人たち

男ではなく女として、女芸人として面白くありたい。「私はもともと、女の子のためにお笑いをやろうという気持ちがすごく強くて」「男がわかんない話があってもいいじゃんと思って」。先日Instagramのストーリーにこんな文言を投稿したのは、男女コンビ「ドラマ☆麺」のナルちゃん。ABEMA「チャンスの時間」で女性ゲストにメイクをいじられ、それに対して「男社会でおじさんとうまくやってる女性」と反撃して話題になった。「空気を読まない」というのは、テレビバラエティにおける一番のタブーだ。でも自分の真意を押し殺してまで、テレビの論理につき合う気はない。自分を大切にする、その上でテレビでも売れたい。本特集の対談で、カーネーション吉田はそう話していた。これは本当に「変化」だ。

「ややこしい女性芸人」と思われることに怯え、男女差別もそういうものだとのみ込んで、前に進むしかなかった女性芸人たち。しかし今、彼女たちを縛りつけていた糸の一本一本を、彼女たち自身が解きつつある。一人にしない、先陣を切ってくれる人の後ろにいる、何かあったらいつでも助ける−−そんな力強い言葉が、この特集の中にはいくつもあふれている。世の中、変わらないものなんてないと、女性芸人たちは教えてくれる。

西澤千央プロフィール画像
西澤千央

にしざわ ちひろ●1976年、神奈川県生まれ。さまざまな媒体でインタビューやコラムを執筆しているフリーライター。著書である『女芸人の壁』(文藝春秋)が絶賛発売中。