使い終わったあとも美しく 考えよう!化粧品の捨て方と未来

私たちの心を躍らせる数々のコスメティックス。でもそれらを使い終わったときにどう捨てるかまでは、意外と知らないことも多い。正しい分別や回収の知識を身につけて、自信とときめきをくれた化粧品と気持ちよくお別れを!※各取り組みは、2022年SPUR8月号発売当時の情報になります。ブランドによっては変更している可能性があります。

大盛のぞみ(漫画家)
インスタグラムに投稿した漫画が反響を呼び、多くの媒体で連載を持つ。昨年めちゃコミックにて配信された『ダメな男じゃダメですか?』が今春ドラマ化され、話題に。著書に『覗き穴の向こう側』『とうきょう便利屋24時。』など。

お話を伺ったのは…
岳 裕介さん(武松商事 株式会社)
横浜市を中心に、ゴミの収集、運搬、処理を行う武松商事でブロック長を務める。日々驚異的な回収量をこなし、その情熱的な仕事ぶりがNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で特集され、大きな反響を呼んだ。

できていない分別は誰かがやってくれている

回収の現場から見た化粧品ゴミの現状はどうなっているのだろうか。
「世の中にSDGsやサステイナブルという言葉が浸透し、昔より正しい分別法が広がっている気がします。ただ、化粧品に関する分別は正しくできてないことが多いのも事実。確かに香水やネイルなど、捨て方が難しいものが多いですよね。間違った捨て方は、環境負荷や回収現場の混乱を招きます。そして最後は結局、専門の業者が手作業で選別しているんです。自分ができていないことが、何かの負担になっている、誰かが代わりにやってくれていることに想像力を巡らせると、少しずつ意識が変わっていくはず。それがみんなの当たり前になれば、世の中も変わっていくのではないでしょうか」

間違った捨て方をしている人には、自分の時間を使って分別法の指導に行くこともあるという岳さん。
「時間はかかりますが、目を見て話すと、ちゃんと理解してもらえるようになりますよ。僕自身は、ただ地元に恩返ししたい、子どもに誇れる背中を見せたいという個人的な気持ちで仕事に取り組んでいるだけなんです(笑)。それが社会のため、未来のためになればいいなと思います」

「捨てる」ことに正しく向き合う

分別には地域差があり、住んでいる自治体への確認も必要だが、基本的知識を知っておこう。また、個人の意識のあり方に関しても積極的に学んでいきたい。

教えてくれたのは…
株式会社 テンシュカク
新家喜夫さん・田中義彦さん
ゴミ屋敷清掃や遺品整理の専門業者「七福神」を展開する、"捨て方のプロ"。全国各地で活動し、リサイクルショップの経営も。化粧品ゴミはある程度集めてまとめて分別するのが効率的だそう。

化粧品ゴミをめぐる3つの「R」

まず理解しておきたいのが、世界的に広がっている「3R」という言葉です。リサイクル、リユース、リデュースの頭文字を取った3つの意識を、化粧品を使う側の目線で考えると左の図のようになります。分別して再生資源にするリサイクルも、必要な人に譲るリユースも、化粧品の場合は、特に労力がかかります。"ゴミを減らす(=リデュース)"意識を購入時に思い出し、捨てやすい容器を選ぶ、容器回収をしているブランドを選ぶことも大切です

捨て方美人になろう!

化粧品容器の大半を占めるプラスチック。現在は焼却炉の性能も上がり、多くの自治体で燃やすことが可能。ただし焼却炉の負担やCO2問題があるので、できる限り資源として再利用を

基本の分別方法

中身は水に流さず、袋に出す
大前提として"中身(特に液体)を容器に残したまま捨ててはいけない"ので、中身の残っているものは出す必要がある。ただしキッチンやトイレなど、水回りに流すのは水質汚染の原因になるのでNG。ポリ袋に不要な布や紙を入れ、液体は含ませるように、粉類もすべてそこに出そう。香水や化粧水などアルコールを含む液体がある場合は、そのまま捨てると収集車の引火の原因になる可能性も。ベランダなど屋外に1日放置し、揮発させてから可燃ゴミにする。きれいになった容器は、パーツごとに分解、プラスチックやガラスなど素材に分けてから、各資源ゴミに出そう。

スキンケア、香水など
液体・クリーム類

原則どおり、中身を完全に出し切る必要が。化粧水もオイルもクリームもすべて中身は出して可燃ゴミに、容器は各資源ゴミに。香水瓶の中にはスプレー部分が固定されていてはずれないものも。その場合、容器を割って中身を出し、割れたガラスを不燃ゴミに出す必要が。ケガのリスクがあるので、使い切るか必要な人に譲るのが賢明。

ネイルやマスカラなど
中身が残るアイテム

液体に粘度があって中身が出しにくいネイルは、綿棒などで可能な限りこそげ取ってきれいに。うまく出せれば容器はガラスの資源ゴミに回収される。ビンの形状的に難しい場合は、フタをしたまま不燃ゴミとして出そう。プラスチック容器のマスカラやリップグロスは、中身の液体ごと可燃ゴミに。

口紅、ハイライトスティックなど
固形の繰り出しタイプ

口紅やハイライトなどは、色材部分をポキッと折って可燃ゴミへ。容器に残った色材を、綿棒できれいに取り除き、容器はプラスチックの資源ゴミに。

ファンデーション、アイシャドウなど
パウダー・パレット類

ルースパウダーはそのまま中身を出す。パレットタイプはプレスト面の端を針やカッターナイフなどの先端で突っついて取りはずす。取り出した粉は可燃ゴミ、パレットはプラスチックの資源ゴミに。ミラー部分は材質が鏡かプラスチックかによるが、前者であれば、容器の上半分をバキッと折って分け、不燃ゴミに。パフやブラシは可燃ゴミに出してOK。

クッションタイプの場合は…
クッション部分がはずせるものも多いので、ピンセットなどでつまみだす。はずしたものは可燃ゴミに。はずれない場合は容器ごと可燃ゴミに。

スタイリング剤など
スプレー缶

使い切るのが一番だが、残ってしまった場合は、穴を開けて中のガスを出し切り、缶は不燃ゴミに。穴開け用のグッズも販売されているので活用したい。ただし、最近は穴開けを推奨しない自治体もあるので、住んでいる地域のルールを確認して。

Q 容器はどれくらい洗うべき?
A 化粧品を水に流すのは原則NGなので、洗わずに拭き取るのが正解。また、うまく中身を分けられても、容器に強い匂いが残るものは再生できないので、資源ゴミにはできない。その場合、プラスチックは可燃、ガラスは不燃ゴミへ。

Q 包装箱や段ボール、緩衝材は?
A 化粧品が入っている外箱は古紙回収に。段ボールは宛名の書いてあるカーボン部分を必ずはずして資源ゴミに。緩衝材として入っているエアクッションはプラスチックの資源ゴミだ。ただし内側に緩衝材がついた封筒は可燃ゴミなので注意を。

※容器を割る、折る作業はケガの危険を伴うので、無理のない範囲で行なってください。
※一部、汚れたプラスチックを不燃ゴミとして扱っている自治体もあるので、確認してください。

「捨てない」選択肢を考える

使用済み容器の回収を自社で行なっている化粧品ブランドも多数。分別に悩まず、効率よくリサイクルに貢献!

(右上から)Yves Saint Laurent

当初は限られた店舗での回収だったが、2022年からは全店に拡大。YSLメンバーシッププログラム「サステナブルポイント」がレフィル製品の購入で15pt、空き容器を持ち込むと5pt、ショッピングバッグ不要で5pt付与される。貯まったポイントは、HP上のギフトコレクション内から好きなものを選べる仕組み。ポイント数に応じて、リップやキャンドルがもらえる。

WELEDA

対象の使用済み容器を持参すると、1本あたり1ptのエコポイントが付与される。20pt貯まるとヴェレダのミニサイズ商品2つ、もしくは「トリートメント・オプション」をプレゼント。年々参加者が増えており、銀座店では集まった容器の回収・発送頻度が、月1回から週1回に変わるほど。意識の高まりと好循環がうかがえる。

LUSH

100%リサイクル素材の容器を採用しているラッシュ。回収対象の空き容器5個でフェイスマスク1個と交換、もしくは1個につき30円を買い物時に利用できる「BRING IT BACK」プログラムが好評。返却したものが同じラッシュの新たな容器になるという透明性も、人気の理由。

RMK

今年の1月28日よリRMK青山本店にて、プラスチックとガラスの空き容器回収リサイクルプログラムを開始。コンパクト系の商品も鏡がついたまま回収してくれる。1日1回限り、サンプルのプレゼントも。スタートから約3カ月で、早くも約5㎏の回収に成功。

athletia

ブランド創設時から、回収容器1個につき10円を公益財団法人日本自然保護協会に寄付する「clean beauty program」を行なっている。空き容器を店頭に持ち込むと「海辺を守る」「森や里山を守る」「自然を守る仲間を増やす」活動のどれに寄付するかを自身で選ぶことができる。

SHISEIDO

銀座のSHISEIDO旗艦店に美容液「アルティミューン」の使用済み容器を持ち込むと、洗浄&充填してくれる「アルティミューン ファウンテン」を2020年よりスタート。HPより予約制。¥12,100、約60分。(通常品は50㎖¥13,200)。

 

別の角度から化粧品ゴミを考える

容器メーカー 株式会社 グラセル
境田哲子さん

できる限り環境負荷のかからない"未来の容器"の可能性を探る

SDGsへの取り組みを積極的に行なっている国内最大手の化粧品容器メーカー、グラセル。「消費者に届けること、使ってもらうことに対して、容器の会社の立場からいかに環境負荷を減らせるか、常に模索しています。バイオマスプラスチックやリサイクル原料な ど、容器そのものの開発はもちろん、詰め替えタイプや再配達の必要がない(無駄なCO2を排出しない)メール便対応サイズの提案など、あらゆる角度から取り組みを行なっています。また現在は、小さなキズや色ブレによって出荷されずに廃棄されてしまう容器を救済するプロジェクトも計画中。新たなムーブメントになればと思っています」

リサイクルスキーム テラサイクル ジャパン
冨田大介さん

"きれいに使って返す"ことが、ブランドへの愛情表現に

米国ニュージャージー州に本社を置くテラサイクルは、リサイクルのためのプラットフォームを提供する会社。ブランド側が回収後に行う、選別や洗浄、再資源化といったリサイクル工程をサポートしている。「イヴ・サンローラン・ボーテやRMK、ヴェレダを含むネイチャーズウェイグループなど、国内では35のビューティ関連のプログラムを運営しています。回収した容器を見ていると、お客さまのブランド愛の強さと、回収容器のきれいさが比例していると思えることがあります。"最後の最後まで大事に使って返す"というアクションが、ブランドとの絆をより強固なものにしていると感じます」

SOURCE:SPUR 2022年8月号「使い終わったあとも美しく 考えよう!化粧品の捨て方と未来」
photography: Masaki Miyashita styling: Takashi Imayoshi (prop) illustration: Nozomi Oomori composition: Sachico Maeno

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