国立新美術館とサンローランが主催する、現代美術家・蔡國強の大規模な個展「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」が、去る2023年6月29日(木)よりスタートした。2000㎡の大きな企画展示室全体を使ったダイナミックな展示は圧巻。作家と縁の深い福島県いわき市の人々との交流の記録展示も見逃せない。
現代美術家・蔡國強による大規模個展「蔡國強 宇宙遊 ―〈原初火球〉から始まる」がスタート。会場の国立新美術館とサンローランが主催する本展では、蔡の歴史的なインスタレーション〈原初火球〉や、日本初公開のガラスや鏡に焼き付けた新作などを、2000㎡の大きな企画展示室全体を使って展示。蔡にとって日本での大規模個展は2015年に横浜美術館で開催された「帰去来」以来となる。
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
蔡は1957年中国・福建省泉州市生まれ。早くから爆発によって放射されるエネルギーの緊張感に魅了されてきた彼は、1984年に泉州にて火薬を使った作品制作をスタートさせた。その後、上海戯劇学院を卒業した1986年の末に来日。筑波大学の河口龍夫研究室で学んだ彼は、東京、茨城県取手市、福島県いわき市などを拠点に制作活動を展開。火薬の爆発による独自の絵画を開拓、一躍注目を集めた。最近は特に昼花火の新たな可能性を探求。1995年にニューヨークに拠点を移して以降は、世界を舞台に活躍。2006年のメトロポリタン美術館や2008年のグッゲンハイム美術館での回顧展をはじめ、さまざまな国や地域で重要な個展を開催し、国際的にもっとも影響力の大きい芸術家の一人として知られている。
スケッチブック(1987~1995年、日本) 撮影: 趙夢佳 提供:蔡スタジオ
2005年にはヴェネチア・ビエンナーレ初の中国パヴィリオンのキュレーターを務め、2008年の北京オリンピックでは開閉会式視覚特効芸術と花火監督を担当。2015年には爆発イベント《スカイラダー》を故郷の泉州市で実現させ、同名のドキュメンタリー映画がNetflixで全世界に配信されるなど、こちらも大きな話題となった。五大陸にまたがる展覧会やプロジェクトの数は2023年4月の時点で561にものぼり、さらに12件が進行中。その精力的な活動ぶりには驚かされる。
撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
展覧会は5章構成。中国時代の作品が並ぶ「〈原初火球〉以前一何がビックバンを生んだのか? 」、アーティストとしての大きな一歩を踏み出した日本時代を紹介する「ビッグバン:〈原初火球 The Project for Projects〉1991年2月26日〜4月20日」、爆発シリーズ〈外星人のためのプロジェクト〉を世界各地で展開、国際的な現代美術家としての名声を確立した1990年代以降の活動を振り返る「〈原初火球〉以後」、2019年に行われた《未知との遭遇-メキシコのための宇宙プロジェクト》の際に建てられた巨大な花火塔をLEDインスタレーション化した作品を展示した「未知との遭遇」、そして「〈原初火球〉の精神はいまだ現在か?」が、緩やかな時系列順に並ぶ。
撮影:蔡文悠 提供:蔡スタジオ
会場中央の大空間には、1991年に東京のP3 art and environmentで開催された個展「原初火球 The Project for Projects」での、同名の歴史的なインスタレーション〈原初火球〉の再現が。
《未知との遭遇》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
会場の奥の空間では、LEDを使った大規模なキネティック・ライト・インスタレーション《未知との遭遇》を展示。巨大な作品の中を歩き、時折花火のようにカラフルな色に光るのを眺めるだけでも楽しい。
《銀河で氷戯》 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
「〈原初火球〉の精神はいまだ現在か?」では、21世紀に入ってからの作品を展示。その中には、《銀河で氷戯》をはじめ、ガラスと鏡を使った日本初公開の火薬絵画3作品も含まれている。
蔡国強《満天の桜が咲く⽇》福島県いわき市四倉海岸で実施した白天花火 2023年6月26日正午 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
本展の開幕に先立ち、6月26日(月)に蔡による白天花火《満天の桜が咲く日》が、福島県いわき市の四倉海岸で行われ、大きな注目を集めた。このプロジェクトは、サンローランのクリエイティブ・ディレクターであるアンソニー・ヴァカレロが蔡のアートへの賞賛と先進的なビジョンにインスパイアされ、ファッションを超える卓越したクリエイティビティをサポートするサンローランを通じてコミッションしたものだ。
「蔡國強といわき」 撮影:顧劍亨 提供:蔡スタジオ
いわきの「満天の桜実行会」による主催で開催された《満天の桜が咲く日》では、40,000発の花火が約30分間、海と空の間の幅400メートル・高さ120メートルの壮大な舞台に打ち上げられた。2011年の東日本大震災とそれに伴う津波によって壊滅的な被害を受けた場所でもあるいわき市は、蔡にとっては第二の故郷とも呼べる場所。蔡と妻で画家の呉紅虹は、1980年代より30数年にわたり、いわきの仲間たちとの交流を続けてきたという。その交流については今回、「蔡國強といわき」と題した特別展示で詳しく知ることができる。
《歴史の足跡》のためのドローイング 撮影:趙夢佳 提供:蔡スタジオ
「〈原初火球〉時代の私は、心を熱くして、物質主義、人心の劣化、生態環境の破壊、宇宙の未来など、20世紀の人類と地球の諸問題について考えていた──自分が外星人になったかのようなスタンスで。現実は窮屈だったが、空には星が輝いて、私の『宇宙遊』を照らしてくれた。人類は疫病との共存を強いられ、経済の衰退、グローバル化の後退、異文化対立などの地球社会のジレンマに直面している。かつて人類の創造力の前衛的な精神を率いた現代美術もまた、衰退の一途を辿っている。いま30年前の『原初火球』の精神を振り返ることは、かつての私自身と再会することであり、若き芸術家にとって永遠の故郷である宇宙へと戻ることである。宇宙的ビジョンの追求と実践について議論することは、文化と芸術が衰退してる『今』に特別な意味を与えられるはずだ」 そう語る蔡。彼の深遠かつ軽やかな思考と実践のこれまでを追うことで、宇宙のかけらとしての私たちの存在意義や、宇宙からの視点についても考える機会としたい。
「蔡國強 宇宙遊 一〈原初火球〉から始まる」 会期:〜2023年8月21日(月) 会場:国立新美術館 企画展示室1E 住所:東京都港区六本木7-22-2 開館時間:10:00〜18:00(金曜・土曜 〜20:00)※入場は閉館の30分前まで 休館日:火 料金:一般 ¥1,500/大学生 ¥1,000/高校生、18歳未満無料 電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)https://www.nact.jp/exhibition_special/2023/cai/
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