外との境界をなくし自然の景観を楽しむ。モダニズム建築に住む魅力とは

インディアナポリスにあるチャンドラー宅。デザインはデボラ・バーク・パートナーズ。3,500平方フィートのこの住居は、2016年に完成した

 家を建てる計画とは、もっと広い場所に住みたくてしかたがないとか、カスタマイズを楽しみたいとか、そういった動機で始まるものだ。だが、インディアナポリスの起伏に富んだ一区画に低く細長く、横たわるように建てられたこの家の場合は、森の中のランニングがきっかけだったという。

 商業地を扱う不動産会社の経営者でランニング愛好家でもあるブライアン・チャンドラーは、長年、小川が流れる高さ40フィートほどの丘の一部を横切るコースを走っていた。2012年、いつものようにランニングをしている最中、彼はその土地が売りに出されていることに気づき、購入することにした。

 ただ、その土地を何に使うかは決めていなかったという。チャンドラーと妻のメアリーはそれまで、1950年代に建てられたインディアナポリスの昔ながらの家に3人の子どもと共に住んでいた。「生まれた子どもを病院から連れて帰ってきた愛着のあるこの家から、引っ越すつもりはなかったの」とメアリーは振り返る。「でもしばらく前から、なんとなくだけれど、いつかモダニズム建築の家を建てることができたらいいねとも話していたんです」

 メアリーは、カミンズ財団の最高経営責任者として、モダニズム建築と昔から関わってきた。1954年にカミンズ・エンジン・カンパニーの社長J・アーウィン・ミラーが設立したこの財団は、インディアナ州インディアナポリスに近いコロンバスで著名な公共建造物の建築費用をいくつもサポートし、この町をモダニズム建築の名所へと変えた立役者ともいえる存在だ。

エーロ・サーリネンは1957年、インディアナ州のコロンバスにJ・アーウィン・ミラーの邸宅「ミラー・ハウス」を設計し、キッチンの壁を青いガラスのモザイクでデザインした。チャンドラー宅を設計した建築家デボラ・バークは、この青いセラミックのタイルの壁は「ミラー・ハウス」へのオマージュだと言う

(写真左)メアリーとブライアン・チャンドラー。8月、犬のバディと一緒に自宅にて。(写真右)チャンドラー家の3人の子どものためのベッドルームのひとつ

 チャンドラー夫妻が興味を持った家のひとつは、J・アーウィン・ミラー夫妻の邸宅、通称「ミラー・ハウス」だった。鉄とスレートとガラスでできた、平らな屋根のその家屋は、アメリカ育ちのフィンランド人建築家エーロ・サーリネンによって1957年に作られた。「あの家のおかげで、モダニズムスタイルの家で家族がどんなふうに暮らすかというイメージをふくらませることができたんだ」とチャンドラーは言う。

 建築家を探すにあたって、チャンドラー夫妻はデザインに詳しいカミンズ財団の同僚に、おすすめの建築家を訪ねた。

 その同僚が唯一名前を挙げたのが、デボラ・バークだった。バークはイェール大学建築学部の学部長で、情緒的かつ知的なミニマリズムの建築家だ。コロンバスにある数々のモダニズム建築をとり上げた長編映画『コロンバス』には、彼女が2006年に手がけたアーウィン・ユニオン銀行の支店や彼女自身が登場している。また2017年には、商業地区に「カミンズ・ディストリビューション・ヘッドクォーターズ」という複合施設も完成させた。「ミラー・ハウス」の魅力をもっと読む

SOURCE:「Modernist Magic In Indiana」By T JAPAN New York Times Style Magazine 

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