ある朝のストーリー「目覚めたら、岡田健史」

俳優・岡田健史が、もしも心の近い距離にいたならば――。隣で目覚め、コーヒーを淹れ、草木の世話をする彼を穏やかに見つめていたい。ともに過ごすひとときを追いかけた、とある日常の物語。

昨夜は夜更かししてしまったから休日の朝はゆっくり起床。隣を見ると、フーディをラフに着た彼が。アンニュイなグレーも心地よい空気感とマッチ。「よく眠ったね」とほほえみ合って。

トップス¥26,000/アンシングス(メキパ) パンツ¥22,000/ステューシージャパン(ステューシー)

「これで目を覚まして」と豆から挽き、丁寧にネルドリップで 淹れてくれるコーヒー。ちょうど2カップ分を注ぎ、一杯を手渡してくれる。柄パジャマにカシミヤのカーディガンを重ねたリラクシングな装いは、こんな朝に似合う。

パジャマ(セットアップ)¥16,000/ヘインズブランズ ジャパン カスタマーセンター(ポロ ラルフ ローレン) カーディガン¥275,000/サザビーリーグ(ジ エルダー ステイツマン)

ぱきっと鮮やかな単色を好む彼。目を引くネオングリーンのTシャツと小花柄のパンツの組み合わせは新鮮。「柄ものはあまり着ないんだけど」と言いつつ、自然体ではきこなしている。

Tシャツ¥18,000/TOMORROWLAND パンツ¥26,000/HEMT PR(ジョン メイソン スミス)

植物の手入れをするのも日課。ボーダーのTシャツに、さらりと羽織ったホワイトのシャツが眩しい。今日は気持ちのいい晴天だからたっぷりめに、と丁寧に水やりをする姿を眺めている。トマトとか、野菜の栽培も始めてみようかな?

シャツ¥50,000・パンツ¥74,000/オーラリー Tシャツ¥16,000/フィル ザ ビル マーカンタイル(フィル ザ ビル)

「夏は日中も寝るときも一緒のジャージを着ています(笑)。シンプルなテイストが好きなので、今日着たグレーのフーディなどは普段と近い感じですね。コーヒーはあまり飲まないので、実は今日初めて淹れました! 豆を挽く音がいいですよね。僕の一日は、まず布団を畳んで、トレーニングする日はトレーニングをして、朝食を食べて。そのあと仕事に行ったり、本を読んだりして、活動が始まります」

飾り気のない明朗な口調が印象的な21歳、岡田健史。ドラマ「中学聖日記」で俳優デビューを果たしてから2年弱。次々と出演作品が積み重なっていく多忙な日々の中、一番多く感じるのは“プレッシャー”だという。

「どうしても家に帰ると仕事のことを考えちゃって、本番への準備をしてしまうので、今の僕ってあまりリラックスできてないと思うんですよね(笑)。息抜きのために、おいしいものを食べようとしたりしてるんですけど……だから、どうやって家でリラックスできるか試行錯誤中です」

そんな状況でも家で絵を描くことが、精神状態をフラットにする作用を及ぼしているのだそう。

「台本をずっと読んでいると、どうしても行き詰まってしまう。成功率を上げるためには、ニュートラルな状態で台本と向き合うことがいいと思っているので、そのために絵を描くんです。僕にとって絵を描くことは本能的な欲求。自分の欲に忠実になっている時間は、人間としての充実を感じますね」

いらない自我との闘いが
楽しくもあり、苦しくもある

「去年の夏、演技レッスンを受ける中で、心身ともに大きく変化したターニングポイントがあったんです。いろいろと悩んだ結果、“できないです”って言ったことがあって。20年間生きてきた中で、素直に“できない”って告白したことは初めて。その瞬間気持ちがすごく楽になって、いらないものが見えてきたり、逆にもっとこういうことがやってみたいって気持ちが膨らんできたんです。関わる人全員のクリエイティビティを混ぜ合わせて作品ができていく。だから僕も、その1ピースだってことを意識して、意見を提示したい。僕の意見が全部合ってるわけではないと思いますけど、何かを提示することによってディスカッションが生まれて、いいほうに進んでいくこともありますよね。今はその作業を楽しんでます」

堤幸彦監督の新作『望み』では、怪我でサッカー部を辞めて以来、家族と距離を取る高校生、規士を演じている。ある日、規士が姿を消したところから、物語はどんどん動き始める──つまり、序盤でいかに規士が抱えているものの“計り知れなさ”を観客に植えつけられるかが、映画の肝となっている。

「もちろん規士の胸中を表現するように臨んだんですが、規士自身ができることってすごく少ないんです。ほとんど喋らず、登場シーンも少ない。規士がいなくなってから、両親や妹、クラスメート、事件を追うメディアの人、いろんな人が規士のことを話題にして、規士っていうキャラクターを膨らませてくれる。こんな幸せな役どころってなかなかないと思いました。でも、僕がそれに気づいたのは完成した作品を観たときで。やっぱり演じてる最中は、規士を“こう見せたい”っていういらない自我が出てきてしまう。そことの闘いが、とてつもなく楽しかったし、同時に苦しくもありました」

演技の話になると、一段と熱を帯び、充実した日々を語る。5年後はどんな姿を思い描いているのだろうか。

「26歳か……後輩とか、いろんな人にごはんをおごれるようになっていたいです。仕事もちゃんとやっているからこそできることだし、一緒に行きたいと思われる人でいたいです(笑)」

KENSHI OKADA

おかだ けんし●1999年5月12日、福岡県生まれ。2018年、テレビドラマ「中学聖日記」の主人公の相手役に抜擢され俳優デビュー。以降、多数の映画、ドラマに出演。’21年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」への出演も決定。

『望み』

高校生の息子、規士(岡田健史)が消えたその日、同級生が殺された。幸せな家族の日常が一変するサスペンス・エンターテインメント。息子は犯人なのか、それとも事件のもう一人の被害者なのか──。(10月9日より全国公開) 配給:KADOKAWA ©2020「望み」製作委員会

SOURCE:SPUR 2020年11月号「目覚めたら、岡田健史」
photography: Kiyoe Ozawa styling: Lambda Takahashi 〈Shirayama Office〉  hair & make-up: KOHEY interview & text: Kaori Komatsu

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