大橋未歩さんがニューヨークへ渡って見つけた、人生の新たな章

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私は何を考え、何を伝えるために生きているんだろう

本音を突き詰めたら嘘がつけなくなった

「女性アナウンサーは長い間、性的な消費のされ方をしてきました。私も局アナ時代は、その価値観にどこか乗っかっていた部分があったと思います。でも今は、もうその下駄を必要としていない。この本では読者の皆さんと心でつながりたいと感じて、表紙は私の写真ではなく、パペットでアートパフォーマンスをされる菊地麻衣子さんに描いていただきました」

大橋未歩

15年間勤めたテレビ東京を退社して独立し、2023年にニューヨークへ移住した大橋さん。ブログの連載をまとめた著書『ニューヨークの林檎をむいて食べたい』には、異国で暮らす日々の気づきや出会いが、まるで気心の知れた友人の話に耳を傾けるような軽やかな筆致で綴られている。

「伝えたいことは明確にあるんです。でも、それだけだと文章が硬くなってしまうので、硬さと柔らかさの黄金比を意識しています。私は喜怒哀楽のまっただ中にいても、どこかでその状況を俯瞰して、『面白いな』と思っている部分があって。だから、目を背けたくなるような出来事にも、ひとさじのユーモアを忍ばせるようにしています」

演劇学校に通ったり、古着店でアルバイトをしたり、その毎日はパワフル。ブラックユーモアで社会を映し出す風刺表現に魅了され、スタンダップコメディにも挑戦した。

「ニューヨークでは毎週のようにデモが行われています。当事者だけでなく、その人たちを支える人までが共に涙を流しながら声を上げる光景を見るたび、『私は何を考え、何を伝えるために生きているんだろう』と問いただされる感覚がありました。局アナ時代、報道に携わる中では、アナウンサーは常に中立であることが求められた。でも、社会や政治と自分との距離をもっと縮めたいという思いは、ずっと心の中にありました。その一つの表現方法として、風刺がすごくしっくりきたんです。せっかく誰かの表現を受け止めてくれる土壌のある街にいるのだから、挑戦してみよう!と。結果はトラウマになるくらい悲惨でしたけど(笑)」

大橋未歩

自分が伝えたいことを突き詰め続けるうちに、「自分に嘘をつけなくなった」と振り返る。参加者が実体験を語るイベント『The Moth』では、それまで公にしてこなかった不妊治療の経験を初めて語った。

「昔から、つらかったことを人に話すのが苦手だったんです。でも、自分と向き合う2年間を経て、不妊治療は私を形づくる大切な要素なんだと思えるようになりました。私が参加した回のテーマは『人生の新たな章』。ここで自分の経験を話せたら、私自身も一歩踏み出せる気がしたんです。話し終えると、たくさんの方が温かい言葉をかけてくださって……“世界は愛であふれているな”と心から感じられた。『あなたの話に救われた』と言ってくださる方もいて、その言葉に私自身が救われました」

この先どこでどう生きるのか。その問いに、明確な答えはないという。

「宝くじって、結果を待っている時間が一番ワクワクしませんか? ニューヨークは、私にとってそんな街なんです。明日どうなるかわからないからこそ、新しいことにも、苦手なことにも飛び込める。これからも好奇心を道しるべに、その時々の自分に正直にありたいです」

大橋未歩プロフィール画像
エッセイスト・リポーター大橋未歩

1978年生まれ。兵庫県出身。2017年にテレビ東京を退社しフリーアナウンサーに。2023年テレビプロデューサー・演出家の夫、上出遼平とニューヨークへ。現在は日米を行き来しながら、テレビやイベントなどを中心に活動。

『ニューヨークの林檎をむいて食べたい』

『ニューヨークの林檎をむいて食べたい』

仕事を手放しニューヨークへ。異国で味わう戸惑いや出会い、表現する歓び。思い通りにならない日々の中で少しずつ自分の居場所を見つけていく様子をつづったエッセイ。

大和書房/1,980円