SPURと「思い出を着ている」

 本誌8月号の大特集は「私たちは思い出を着ている」。一年以上前からSPUR.JPで先行して進めていた「SPUR ナショナル ファッションストーリー プロジェクト」をまとめたスペシャルイシューです。

 企画名でモロバレのとおり、ネタ元にはポール・オースターの本『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(ポール・オースター編・柴田元幸他訳/新潮社)がありました。作家のポール・オースターがラジオ番組での朗読用に、全米の聴取者から彼らの人生で実際に起こった出来事を募り、その物語の数々を一冊にまとめたものです。

 事実だからこその意外な流れ、宙ぶらりんの結末。掲載されたストーリーを読み進めるうち、世の中には自分の話を書きたい、聞いてもらいたいと真剣に思っている人が想像以上に多くいることに気づきました。ポール・オースターがラジオで番組を持っていたのは2000年代初頭。自分が翻訳版をはじめて読んだのは2005年。いずれにしろSNSが日常的ではなかった時代です。

 毒は遅効性で、身体に回るのに時間がかかる。当時は『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を書店で買って読み、ただ面白がっていただけでした。「これってファッションでもできるんじゃ?」とふと考えつくまでに、本を読み終えてから十年以上経っていました。遅きに失した感もありますが、あの本を読んだ記憶がなければ今月の企画も存在しえず、自分たちは思い出を着ているだけでなく、思い出から毎月の雑誌を作っているような部分もありますね。

 私、山崎は本日6月27日付でSPURからズルっと横滑りし、男性誌「UOMO」へと異動しました。今日からはUOMO編集長となります。SPURには15年間いましたが、最後に作ったのが“思い出の一冊”だったというのは不思議。読者の皆様、企画にご協力いただいた方々(特設ページ末尾の「SPECIAL THANKS」にて、全員のお名前を掲載しています)、ありがとうございました。

 これからは新編集長のSPURをよろしくお願いいたします。

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takayuki yamasaki

服は迷ったら買う派。そして色違いで揃える派。車はFR派。ジョジョは四部派。夜は糖質オフでハイボール派。圧倒的イヌ派。

 

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