私なんかが、ボウイ

今年を振り返り、自分が担当した最も思い出深い仕事といえば、今発売中の2月号「デヴィッド・ボウイ特集」です。坂本龍一さんに話を伺いにニューヨークへ飛び、デヴィッド・ボウイゆかりの地も訪れました。

実は担当を言い渡されたときには一抹の不安を感じたんです。

なぜなら、私が10代の頃初めてボウイに”入門”したときの曲は「レッツ・ダンス」。一部の方には「なぬっ、そんな奴がボウイ特集を担当したのか」と怒られるかもしれません。この曲は彼のキャリアの中でも商業的すぎる、と言われる向きもあります。でもそんなことはお構いなし。当時の私はこの曲を聴けばご機嫌。ナイル・ロジャースが弾くチャカチャカしたギターにも痺れたし。

その後、音楽好きの先輩にどうやら「ヒーローズ」というアルバムがいいらしい、と聞き早速買いました(今みたいにインターネットで情報を集める時代じゃありません)。「レッツ・ダンス」と趣は違うけどこのアルバムも好みだったので、ライナーノーツでサエキけんぞうさんが絶賛している一作前のアルバム「ロウ」も聴きましたが、ここでつまずいた。後半(レコードでいえばB面)の曲が難解すぎて耳馴染まない。そのせいでその後ちょっとしたブランクがあり、「アラジン・セイン」「ダイヤモンドの犬」「ジギー・スターダスト」など主だったアルバムを辿って彼の変遷する音楽のスタイルを楽しんできたものの、それはきわめて表層的だった気がして、私なんかが担当してよいものか、と。

そして今年1月にアルバム、「★(ブラックスター)」がリリースされました。そのちょっと前にボウイはケンドリック・ラマーを気に入っていると聞いたので、「今さらラップのアルバムでも作るの?」とマヌケな予想をしていた私。それは見事に大外れで、「★(ブラックスター)」には気鋭のジャズ・ミュージシャンを起用した、とても刺激的な音が詰まっていました。(今振り返ると、ボウイはK-dotの最新ジャズシーンへのアプローチに思うところがあったのだろうか。)打ち込みなのかと思わせるマーク・ジュリアナのドラム。その硬質なビートが人力だと知った時には大興奮。ジャズのコンサバティブなイメージをぶっ飛ばすダニー・マッキャスリンのブロウといい。エレクトロやヒップホップと融合したジャズシーンがこんなにエキサイティングだったとは。(2月に来日するダニーとマークのプレイも絶対に生で観たい)。新しい世界、知らないことを常に教えてくれたのがボウイでした。

2016年にいちばん聴いたのは「★(ブラックスター)」と、あの苦手だった「ロウ」のいちばん最後に収められた曲「サブテラニアンズ」です。自分ももう、「レッツ・ダンス」で無邪気に踊っていた十代じゃない(いまだにこの曲でたまに踊りたくなるけど)。世の中も変わりました。不穏で陰鬱な空気の中に立ち現れる美しいもの。ボウイの真骨頂ともいえる音が、今は必要なのかもしれません。

2016年、皆さんが感動したこと、ワクワクしたことはなんだったでしょうか? 自分たちが作るページがその一つになれたら、といつも願っています。

1年間、SPURおよびSPUR.JP、そしてこのSmall Good Thingsをのぞいてくださり、まことにありがとうございました。読者のみなさま、よいお年を!

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エディターNAMIKI

ジュエリー&ウォッチ担当。きらめくモノとフィギュアスケート観戦に元気をもらっています。永遠にミーハーです。

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