少女の頃に戻れる!? すみれ味のキャンディ

睡眠欲と食欲のうち、どちらが強いかと聞かれれば、間違いなく「食欲」と答えます。それは子どもの時も同じで、絵本にお菓子が出てきては、どんな味なのか想像をめぐらしていました。例えば「パンケーキ」。母が作ってくれるホットケーキと似ているけれど、どう違うんだろう、とか、「りんご」は、この主人公は直接かじって食べているけれど、果たして包丁で切って食べるときよりもおいしいのだろうか、とか……。そんな子どもの頃の自分にとって、最も不思議な食べ物が「すみれ味のキャンディ」でした。咲いているすみれはもちろん見たことはあるけれど、これは果たして食べられるの?、しかもおいしいの?と疑問符で頭がいっぱいになったのを覚えています。

その答えをくれたのがアニス・ド・フラヴィニーのバイオレットのキャンディ。今でこそ日本でも買えますが、学生の頃は海外でしか買えず、初めて食べた時は衝撃を受けました。なんとも言えない良い香りとともにほんのり苦味が漂っていたからです。予想していたよりもぐっとほろ苦い味わいに驚きながらも、ついに子どもの頃に夢見た味に出合えた喜びを噛み締めました。

ちなみに江國香織さんの詩集『すみれの花の砂糖づけ』(新潮文庫)に出合ったのも同じ頃。この詩集の最初に編まれた「すみれの花の砂糖づけをたべると/私はたちまち少女にもどる/だれのものでもなかったあたし」という短い詩「だれのものでもなかったあたし」は、作家の手にかかると、お菓子を語るのひとつとっても、こんなにもきらきらとした言葉になるんだ、ということを教えてくれた作品です。

話は飛んで、先月パリに行ったのですが、偶然アニスのバイオレットキャディを見つけました。以来、久しぶりにこのキャンディをなめているのですが、すると、自分自身の子どもの頃の思い出と江國さんの詩集を読んだ思い出が一気に駆けめぐり、「私はたちまち少女にもどる」感覚に。ふと気持ちを落ち着けたいとき、フレッシュな気持ちを感じたいときに、ぜひ食べてみてください。アニスの公式HPによると、2粒を同時に口に入れじっくり溶かすようにしてなめるのが、おいしく食べるコツだそうですよ。

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エディターMORITA

物心がついた時からパンツ派。今、一番興味があるのは、どうやったら居心地のよい部屋で暮らせるのか。美容、アート担当です。

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