何度断捨離を試みても手放せなかったという、浜田さんのアーカイブスの数々。服としての価値はもちろん、個人的な思い出とともに大切に保管されてきた。愛してやまない1990年代~2000年代の貴重な私物を、俳優・小野ゆり子さんが着こなした。
何度断捨離を試みても手放せなかったという、浜田さんのアーカイブスの数々。服としての価値はもちろん、個人的な思い出とともに大切に保管されてきた。愛してやまない1990年代~2000年代の貴重な私物を、俳優・小野ゆり子さんが着こなした。
なぜ、私たちはアーカイブスに魅了されるのか
作り手の感情がこもった服には時代を超える力がある
何より服が好きという思いから、スタイリストという職業を選び、独自のスタイルを追求し続けている浜田英枝さん。着なくなった今でも手放せないという1990年代から2000年代のアーカイブスの魅力について聞いた。
「デザイナーたちの反骨精神が渦巻く服に惹かれていたんだと思います。情熱を感じる服は、手放せない。タグさえつければそのブランドになるようなものではなくて、感情が込められた服が、何年たっても好きなんです」
浜田さんのアーカイブス企画のトップを飾ったのはミゲール アドローヴァーのカーディガンを使ったスタイル。
「1999年にスタートしたブランドです。当時、メゾンブランドの服を解体してひねりのきいたリメイクをしたり、アヴァンギャルドなアプローチをしていた。面白いデザイナーがNYから出てきた、と驚きました。モード誌でチェックしたり、日本のセレクトショップでいち早く扱っているところを見つけたりして動向を追っていました。クラシカルなデザインに見えても、背後にカルチャーやパンク精神を感じて。今では普通ですが、リサイクル素材を用いた服作りについても彼は早かった。デムナもミゲールの作品に影響を受けたと思いますし、最近ではクロエ・セヴィニーも自身の持つミゲールのアーカイブスを着て、インスタグラムにポストしていました。2025年には彼を題材としたドキュメンタリー映画『The Designer Is Dead』が制作、公開されていて、今再び注目されています。ストライプのカーディガンはシルク素材。カジュアルなアイテムに合わせても、着こなしを底上げしてくれる存在です」
マルタン・マルジェラ本人が手がけていた2000年前後のアーカイブスや90年代半ばから活躍するジャンコロナなど、「独特の色気を感じさせる」ことも手放せない服の条件だと言う。
「ジャンコロナの小花柄の生地で構成されたドレスはボディコンシャスなシルエットが秀逸。当時アシスタントだった自分にはふさわしくないかもしれないけれど、どうしても欲しくて。後日、スタイリストの師匠が同じ服を着ていたところに出くわしたのも今となってはいい思い出です。異なる時間軸を生きる、どんな女性にもカッコいいと思わせる服ってすごいですよね。パッチワークでタックもとられていないのに、なぜこんなにきれいに体にフィットするのだろうと、着た瞬間の衝撃も覚えています。ここの服は化粧をせずありのままでまとったとしても、どこか色気を感じさせる。これを着ていた頃の自分の思い出を含めて愛おしい存在です」
浜田さんが言うところの“色気”は、着飾って出てくるものではない。多面性のある複雑さから醸し出すもの。マルタン・マルジェラが作った服にも同じことを感じていたのだそう。
「個人が持つ内面の色気を引き出せる服は、魅力的だと思います。マーケティングに則るのではなくて、情熱、情念を原動力に作られている。そんな服に感動するし、それを選んでいる人も好きです。そういうものは結果的に古くならないし、今のアイテムと合わせても、まったく遜色ないんです。たとえば若手有望株のジュリー ケーゲルの服とマルジェラのビッグシルエットのライダースベスト(3枚目)は、ぴたっとはまりました。ただ真面目とか、ただ可愛いだけのスタイルは好きじゃないんです。知性があって、でもどこか抜け感がある。そういうバランス感覚を、マルジェラから学びました」
オーバーサイズのスウェットドレスに手刺しゅうが施されたベルンハルト ウィルヘルム(2枚目)も宝物のひとつ。
「ベルンハルト ウィルヘルムは1999年にパリでスタートした、音楽やストリートカルチャーを感じさせるブランド。どのシーズンも80年代ムードを感じさせる楽しいアイデアにあふれていましたが、作りはかなりしっかりしていました。特にこのドレスの手作業には、愛おしさを感じます。ロックなモチーフだったり、天使と悪魔がいたり、毒気のあるキャラクターが登場しています。ただ可愛いだけではないエッジィな感覚のモチーフ選びと、手刺しゅうの組み合わせが秀逸なんです。ハイブランドの服を手がける高級クリーニング店にお願いした際にも、仕上がったものを受け取る際に職人さんから『貴重なアイテムにさわらせていただき、ありがとうございます』という言葉をいただいたほどでした」
ファストファッションが今ほど流通しておらず、マーケティングで効率化が図られるより前の、2000年頃。その時期のアーカイブスに魅力を感じる人が増えているのもうなずけると浜田さん。
「今日持ってきた服は、マルジェラはアーティザナルの貴重なものもありますが、基本的にはオートクチュールではなくプレタポルテなので、もちろん量産されていた服。それでも作るにあたって、すごくたくさんのことが考えられ、手間暇をかけられているものばかり。どれだけデザイナーのやりたいことを突き詰めているかが、服を見れば伝わってくる。そういうものは結果的に古くならないから、アーカイブスとして残しておきたくなるんですよね」




