ジャック・マッコロー(左)、ラザロ・ヘルナンデス(右)。ジャックは東京生まれで、アメリカ・ニュージャージーで育つ。マイアミで生まれたラザロは祖父母がスペイン出身。「日本語もスペイン語同様すべての音節をはっきりと発音するので、響きが似ていて一瞬どちらなのかわからなくなってしまう。東京で日本語が耳に入ってくるたびに、思わず反応してしまいました」とラザロ。1990年代末、NYのパーソンズ スクール オブ デザイン在学中に出会った二人は公私共にパートナーに。2002年プロエンザ スクーラーを設立した。昨年4月、ロエベのクリエイティブ ディレクターに就任。10月、パリで初のコレクションをランウェイで発表した。今回の滞在では、古着店や日本のブランドのショップを巡り、代官山の蔦屋書店も訪れたそう。「とてもにぎわっていたし、雑誌や書籍の種類が本当に多くて圧倒されました。欧米には存在しない、素晴らしい場所です」(ジャック)
2026-’27 年秋冬は「私たちが解釈するクラフト」を表現
SPUR池田(以下S) 日本を訪れる直前に、シンガポールでのロエベ財団主催「ロエベ財団 クラフトプライズ 2026」の授賞式に参加されたとか。
ラザロ・ヘルナンデス(以下L) 実は昨年、私たちがクリエイティブ ディレクターとして活動を始めたほんの数週間後に「クラフトプライズ」に足を運んでいるんです。そのときはまったく関わることができなかったのですが、今回はファイナリスト30組から大賞と特別賞を選ぶ大役を任されました。
ジャック・マッコロー(以下J) 受賞作以外にも刺激を受けた作品がたくさんありました。まだ具体的なアイデアが浮かんでいるわけではないのですが、何らかのかたちで作家の皆さんとコラボレーションすることもなくはないと思います。中国出身のナン・ウェイによる漆と革を用いた作品や、数々のガラス彫刻も気になりました。
L あれだけの力作を目のあたりにして、刺激を受けないなんてありえません! ロエベはクラフトを大切にしていますし、私たちも大好きなので。
S ロエベを手がけるにあたり、「クラフト」、ブランドの発祥地である「スペインらしさ」、お二人が育ったアメリカになじみの深い「スポーツウェア」の3つに軸を置いているとおっしゃっていましたね。
J デビューコレクションでは、ロエベらしさに私たちのアイデンティティをミックスすることを探求していました。自らのルーツを拒絶して、急にフレンチスタイルや典型的なヨーロッパ風のものづくりを始めるようなことはしたくなかったんです。2回目のランウェイである2026-’27 年秋冬はウィンタースポーツの要素も含めましたが、「私たちにとってクラフトとは何を意味するのか」という点にもう少し焦点を当てていたと思います。私たちが興味を惹かれたのは、〝極限まで作り込まれているがゆえに、職人の手の痕跡が消え去り、まるで機械で作られたかのように見える〟クラフトのあり方です。たとえばファーストルックは、まずスリップドレスを手がけ、それをコンピュータでスキャンして3Dの鋳型を作成し、シリコンを流し込んで仕上げました。私たちはロエベを代表する素材であるレザーをさらに進化させるための新しい方法も常に実験し続けていますが、空気を注入して膨らむレザーもその一つです。着想源は浮き輪。いかに軽量でボリュームを作り出すか、ということを考えていたんです。
2026-’27年秋冬のショー会場にはコジマ・フォン・ボニンの海の生き物や犬を表現した作品を配置。
最新技術を手仕事と融合させたコレクションを発表した。ファーストルック
SPUR読者にレコメンドしたいルック
L 私たちは毎シーズン、まったく新しいことをバラバラに発表しているわけではなく、継続性がブランドの新しいアイデンティティを構築していくと思っています。観客には「ああ、すごくロエベらしかった。でも、確かにジャックとラザロっぽくもあった」と感じてもらいたい。実際にそういった反応が得られた気がします。
S 秋冬コレクションでSPUR読者におすすめしたいルックはありますか?
J 東京の人たちの装いはルーズなシルエットで丈も長めだし、NYやパリとは異なり、「セクシーさ」を強調しないことが興味深かったです! ロエベの精神に共鳴する遊び心を持つアーティスト、コジマ・フォン・ボニンのキノコのオブジェをイメージしたフォルムの「マッシュルーム・ボンバー ジャケット」がおすすめですが、ランウェイピースだけではなく、もう少し日常的なラインもシックに着こなしてくれるのでは。
S 今回、岡田将生さんが着用してくれましたが、初めてランウェイでメンズウェアを発表しましたね。
L ウィメンズウェアの制作プロセスとはまったく異なるものになると予測していたのですが、いざ着手してみるとすごく似ていると感じました。両者を並行して進めていくうちに、だんだん性別のことなんてどうでもよくなっていくんです。それよりも、これまでのように人物像やバランス、シルエットの構築に集中していました。
J もちろん男女で体型は異なりますが、メンズ/ウィメンズに分けるのはあまりにも古くさいように感じます。実際、素晴らしいことに、多くの男性がウィメンズウェアを購入しています。ただ、私たちは男性なので、メンズウェアを作るときは当事者としてパーソナルに捉えてしまったのは興味深かったです。一方でウィメンズウェアを作るときはもう少し抽象的に考えています。
ジャックたっての希望で、ロケ地は東京在住時によく訪れていたという南麻布の有栖川宮記念公園。二人とも、公園に生息する野鳥を解説した看板のデザインや、子どもたちが遊ぶ様子に興味津々だった
今はもう少しリアリティを追求する段階にある
S ところで、これまでお二人とも「私たち」とおっしゃっているのが気になりました。常に共通認識を持っていらっしゃるんでしょうか。
L 二人とも、ものすごく好奇心が旺盛で、アイデアが次々に湧き出てくるタイプ。努力家だし、仕事に誇りを持っています。ある意味「仕事人間」と言えますが、私たちにとって仕事は義務ではなく、「人生」であり、「クラフト」であり、「アート」。心から愛しているからこそ、常に夢を描きながらものづくりを続けられています。
J 私たちは常に、今よりもっといいものを目指し、さらに先へと突き進み、仕事を洗練させていきたいと考えています。決して現状に満足することはありません。
L ただ、少しずつ役割を分担し始めてはいます。もちろんメインコレクションについては二人で深く関わり続けていきますが、プレコレクションや「パウラズイビザ」など、ロエベには本当にたくさんのコレクションがある。分担するのが賢明ですし、それがデュオの最大の強みでもあると思います。
J とはいえ、私たちは仕事、プライベートにかかわらずいつも一緒にいます。一心同体なんです。
S 公園の散策でも仲睦まじい様子を目のあたりにしたので納得です! 10月には3回目のショーを控えていますが、今後はどのような展開が見られるでしょうか。
J これまではいろいろとコンセプトを模索していて、どちらかと言えばムードや方向性、世界観の確立に集中していたと思います。今は、自分たちのアイデアをどうやって日常着へと落とし込んでいくか、実際に着てもらえるピースにするのか、という段階に入っています。それは、より難易度が高く、挑戦しがいがある。もちろん、クラフトや遊び心といった私たちが大切にしている要素はしっかりと残したまま取り組むつもりです。