2026.08.25

いま時計好きが注目する“マイクロメゾンウォッチ”とは? 知っておきたい名作5選

近年、独立時計師やマイクロメゾンという言葉をよく耳にするようになった。コレクターたちが熱狂する"作り手の顔が見える"時計の魅力を深掘りする。

近年、独立時計師やマイクロメゾンという言葉をよく耳にするようになった。コレクターたちが熱狂する"作り手の顔が見える"時計の魅力を深掘りする。

INDEX

マイクロメゾンウォッチとは?

NAOYA HIDA & Co.による2026年モデルの一つ「NH TYPE 8A」

〈31㎜/SS、カーフ、手巻きムーブメント〉¥3,520,000※受注終了/NH WATCH

日本のマイクロメゾン、NAOYA HIDA & Co.による2026年モデルの一つ「NH TYPE 8A」。1950〜60年代にビッグトレンドだった31㎜ケースを再現した上質なヴィンテージ感が、ウォッチコレクターの間で評判を呼んだ。リーフ型針やスリムな秒針の造形と発色が見事。

年間数十〜数百本程度の少量生産の時計ブランドを、マイクロメゾンと呼ぶ。その中には、ブランドに属することなく作家的に自らの作品を製作する独立時計師も含まれる。多くの大手ブランドのように親会社や株主からの声に縛られない、作り手の哲学に基づいた自由な時計製作だからこそかなう独創性が、彼らの強みだ。

ウォッチラバーを惹きつけるマイクロメゾンの引力

NAOYA HIDA & Co.初の彫金装飾ダイヤル

世界で常に注目を集める香港のメンズウェアストア、アーモリーとのコラボで生まれたNAOYA HIDA & Co.初の彫金装飾ダイヤル。3つの羽根を配したデザインは、おしゃれの天才と称されるアーモリーのオーナー、マーク・チョーさんのアイデアで、微細な羽枝を一筋ずつ丁寧に手彫りしている

皮肉なことにコロナ禍は、時計界に好景気をもたらした。世界的に旅行などの〝コト消費〟が激減し、余剰資金が高級腕時計に流れたからだ。その結果、一部のブランドの人気モデルは極めて入手困難となり、セカンダリーマーケットの価格が急騰。高級腕時計の優劣が資産価値で判断され、有力な投資対象の一つになってしまった。

こうした状況に辟易した、古くからの時計コレクターが向かった先が、マイクロメゾンだった。彼らは資産としてではなく、自らの趣味嗜好にどこまでかなうかに腕時計の価値を見出す。それは、マイクロメゾンの作り手の目指す方向性と同じだ。すなわち自身の哲学や理想に基づく時計製作。結果生まれた他社から抜きん出た、なにがしかの独創性がコレクターの共感を呼ぶ。

NAOYA HIDA & Co.初の彫金装飾ダイヤル

そうしたマイクロメゾンの強みの一つが、少量生産ゆえの徹底的な手仕上げの美しさだ。その入念さは、老舗の名門メゾンをも凌駕する。このあとに紹介するマイクロメゾンの名作選のうち、ペテルマン・ベダ、関口陽介、ローマン・ゴティエ、レジェップ・レジェピは、圧倒的な審美性の高さでコレクターを魅了している。もっとも見ごたえがあるのは、ムーブメント。ケースバックのサファイアクリスタル越しに姿を見せるパーツはどれも、エッジが完璧な鏡面状に磨き込まれ、表面には装飾が施されていて思わず見惚れるほど。

一方、国産マイクロメゾンは、別のアプローチで魅力ある個性を主張する。NAOYA HIDA & Co.は、腕時計の黄金期と呼ばれる1920〜30年代のモデルに範を取った〝現代のヴィンテージウォッチ〟というスタイルが、多くのコレクターに刺さった。大塚ローテックは、日本の高度成長期に生まれたオーディオ、カメラなどをモチーフとしたデザイン性に加え、レトログラードやジャンピングアワーといったややトリッキーな機構で人気を博している。

SNSの普及によって、広告費をかけずに情報発信できるようになったのも、マイクロメゾンを広く周知させることにつながった。大半が新興であるため創業者の顔が見え、交流できることもコレクターの心をくすぐる。少量生産であるがゆえに手に入れるのは難しいが、それは大手ブランドの人気モデルでも同じだ。ならば他人とかぶらないマイクロメゾンに関心が向くのは、コレクターの心情として理解しやすい。

腕時計は、つける人の人生観を表すとよくいわれる。マイクロメゾンの明確な哲学・コンセプトは手もとで存在感を放ち、個性を主張できるのだ。

NORIO TAKAGIプロフィール画像
NORIO TAKAGI

1990年代から時計を取材対象とし、時計専門誌からライフスタイル誌まで幅広く執筆。著書に『世界一わかりやすい腕時計のしくみ』、同・複雑時計編、人気ブランド

日本が誇るマイクロメゾン、NAOYA HIDA & Co.が生まれる場所へ

歴史書「La Classification Horlogère」

飛田さんの蔵書、1936年、’39年、’49年のスイス製ムーブメントを包括的に分類した歴史書「La Classification Horlogère」

スイスの名門ブランドであるゼニスは今年、160年を超える歴史の中で初めてダイヤルに別ブランドの名を併記したダブルネームの限定モデルを発表した。刻まれた名は、「NAOYA HIDA & Co.」。2019年にわずか7本だけ製作した「NH TYPE 1B」でデビューを飾った国産マイクロメゾンである。

飛田直哉

手彫りインデックスを手がける職人、加納圭介さん。顕微鏡をのぞきながらの、繊細な手仕事だ

創業者の飛田直哉さんは、時計界でセールスやマーケティングを長く経験し、二つのブランドの日本法人代表を務めた人物。ヴィンテージウォッチの収集家でもあり、時計に関する造詣は時計ジャーナリストが舌を巻くほどに深い。

「NH TYPE 7A」「バルジュー236」「NH TYPE 8A」腕時計

今年の新作からの3本。(右から)メゾン初のクロノグラフ「NH TYPE 7A」(¥5,830,000)。1974年誕生のクロノグラフ・ムーブメントの傑作「バルジュー236」の未使用品を搭載する。冒頭で紹介した「NH TYPE 8A」。2025年に登場した初の角形モデルの第2世代となる「NH TYPE 5B」(¥4,070,000)。現在はすべて受注終了

「長く時計にかかわってきて、自分の好みに完璧に合うモデルは市場に存在しないことがわかった」という彼は、自身が理想とする時計を生み出すことを決意。時計師の藤田耕介さんと彫金師の加納圭介さんとともに2018年に初作となる「NH TYPE 1A」を作り上げた。目指したのは、現代のヴィンテージウォッチ。

「重要視したのは、バランス。ベゼルギリギリまで寄せたスモールセコンド、針の長さと造形、インデックスとの距離などの検証を徹底的に繰り返しました」

いま時計好きが注目する“マイクロメゾンウの画像_7

ドラフター(定規つき製図台)をホワイトボード代わりに、インデックスのタイポグラフィーを加納さんが手描きし、検証する

インデックスは、加納さんによる手彫り。針やケースは飛田さんがデザインし、藤田さんが図面を起こした上でIC部品を製作できる超精密加工技術を持つメーカーに依頼した。数ミクロンレベルの微細加工で形作った針は、どれも立体的な丸みを帯びている。またダイヤルのべースは精密加工してもらい、自社でブラスト仕上げしてマット仕立てとした。この手彫りダイヤルと針の美しさが、ゼニス初のダブルネームに選ばれた理由だ。

手彫りインデックスに用いるビュラン

手彫りインデックスに用いるビュラン(洋彫りタガネ)。丸い持ち手を手のひらで包み込むようにして握り、ダイヤルのベースに刃先を当て、手の力だけで彫り進める

「最初のプロトタイプが出来上がったとき、このスタイルに共感してくれるコレクターは一定数いるなと確信しました」

飛田直哉さん、加納圭介さん、藤田耕介さん

メゾンの主要メンバー、右から飛田直哉さん、加納圭介さん、藤田耕介さん

そんな飛田さんの予測は、現実となる。デビュー作「NH TYPE 1B」の7本は、SNSで積極的に発信をした結果、即完売。うち1本を購入したのが、前述したアーモリーを率いるファッショニスタにして時計コレクターのマーク・チョーさんだった。時計マニアの飛田さんの理想の時計は、ほかのマニアの好みにも合致した。

「NH TYPE 6」シリーズに搭載されるムーブメントの調整

ムーブメントの組み立てとケースに収める工程は藤田さんが担当する。写真は、昨年オーストリアのマイクロメゾン、Habring2とスイスのムーブメント会社、デュボア・デプラ社の協力で実現した初の永久カレンダー「NH TYPE 6」シリーズに搭載されるムーブメントの調整

翌年からモデル数を増やしながら新作を発表するたびに時計ファンのSNSがざわつくほどに人気が高まり、購入希望者が世界中から殺到するようになった。生産数を増やすため、彫金師と時計師を2名ずつ増員。今年3月には、工作機械室を併設した新社屋に移転した。そしてコラボも含め12モデルを発表し、計140本を製作したが、いずれも完売済みだ。

「作りたい時計は無数にあって、頭の中では140作目まで出来上がっています」

来年には、どんなモデルが登場するのか? 期待は高まるばかりだ。

NAOYA HIDA & Co.プロフィール画像
NAOYA HIDA & Co.

2018年設立。毎年5月頃に公式HPより購入申し込みを受け付けている。所持している時計のリストと購入希望理由をまとめた小論文の提出が求められ、内容によって購入が可能となる。予約制でショールーム訪問もできる。

https://naoyahidawatch.com/

マイクロ メゾンウォッチの名作たち

PETERMANN BÉDAT

PETERMANN BÉDATの腕時計

〈RG、アリゲーター〉96,000スイスフラン(参考価格)/アワーグラス銀座

リファレンス 1826

ブランド国:スイス
ムーブメント:手巻き
ケース径:36.4mm

初作で’20年に、’23年には次作でジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの部門賞を獲得した期待の新鋭。若き二人の時計師によるユニットで、伝統的な手仕上げを堅持する。これは3作目を36.4mmに小径化した日本限定モデル。ダイヤルはエナメル仕様で質感が豊かだ。

YOSUKE SEKIGUCHI

YOSUKE SEKIGUCHIの腕時計

〈WG、アリゲーター〉80,000スイスフラン/カリヨン

プリムヴェール 2026

ブランド国:スイス
ムーブメント:手巻き
ケース径:39.5mm

独立時計師の関口陽介さんは、スイスのル・ロックルに工房を構える。修復に携わった懐中時計に範を取った、ムーブメントの造形と仕上がりの美しさが彼の真骨頂だ。インデックスとスモールセコンドを残して彫り下げた中に釉薬を塗布し、焼成したシャンルベ・エナメル仕上げのダイヤルも見事だ。

ROMAIN GAUTHIER

ROMAIN GAUTHIERの腕時計

〈カーボニウム®、ラバー〉¥12,320,000/スイスプライムブランズ

C by ローマン・ゴティエ カーボニウム®エディションサロン限定モデル

ブランド国:スイス
ムーブメント:手巻き
ケース径:41.5mm

超精密加工の名手であり、パーツ製造の依頼が殺到する。微細加工と手仕上げを組み合わせることで、造形と質感の両面で優れた審美性を実現。このモデルでは、ダイヤル下部をカットアウトして象徴的な花びら型の歯車をのぞかせた。ケースは軽量なカーボン複合材製。

Rexhep Rexhepi

Rexhep Rexhepiの腕時計

〈Pt、カーフ〉150,000スイスフラン/アワーグラス銀座

レジェップ・レジェピ クロノグラフ・フライバック

ブランド国:スイス
ムーブメント:手巻き
ケース径:38.8mm

作り手のレジェップ・レジェピさんは、旧式の工作機械でムーブメントパーツを自作する稀有な独立時計師。手仕上げの美しさは、スイスでも屈指と称賛される。このオフセットダイヤルの下にスモールセコンドと30分積算計を配したクロノグラフは、19世紀の懐中時計に範を取った。

ŌTSUKA LŌTEC

ŌTSUKA LŌTECの腕時計

〈SS、ラバー〉¥990,000/大塚ローテック

8号

ブランド国:日本
ムーブメント:自動巻き
ケース径:31mm

独学で時計製作技術を身につけた片山次朗さんによるマイクロメゾン。日本人独立時計師として初めてジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリで部門賞を受賞した実力派だ。この新作は、古いオープンリールデッキがモチーフ。時針は毎正時に次の数字に飛び、右側の分針は60分ごとにゆっくりと0位置に戻る。

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