「インスタグラムに投稿されたケーキが可愛すぎる!」と世界で話題のターニャ・ブッシュ。人をハッピーにする魔法のケーキはどんなふうに作られる? その秘密を聞いてみた。

ブルックリンの人気ベイカーに密着! ターニャ・ブッシュの幸せケーキ仕事

「インスタグラムに投稿されたケーキが可愛すぎる!」と世界で話題のターニャ・ブッシュ。人をハッピーにする魔法のケーキはどんなふうに作られる? その秘密を聞いてみた。

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ターニャ・ブッシュ
Tanya Bushプロフィール画像
Tanya Bush

米国ニュージャージー州出身、ブルックリンを拠点に活動するライター兼ベイカー。『Cake Zine』の共同創刊者であり、ブルックリンのレストラン「Little Egg」でペイストリーシェフを務めている。『The New York Times』などに寄稿し、物語仕立てのクックブック『Will This Make You Happy』を2026年春に出版。

Food Arts

温かみがあり、ノスタルジック。ターニャが手がける、やさしい世界観を湛えたケーキの数々。

直感で作ったお菓子を片手に、本を読むのが好きな少女だった

ターニャ・ブッシュ/ストロベリーメレンゲに、ほろ苦いチョコレートファッジと塩味をきかせたクリームチーズホイップを添えたナポリタン・パヴロヴァ

ストロベリーメレンゲに、ほろ苦いチョコレートファッジと塩味をきかせたクリームチーズホイップを添えたナポリタン・パヴロヴァ

ターニャ・ブッシュは料理学校に通わず、独学でベイキングを学んだ。料理本を読み、YouTubeやInstagramを参考にしながら、レストランの厨房で経験を積んできた。「厨房ではとにかくやってみるしかないんです。試行錯誤する中で学びました」

ターニャ・ブッシュ/コンコードグレープを焼き込んだクラフティ

コンコードグレープを焼き込んだクラフティ

決められた方法を最初から教え込まれなかったことで、自分なりのスタイルを見つけることができたとも話す。料理とベイキングは別物として捉えられがちだが、ターニャは両者には共通する部分が多いと考えている。「もちろん、スケールを使って計量するなど、ベイキングにおいて守らなければならないルールはいくつかあります。でもその間には、遊べる余白がたくさんあります」

ターニャ・ブッシュ/ストロベリーコンポートとイエローケーキ

ストロベリーコンポートとイエローケーキ。ローリエを香らせたカスタードソースを添えた

たとえばレシピに「20〜22分焼く」と書かれていても、22分たった時点でまだ焼けていなければ、レシピに従ってオーブンから出す必要はないと語る。気温や湿度、オーブンの状態、材料の温度など、多くのことが影響するからだ。「私は直感的に焼くほうが好きなんです。実際に触って、よく見て、何が起きているのかを観察します」

ターニャ・ブッシュ/ハンドパイ、パヴロヴァ、チョコレートムース、ショートケーキ

ハンドパイ、パヴロヴァ、チョコレートムース、ショートケーキ

子どもの頃から甘党だったターニャ。バナナブレッドやココナッツケーキをよく作っていた。戸棚にあるものを適当に組み合わせた即席のお菓子を片手に、本を読むのが大好きな少女だった。「自分で作れば、好きなだけ食べられるじゃないですか」と笑う。

ターニャ・ブッシュ/ローストピーカンとメープルのオーツスコーン

ローストピーカンとメープルのオーツスコーン

とはいえ、当時から将来ベイカーやライターになろうと考えていたわけではない。ミネソタ州の大学を卒業した後、NYへ移住。その頃は何をしたいのか明確ではなく、編集のインターンを経験したり、公共プログラムを手がけるNPOで働いたりしていた。そんな中、パンデミックが到来する。無職となり、自分がどこに向かっているのかますます不明瞭に。当時はバナナブレッドやサワードウを焼く人が急増し、ベイキングが不安を癒やすといわれていた。彼女はそんな考えは少し馬鹿げていると考えていた。そんな中キッチンに立つと、思いがけず夢中に。「バラバラの材料を組み合わせて、何か特別なものに変えていく。それを誰かと分け合ったり、自分で食べたりすることに、喜びを感じました」

ターニャ・ブッシュ/ローストココナッツのチョコレートバースデーケーキ

ローストココナッツのチョコレートバースデーケーキ

自宅で試し続けるうちに、一人で学べることには限界があると感じ、レストランの厨房へ。コロナ禍による人手不足で、飲食業界では比較的働き口が見つかりやすい状況だった。

photography: Vanessa Granda food styling: Pearl Jones prop styling: Allie Ayers produce: Diane Ng

Welcome to Tanya’s Kitchen

ターニャのキッチンをこっそり拝見。愛用するツールや着想源となるレシピ本を見せてもらった。

文学とフードを融合させるプロジェクトが転機に

ターニャ・ブッシュ/レストランで愛用している調理器具

レストランで愛用している調理器具。ThermoProのデジタル調理用温度計(下)は料理に刺して内部温度を測り、焼き上がりを確認。Sur La Tableのベンチスクレーパー(左)は、散らばった小麦粉をきれいにしたり、生地を切ったりと活躍。Our Tableのペイストリーブラシは、焼く前のパンやパイ、ペイストリーの表面に溶いた卵を塗る際必須。リングモールド(右下)はシナモンロール作りに

いくつかのレストランで働いた後、大きな転機となったのが、シェフのエヴァン・ハンザーとの仕事だ。エヴァンが手がける、本から着想した料理を提供するプロジェクト「Tables of Contents」に参加し、デザートを作るように。

ターニャ・ブッシュ/自宅の包丁類

自宅の包丁類。日本製の藤次郎のものが中心

文学というひとつの表現から料理という別の表現を生み出す試みに、彼女は強く惹かれたという。やがて彼がブルックリンの「Little Egg」を再オープンする際、ターニャはペイストリープログラムを一から作らないかと声をかけられた。

ターニャ・ブッシュ/職場で使用しているトッピングや調味料

職場で使用しているトッピングや調味料。パンナコッタに注入する蕎麦茶や、ホイップクリームに香ばしいナッツのようなうま味を加えてくれるモルテッドミルクパウダーなど

「怖かったけれど、同時にものすごくワクワクしました」とターニャ。オファーを引き受けて以来4年間、ペイストリーシェフとして人気を博している。Little Eggでは、できる限り地元で生産されたサステイナブルな食材を使っている。

ターニャ・ブッシュ/中国を代表する十八子作の包丁

中国を代表する十八子作の包丁は、上司からのクリスマスギフト

デザートも季節の食材を取り入れて考案。店名にちなみ、卵を生かしたお菓子を作ろうと生まれたメニューのひとつがクルーラーだ。卵で膨らませるシュー生地がベース。中はカスタードのように卵の風味が感じられ、外側はクリスピーに仕上げている。取材時にはサワーチェリーがちょうど旬を迎えていたため、クルーラーにサワーチェリーとカルダモンを合わせた。

ターニャ・ブッシュ/影響を受けた料理に関する本

影響を受けた料理に関する本。特にローリー・コルウィンの『Home Cooking』が好きで、そのユーモラスで個性的な語り口に惹かれた

 ライターでもあるターニャは、文章を書くこととベイキングには、共通点があると話す。「ベイキングはとても感覚的です。匂いを嗅いだり、味わったり、泡立てたり、指先で卵の殻が割れるのを感じたりする。それは私にとって、とても物語的なことなんです」

ターニャ・ブッシュ/職場Little Eggの厨房

職場Little Eggの厨房

 書くことはターニャにとってケーキを作ることと同じくらい大事な仕事。共同創刊者のアライザ・アバーバネルと『Cake Zine』を立ち上げたのは約4年前のことだ。二人は当時のフードメディアについて話すうちに、文学的な視点から食を捉える雑誌を作ろうと意気投合。

ターニャ・ブッシュ/KitchenAidのアルチザン スタンドミキサー

KitchenAidのアルチザン スタンドミキサー。ペイストリー作りに欠かせない

創刊イベントには約300人が集まるほど話題になった。現在も年2回刊行を続けている。エッセイや小説、詩、レシピなどを掲載し、食を入り口に、人生や文化、アートについて考える雑誌だ。

Works

レストランで働く傍ら、Zineを手がけたり、本を出版したり。大忙しのターニャ。

主人公の成長に合わせてレシピの難易度も上がる新感覚ブック

ターニャ・ブッシュ/自身が手がける『Cake Zine』

自身が手がける『Cake Zine』

そして今年、初の著書『Will This Make You Happy』を出版した。ターニャ自身が「ナラティブ・クックブック(物語として読む料理本)」と呼ぶ一冊。若き日の自身をモデルにした主人公の一年を、冬、春、夏、秋の四季を通して描いている。

ターニャ・ブッシュ/2年半かけて完成した著書

2年半かけて完成した著書

ベイキングの技術を身につけていく一方で、恋愛に悩み、人生を模索する物語だ。各章には季節に合わせたレシピが収められ、主人公の成長とともに、マフィンやクッキーからパヴロヴァやアイスクリームへと難易度も上がっていく。

ターニャ・ブッシュ/レストラン、Little Eggで提供するメニュー

レストラン、Little Eggで提供するメニュー。「スイートコーンマフィン」(左・$6.18)と「ダークチョコレートチャンククッキー」(右・$5.15)、『New York Magazine』が運営するフードメディア『Grub Street』2023年ベストペイストリーを受賞した「リトルエッグクルーラー」(下・$6.18) ※$1=約159円です(2026年9月1日現在)。

本の中で見せたかったのは、美しく完成したお菓子だけではない。写真はあえてフードフォトグラファーではなく、ファッションフォトグラファーに依頼し、スタイリングされすぎない、誰かが実際に暮らしているような世界を目指した。汚れた皿がたまったシンクの写真も登場する。「艶やかで完璧な完成形だけではなく、実際に何かを焼くとはどういうことなのか、そのプロセスを見せたかった」

ターニャ・ブッシュ/Little Eggの店内

Little Eggの店内。メニューは旬の食材や旅先から着想を得ることが多い

幸せな瞬間もあれば、失敗し、恥ずかしい思いをするときもある。ターニャがこの本で描きたかったのは、そうした経験も含めて新しいことを学んでいく姿だった。「この物語を読むことで、自分もキッチンに立ってみようと思ってもらえたら」

ターニャ・ブッシュ/Little Egg前にて

Little Egg前にて

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