2021.11.22

正しく理解すれば、生きやすさの選択肢が広がる!もっと知ろう、ピルのこと PART2

世界と比べてみても、日本での服用率が圧倒的に低いピル。まずはメリット・デメリットは何なのか、正しく知ることから始めよう。もしかしたら、快適に過ごすための選択肢のひとつになるかもしれない。

PART2 ピルのここがわからない、本音トーク

ピルについて知りたいことやモヤモヤを、産婦人科医の髙橋怜奈先生に聞いてみた。

 

お話を伺ったのは…
髙橋怜奈先生 産婦人科医

たかはし れな●東邦大学医療センター大橋病院・産婦人科在籍。自身のYouTubeではピルや性教育など女性の体に関する知識を発信中。ダイエットや食事療法、運動療法のアドバイスなど活動は多岐にわたる。

 

Readers

Aさん 24歳。
これまで生理痛の悩みもなくピル未経験だが、友人からすすめられ気になっている。
Bさん 30歳。
20代からPMSに悩んでいたが、出産後の排卵痛の悪化により昨年からピルを服用中。

 

毎月の負担が軽くなることで広がる選択肢と明るい未来

Aさん(以下A) 私は生理に関する悩みがあまりなかったので、これまでピルの服用を検討したことがありませんでした。産婦人科に通ったこともありません。ピルについて、基本的なところから教えてもらいたいです。

髙橋先生(以下T) みなさんのいうピルは、“低用量ピル”と呼ばれる、エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンを主成分とする薬。飲むと薬に含まれるホルモンの影響で排卵が抑制されるので、子宮内膜が厚くならず、生理の出血量も減少し、生理痛などの体の不調を軽減してくれます。生理不順の解消やPMS(月経前症候群)の緩和も期待できます。排卵せず、子宮内環境自体も着床しづらい状態になり、高い避妊効果も得られるのです。

A 私のように現在婦人科系の悩みがない人は、特にピルを服用しなくてもいいということでしょうか。

T そうですね。服用しなくてもいいとは思いますが、もし自分に娘がいたら、服用をすすめますね。

A そうなのですね! それだけのメリットがあるということですか?

T 排卵って、卵巣の壁がパカッと開いてストレスなく卵子が出てくるわけではなくて、壁を突き破って卵子が出ていくんです。妊娠を希望していないのに毎月排卵しているのは、無駄に卵巣を傷つけているようなもの。ダメージが積み重なると卵巣がんのリスクが上がりますし、長期的に服用し卵巣の壁がきれいに保たれることで、ピルをやめていざ妊活したいと思ったときに排卵がスムースになるので、将来的に妊娠しやすくなるともいわれています。

Bさん(以下B) それ以外にはどんなメリットがありますか?

T 大腸がんや子宮内膜症のリスクを抑える効果があります。排卵後に厚くなった子宮内膜が不要となって剥がれ落ち、膣から外に出ていくのが生理ですが、子宮の先にある卵管は、実はお腹ともつながっているので、生理中はお腹の中にも経血が逆流しているんです。この状態が長く繰り返されると子宮内膜症や、その結果不妊症の一因となることもあるので、表面的な悩みがなくても、ピルを服用するメリットは大きいと思います。

A 話を聞いていると見えないところで体がむしばまれている気がしてきました……。逆に飲み続けてデメリットになることも知っておきたいです。

T 血栓症や子宮頸がんのリスクが若干上昇することについては、問診でお話しするようにしています。前者はエストロゲンという女性ホルモンの影響。ただ、エストロゲンの量でいうと妊婦さんや産後の女性の分泌量のほうがずっと多く、ピルを飲んでいてもそこまで心配するほどではないのです。軽い運動を心がけたり水分をしっかり取ることが予防につながります。後者は、子宮頸がんの原因となるHPVの排除率が若干下がってしまうことが原因。子宮頸がんは早期発見・早期治療ができる病気なので、ピル服用の有無にかかわらず、定期的に検診を受けてもらいたいです。また、子宮頸がんはワクチンがかなり有効な予防手段なので、まだの方には年齢などを考慮した上で接種することもご提案しています。ほかにも、体質によっては超低用量ピルでも吐いてしまうといったマイナートラブルが起きてしまう人も。処方する際にはさまざまな可能性をお話しするようにしています。

A ピルが自分に合うのか合わないのかは実際に服用してみないとわからないのか……。ピルを正しく効果的に飲むためには、定期的にちゃんと産婦人科に通うことが大事ですね。

B 私は1年ほど前から、出産後の生理痛や排卵痛を和らげるためにピルを服用し始めました。ピルを飲むのに体質の向き不向きはあるのでしょうか?

T 細かいガイドラインがあるのですが、具体的なところでいうと35歳以上で1日15本以上のタバコを吸うヘビースモーカーの人、高血圧や糖尿病の重症な人、前兆のある偏頭痛持ちの人は禁忌になります。初めてピルを希望する方には誤って処方することのないように事細かに問診をします。

B 私は今「ジェミーナ」というピルを服用していて、特に副反応などもなく効果を実感しています。でも生理前と生理中の眠気に悩まされていて……。もっと自分に合う種類や効能の薬があるのかなと思ってしまうのですが、ピルを見直すタイミングが知りたいです。

T ジェミーナは連続服用もできるタイプのピルです。もし今、月に一回休薬して生理を起こしているのであれば、連続服用に切り替えて生理の回数を減らすと、ホルモンの変動が起きないので生理前後の不調が改善される可能性があります。ピルと一口に言っても10種類以上あり、種類によって飲み方や入っているホルモンの量も異なります。目的によっては処方する薬を変えたほうが楽になることもありますが、こればかりは飲んでみないとわからないので、少しでも異変やストレスがあるなら医師に相談したほうがよいと思います。

B 時間通りに飲めなかったり飲み忘れてしまう日もあるのですが、一回飲み忘れただけでも効果がなくなってしまうものなのでしょうか。

T これに関しては種類によって異なるのですが、丸々2日以上空いてしまうと生理が来てしまったり、避妊に失敗してしまうことがあります。基本的には丸1日以上は飲み忘れないようにしたほうがいいと思います。

B 安心して飲むうえで、よい産婦人科を見つけるためには、どうしたらよいでしょう。

T 産婦人科の中にも分野があって、妊婦健診が中心なのか、不妊治療が専門なのか、クリニックや医師によって方針はさまざまです。取り扱うピルの種類も変わってくるので、事前にホームページなどで何に力を入れているのか確認をしたほうがいいと思います。ピルの種類や値段を細かく記載していたり、学割を実施していたりするところは、処方に理解があったり知識が豊富な医師がいることが多いですよ。

 

 

SOURCE:SPUR 2021年1月号「もっと知ろう、ピルのこと」
illustration: Yuka Takamaru text: Rio Hirai, Ayako Nozawa

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