ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いた。|6月23日〜開催 『エットレ・ソットサスー魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』

1980年代にデザイン集団「メンフィス」を結成した巨匠エットレ・ソットサス。彼が手がけた家具のポップな配色は、トレンドのカラーブロック・スタイルと共鳴する。

1980年代にデザイン集団「メンフィス」を結成した巨匠エットレ・ソットサス。彼が手がけた家具のポップな配色は、トレンドのカラーブロック・スタイルと共鳴する。

INDEX

Carlton(1981)

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_1

「カールトン」〈H196×W190×D40〉¥3,740,000/SOMEWHERE TOKYO

エットレ・ソットサスが「メンフィス」を開始したのは1981年。この本棚「カールトン」はそのファーストコレクションで発表された。当時デザイン業界で主流となっていた合理主義、機能重視のモダニズムにアンチテーゼを打ち立てたメンフィス。あえて悪趣味とも取られるような色使い、家具の概念を壊すフォルムが強烈なインパクトを残すものの、アートではなくあくまでも日常的に使うことを目的として作られている。木材にラミネート板を張り合わせ、ともすればチープと取られるような製法をあえて用いているのも斬新だ。

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_2

ジャケット¥737,000・ブラトップス¥125,400・ショーツ¥105,600・グローブ(参考色)¥352,000(すべて予定価格)/プラダ クライアントサービス(プラダ)

「カールトン」のマルチカラーから着想を得て、グリーンとオレンジがリズミカルに響き合うルックをセレクト。ポロシャツを再解釈したロングジャケットから、ちらりと見えるショーツがビビッドなアクセントを添える。折り返した袖口のカーキ、ブラのグレーが、配色のほどよい仲介役に。

Tahiti(1981)

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_3

カーディガン¥349,800・スカート¥349,800・バッグ¥492,800/フェンディ ジャパン(フェンディ) 「タヒチ」〈H65×W38×D10〉¥280,500/SOMEWHERE TOKYO

ランプ「タヒチ」はソットサスの代表作の一つ。鳥を模したトイのようなルックスがアイコニックだ。赤いクチバシ部分に電球を配置。ピンクの頭部のバーを回すことで、照明の方向を操作できる。台座に貼られているのはソットサスがデザインした「バクテリア」プリント。ケーブル編みのセットアップにイエローのバッグを携えて、ランプのキャッチーなカラーコンビネーションと呼応させた。

Astimelusa(1986)

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_4

バッグ〈H10×W31×D7〉¥344,300/リシュモン ジャパン アライア(アライア) 「アスティメルーザ」〈H46×φ18〉¥660,000/SOMEWHERE TOKYO

メンフィス・ムーブメントの後期、1986年にソットサスは多数のガラスコレクションを手がけた。ヴェネチアンガラス製の花瓶は、花を生けるというよりオブジェとして楽しみたい作品。リズミカルなカラーパレットとシェイプが、日常風景に喜びを運んでくれる。ダックスフントの細長いシルエットから着想を得たバッグ「ル テケル」のグラフィカルな台形シルエットと深いブルーグリーンが、メンフィスの世界観にマッチする。

Palace(1983)

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_5

ジャケット¥544,500・シャツ¥143,000・パンツ¥170,500・靴¥143,000(すべて予定価格)/セリーヌ ジャパン(セリーヌ) 「パレス」〈H95×SH44×W49×D45〉¥275,000/SOMEWHERE TOKYO

ソットサスとともにメンフィスを立ち上げたイギリス人デザイナー、ジョージ・ソーデンが手がけた椅子。木材にラッカー塗装で仕上げられている。脚、アーム、背もたれの上部に差した色が、静謐な黒の世界に遊び心を生み出す。細身のパンツシルエットがモダンなタキシードに、チェアとリンクする青いコットンポプリンのシャツをきかせて。

Treetops(1981)

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_6

シャツ¥122,100・ショートパンツ¥71,500・アンダーショーツ¥71,500・スニーカー¥84,700(すべてメンズ)/ドリス ヴァン ノッテン 「ツリートップス」〈H195×W75×D24〉¥550,000/SOMEWHERE TOKYO

その名の通り、風に揺れる木と葉のシルエットを想起させるフロアランプ。メタル製ながら、大きく弧を描く支柱がもたらす不思議なバランス感が特徴だ。イエローのボックスに配された電球が天井を照射する設計。とろけるような質感のシャツとショーツは、パープルやエメラルドといったジェムカラーが彩りを添える。ちらりとのぞくアンダーショーツのオレンジがランプの支柱と共鳴する。

Prati(2000)

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_7

トップス¥225,500・スカート¥220,000・スカーフ¥100,100・靴¥258,500(すべて予定価格)/ミュウミュウ Nライアントサービス(ミュウミュウ) 「プラティ」〈H210×W97×D50〉(要問い合わせ)/SOMEWHERE TOKYO 

メンフィスの活動は1981年から1988年までと短かったものの、ソットサスはその後も精力的に創作を続ける。このキャビネットは2000年に発表された。メンフィス期より落ち着いたトーンだが、内部側面には複雑なパターンのラミネート板が、奥面には鏡が配された実験的なデザイン。側面にはテーブルが添えられ、ユーザーに自由な使い方が委ねられている。ポロシャツとスカートのツートーンでキャビネットの色みをリフレイン。

エットレ・ソットサスは何がすごい?

人を幸せにするデザインを問い続けた20世紀の異才

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_8

photography:Bridgeman Images/アフロ

6月から東京のアーティゾン美術館で『エットレ・ソットサスー魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』が開催される。ミラノを拠点に、2007年に90歳で亡くなるまで半世紀以上にわたって活動。80年代にはデザイナー集団「メンフィス」を結成し、斬新かつ革新的アイデアを提起してきたイタリア人デザイナーの、日本初の大型回顧展だ。キュレーションを手がけた学芸員の杉本渚さんに、そんなソットサスの功績について話を聞いた。

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_9

エットレ・ソットサス《マラバール》1982年(デザイン)/1982年(製作:メンフィス・ミラノ、ビトッシ)、石橋財団アーティゾン美術館 © Erede Ettore Sottsass

木や塗装した金属を用いたキャビネット《マラバール》

——今回の展覧会には興味深いサブタイトルが添えられていますね。

これは1962年にソットサスが発表した重要なエッセイにある、「デザインが始まるのは合理的なプロセスによる改良が終わり、魔法のプロセスによる改良が始まるときだ」という言葉に由来します。彼は60年代にカウンター・カルチャーに傾倒して、行き過ぎた合理主義への警戒感や不信感を抱き、人間の生々しい感覚を重視していました。魔法という言葉には、彼のデザイン観がとてもよく表れているように感じますし、非常にカラフルで遊び心があるデザインにもマッチしているのではないでしょうか。

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_10

エットレ・ソットサス《キャビネットNo. 71》2006年(デザイン)/2006年(製作:ギャラリー・モーマンス)、石橋財団アーティゾン美術館© Erede Ettore Sottsass

最晩年の作品《キャビネットNo.71》。「最後まで挑戦し続けた彼の飽くなき探求心が表れています」と杉本さん。

——まさに、ソットサスの色使いやポップでグラフィカルな表現は独特です。

彼はポップアートなどに深い関心を持っていましたし、同時代のカルチャーから影響を吸収していたんだと思います。また彼は、60年代半ばのパリなど都会の若者のファッションを称賛していました。ストライプやドットを自由に組み合わせたり、ビニールのような素材を使ったり。そういったパワーをデザインに取り入れたいとも綴っています。

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_11

エットレ・ソットサス《オダリスク》1964-66年(デザイン)/ 1986年(製作:ミラビリ・アルテ・ダビテール)、石橋財団アーティゾン美術館 Ⓒerede Etorre Sottsass, JASPAR, Tokyo, 2026 C5450

《オダリスク》は陶器のパーツからなる巨大なオブジェ。その下で居眠りしたり瞑想する場になればという願いが込められている。

——ソットサスのデザインの革新性はどこにあるのでしょうか?

やはり既成概念にとらわれないところでしょうか。古代や原始の世界に関心を抱く一方、最新のカルチャーにも敏感で、多彩なものから着想を得ていたことがソットサスの特徴だと思います。折衷的だと言われることもありますが、それも、いろんなところからインスピレーションを受けて、好奇心に従ってデザインに昇華していたからこそ。それに彼は若いデザイナーたちと盛んに交流しました。しかも、大先輩として彼らを導き、慕われる一方、自分も若いデザイナーたちから積極的に学んでいた。そういった柔軟さも、ソットサスの革新性につながっていたのだと思います。

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_12

エットレ・ソットサス《ソル》1982年(デザイン)/1982年(製作:メンフィス・ミラノ、トソ・ヴェトリ・ダルテ)、石橋財団アーティゾン美術館 © Erede Ettore Sottsass

ガラス作品《ソル》。「職人に深い敬意を抱くソットサスは、デザインするのは僕だけど素晴らしいものになるかはガラス職人の腕にかかっている、と語っています」

——60代になって結成したメンフィスも、世代や国籍を超えたデザイナー集団でした。

メンフィスには明文化されたマニフェストはありません。にもかかわらず、多数のデザイナーが参加し、一貫して、色や形や素材を大胆に組み合わせたデザインを提案しました。と同時にモダン・デザインとは異なる視点から機能性を捉えていたところがあります。たとえば、テーブルの脚が斜めになっていたとしても食事や作業をするのに支障はなく、人をワクワクさせるデザインであれば、それは機能的だと言えるとソットサスは発言しています。機能性の概念をどこまでも広げたアプローチが新しい。今回の展覧会ではメンフィスに参加した日本人デザイナー、ソットサスと交流のあった倉俣史朗の作品も展示されます。基本的に理知的なデザインをしていた倉俣は、ソットサスにもっと気楽にやってみたらというようなことを言われ、解放された部分があると思うと発言しています。

ソットサスは何がすごい? 学芸員に聞いたの画像_13

倉俣史朗《トウキョウ》1983年(デザイン)/1983年(製作:株式会社イシマル)、石橋財団アーティゾン美術館 © Kuramata Design Office

メンフィスの仲間の作品として展示される倉俣史朗の《トウキョウ》

——杉本さんが本展に関わって、彼について何か新たに気づいたことはありますか?

ソットサスについて調べると必ず「アヴァンギャルド」や「ポストモダン」といった言葉で形容されていて、私も最初はそんなイメージを抱いていました。「新しいことをやってやる!」という反骨精神にあふれていたと思っていましたが、知れば知るほどそこまで攻撃性は強くない。そこは彼の本質ではなく、純粋に人々の役に立ちたいという想いがあったのだと気づきました。真摯に世界のこと、人々のことを考えて活動していたんだと思います。

INFORMATION

『エットレ・ソットサスー魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』

「メンフィス」時代の前後も網羅し100点以上の作品でイタリアン・デザインの巨匠ソットサスのキャリアを総括。

会期/6月23日〜10月4日
会場/アーティゾン美術館