Tom Ford

Interview with Tom Ford

PROFILE
トム・フォード●アメリカ・テキサス州生まれ。90年代にはグッチのクリエイティブ・ディレクターとして活躍し、2005年に自らのブランドを設立。映画監督としての才能も開花させている。2019年、CFDAの会長に就任した。

ファッションは文化を映す鏡
そして、社会へのリアクション

 CFDA(アメリカファッション協議会)会長としてもファッション業界を率いるトム・フォードは、これまでもさまざまな提言や行動をいち早く起こしてきた。5月21日にはCFDAと英国のファッション協議会が、共同でファッションシステムの大きな変革に関する声明を発表したばかり。この世界的なクライシスに対して、彼は何を語るのだろう。

「今回の危機は、奇しくもファッション業界において長きにわたり間違ってしまっていた多くのことを浮き彫りにしている、と言えるでしょう。私たちは年間、多くのコレクションを作りすぎ、また見せすぎていました。そして間違ったシーズンに服を買うように消費者たちをトレーニングし、また際限なく服を供給することで、購入する服に対してのリスペクトさえ失わせてしまったのかもしれません。本当に大切なのは、量ではなく質なのに」

 彼のアトリエや工場、そして店舗もすべて閉鎖されていたロックダウン時の状況については、「いったん立ち止まり、これまで自分たちがつくり上げてきたことについて、そして今後何をつくっていくべきかについてしっかり考えることのできる機会はめったにあることではない」と捉えている。そして「今、何か新しいことを始めるのは難しいかもしれないけれど、ファッションというのは常に私たちのカルチャーを映す鏡であり、私たちを取り巻く社会へのリアクションでもある。今、世界で起こっていることに注意を払わず創造することは大きな間違いだとも感じています」と続ける。

 ここ数年、ファッション業界でも大きくクローズアップされているサステイナビリティに関してはこう語る。「年間4回のペースでしかるべきクリエイティビティを保ちながらコレクションを作るのはそもそも難しいこと。そんな状況こそがファッションビジネスにおけるサステイナビリティを阻んできました。願わくば今後は数は少なくてもよりよいコレクションを、そしてもっと質の高い、使い捨てにされないような製品を作る方向へ向かえばよいと思います。そうすることで、私たちの業界はよりサステイナブルなものになっていくはず。コレクションやファッションショーの数、そして出張の数を減らしていくことが、最終的にはより大きな顧客満足をもたらす商品を作ることにつながっていくと考えます」

 ウィズコロナの時代におけるショーの存在意義について尋ねると、「オンラインでもショーを見ることはできますが、ライブのランウェイショーほどの力はない。今日ショーを開催することの大きな目的は、SNSを使ってブランドを露出するためのプラットフォームをつくることになってきている。SNSは何千万人もの潜在的な顧客へリーチすることが可能だし、紙媒体の編集予算が縮小される時代においては、ファッションショーでの画像こそがブランドにとっては重要な素材になっています。デザイナーと参加者の双方にとって参加しやすいスケジュールを考える必要がありますが、私自身はこれからもライブのファッションショーは必要だと信じています」。

 ファッションデザイナーを目指す次世代に向けて、こんなメッセージで締めくくる。

「ファッションとは文化の一部であり、私たちの個性を表現するものです。着飾り、外見を通じて人格を表現すること、それは私たち人間の本質であり、種として不可欠であるとも思います。今後、ファッションは変化し、また進化するかもしれませんが、いつまでも私たちの生活の一部であり続けるでしょう。夢を持ち続けてください」

“HANDS”と名づけた写真。夫と息子、愛犬と一緒に過ごす日々。その“絆”こそが大切なもの。

interview & text: Akiko Ichikawa

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