Marine Serre

Interview with Marine Serre

PROFILE
マリーン・セル●ブリュッセルのラ・カンブルでファッションを学び、マックイーンやディオールでのインターンを経てバレンシアガのデザインチームに。2016年、パリで自身のブランド設立。翌年にはLVMH賞に輝く。

縮小、減少、削減。
それは未来のためのよりよい思考

 小柄な体にはバイタリティがみなぎり、きりっとした表情には強い信念がひと目で読み取れる。下向き半月形のロゴで知られるマリーン・セルは、29歳のフランス人。スポーツウェアの素材を使ったクチュール的シルエット、文化や時代をミックスしたスタイルで、ファッション界に新潮流をもたらした。また彼女はアクティビストと言えるほどたゆまずに環境問題を提起し、緊迫感のあるプレゼンテーションで、見る者やメディアを煽っている。

 こうして彼女はデビュー後ほどなくして、一躍若手のオピニオン・リーダーとなった。だから、「ファッション業界への公開書簡」に先駆けてオーガナイズされたデザイナーたちのZoomディスカッションへ、いち早くドリス・ヴァン・ノッテンが彼女を巻き込んだのもうなずける。ロックダウンの間、ひそかにこの動きに参加する一方、マリーンは着実に、自身の道を歩み続けた。

「外出禁止の間も、実際の打ち合わせですべきことをオンラインに移行した以外、仕事のリズムはあまり変わらなかったの。むしろ普段よりたくさん働いたくらい! 仕事、仕事、また仕事……。頼りになる素晴らしいチームがいて、私は本当に幸せ。みんなで一緒に前進して、未来について考えられるから」

 彼女はデビュー当初から自身のクリエーションを“フューチャー・ウェア”と呼び、“未来”を度々口にする。近未来的なスタイル、という短絡的な意味ではない。地球の、社会の未来を案じて、またその中でのファッションが担うべき役割を考察しての服作り、と広義に解釈すべき言葉である。

「ファッション界の慣習は、もともと変わるべきだった。これは、今になって浮上したことではないわ。でもパンデミックはこの考えに拍車をかけ、結果的に誰にとっても、生き残るための急進的な変化は緊急な課題となった。私たちの未来の暮らしに、必要なものは何か? 答えは新しい服の生産を減らし、ショーの回数を減らし、物や人の移動、特に旅を減らすこと。縮小、減少、削減。それは意味のある未来のための、よりよい思考にほかならないわ」

 マリーンが仕事を通じて削減に努めているもののひとつが、二酸化炭素の排出だ。空気のクォリティについても敏感な彼女は、対ウイルスでのマスクの需要が世界規模になる遥か前、すでに昨年の2月にフランスのマスクメーカーR-PURとコラボレーションでフィルターつきマスクを開発し、ランウェイに採り入れている。この時点では公害対策であったことは言うまでもないが。また、“自分たちのような小さなメゾンでもできる小さな努力”の一環として、コレクションの50%を再利用の生地とアップサイクルで製作。去る5月、「マリーン・セル」2020年春夏コレクションのアップサイクル・アイテム製作プロセスを収めた一連のビデオ「Regenerated」が、YouTubeで公開された。デニム、クロシェ編み、スカーフ、インテリアファブリック、タオルなど素材別に分かれた各ビデオはいずれも2分程度で、素材の選別や組み立て、縫製まで、各工場にて職人の手もとをカメラが追っている。「マリーン・セル」ではメッセージ性とクリエーションがひとつであることを語る動画だ。

「世界が待っている新しいファッションをつくるには、最大限に環境のことを考える。これからも厳格さを持ちつつ、最高にクリエイティブでいないと」と、彼女は断言する。

 ところで、こんな彼女の強硬な姿勢を陰で支えているのは、人々とのつながりだ。

「普段は何かとじゃまが入って、なかなかひとつのことに集中できないけれど、ロックダウン中はいろいろなことをする機会が持てた。そして、人々とのつながりを切に感じられたわ。電話での長話も時間を気にせずできたし。パンデミックが終息したら、まずは彼らに会って、愛情を表現し、強く抱きしめたいの」

 未来や環境だけでなく大切な人々とのつながりを語るときも、マリーンの口調は熱い。

2020年春夏コレクション「Marée Noire」の、ヴィンテージのクロシェ編みを使ったアップサイクル・アイテム製作風景。ロックダウン中もいつもどおり、服作りは続いた。

interview & text: Minako Norimatsu

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