Phillip Lim / 3.1 Phillip Lim

Interview with Phillip Lim

PROFILE
フィリップ・リム●1973年中国人の両親のもとタイに生まれ、その後一家でカリフォルニアに移住。大学では経済学を学ぶがファッションへの情熱に目覚め、転向。2005年31歳のときにNYへ移り、自らのブランドを設立した。

実はもう、そんなに多くは
要らないって気づいたんじゃないかな

3月半ばにオフィスを閉鎖して以来、2カ月以上にわたるステイホーム期間をソーホーのアパートで過ごしていたフィリップ・リム。

「毎日ものすごく忙しくて、そんなにたったなんて信じられないな。もともと僕は家にいるのが大好きで、いつも家の中でハッピーに過ごすことを大事にしてきた。だから今の生活もまったく苦にならないよ」

 レシピ本『More Than Our Bellies』も出版しているくらい料理上手でもあり、彼の日常はこれまでもインスタグラムで#noplacelikehomeという独自のハッシュタグとともに発信されてきた。まさに“ステイホーム”のプロとも言えそうな彼のもとには今、ありとあらゆる依頼が舞い込んでいるという。

「みんなコンテンツを探しているんだよね。だから僕にインフルエンサーみたいな役割を期待して調味料の試供品とかが送られてくることも。SNSを介してみんなが僕のことを(個人的に)知っているという錯覚を持ってしまって、ダイレクトメッセージの数も対応しきれないほど。僕が家で暇にしているだろうと思っていろいろ依頼してくれるのかもしれないけど(笑)、僕の時間は僕のもの。『いつでもどこでもなんでもすぐに手に入る』といった意識は、この際見直すべきかもね」

 ブランド設立15周年を迎える今年、図らずも遭遇した危機に際しては「自分でビジネスを始めた頃のような気分を思い出している。これまではチームの誰かがやってくれていたようなことも、今は何から何までひとりでやらなくちゃいけないからね。でも、いろんな意味でサステイナブルなバランスを保ちながらスローダウンする、というのは自分の中では自然な流れだった。僕らはこれまで知らないうちに経済とか巨大な業界にからめ捕られていた。でもこのステイホームの期間、自分たちの手にある限られたものの中でどうやって生きていくか?という試行錯誤を経て、実はもうそんなにたくさんは要らない、ということに気づいたんじゃないかな? 本当に必要なこと、そして今までどんなことを忘れていたのか。新型コロナ禍をきっかけとして僕らは考えるだけじゃなく、実際に行動せざるを得なくなった」。

 ハンプトンの海沿いにある週末の家でなく、あえてマンハッタンに残ったことについては、「今逃げ出したら決して現実を受け入れることはできない、と思ったからね。都会に残ったほうが誰かの助けになるかもしれないし。社会と呼応しながら、ベストを尽くしたい、と考えている。今一番会話をしているのは自分自身、本当のバリューとは何なのかって」。

 本来なら次のシーズンのコレクション準備が始まる時期だが、「抽象的なインスピレーションをもとに服をデザインすることには、まったく興味がなくなってしまった。自分は今、何を着たいか? 人々は何を必要としているのか? そしてデザイナーとして何が提供できるのか? そういったことに関心があるんだ。まだ詳しくは言えないんだけど、僕らの“ライフ”に直結するような服を作る準備をし始めたよ。ファッションとは、自分がどうなりたいか?を実現する手段でもあると思うから。服がパワーを与えてくれることもあるしね」。

 NYを含め世界の各地が徐々に再び動き始める中、このステイホームの経験を忘れないことも大切。

「今後、僕らは単に元の状態に戻るのではなく、生まれ変わる、という意識が必要。過去を振り返るのでなく前進をしていかないとね」

「今、興味があるのは、いのち。自分だけでなく、自分以外のものに責任を持ち、育てることで学びがある。だから今、部屋の中でたくさんの植物を育てているよ」

interview & text: Akiko Ichikawa

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