Sander Lak / Sies Marjan

※こちらのインタビューを受けていただいたのちの6月16日、シエス・マルジャンはブランドをクローズすることを発表しました。

Interview with Sander Lak

PROFILE
サンダー・ラック●ブルネイ・ダルサラーム生まれ、父の仕事の影響で世界各地で育つ。オランダの美術大学を経て、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズを卒業。2016年に彼の父母の名前をつけたブランド、シエス・マルジャンをNYで設立した。

自然のグリーンと、空の色
ファッションと無縁の、純粋な喜び

 ニューヨーク州北部にあるセカンドハウスで過ごしているサンダー・ラック。緑豊かな環境にあり、「大人になってこんなに長い時間を自然の中で過ごすのは初めての経験だね」と語る。

 色使いの美しいコレクションに定評のある彼だが、新たな色の発見はあったのだろうか?

「今、自分を取り囲むさまざまなトーンのグリーン。もともと好きだった色だけれど、特に今は穏やかさをもたらしてくれるように感じます。そして空のブルー。たとえ曇り空だったとしても、多彩なトーンがある。朝、目覚め、新緑と空、その2色のコンビネーションが幸福感を運んでくれる。それは特にファッションの文脈とは関係なくて、もっと純粋な喜びだとも思います」

 発表されたばかりの2020年秋冬コレクションのテーマは奇しくも“Countryside”。これは彼の故郷でもあるオランダを拠点とする建築事務所OMAの創始者レム・コールハースが率いた展覧会「Countryside, The Future」を着想源としたものだった。ブランドとしては初めてスポンサーとして名を連ねた企画展で、この春グッゲンハイム美術館で始まったが、現在は閉館が続いている。

「レムやOMAのチームとのコラボレーションは約1年前から始めました。僕はひとつのコレクションを作るのにそんなに時間をかけることはめったにないから、その点でも刺激的でしたね。展覧会は、僕らが現代さまざまな場面で向き合っていることを取り上げていますが、コレクションでは各国のアーティストや大学の研究機関、伝統的な素材工房などと共同リサーチをしながら素材開発をしました。実際、今僕は地方で立ち往生しているような状態で、展覧会のテーマをまさに体験しているわけだけど、デザイン自体は特にカントリーライフに即したものというわけではありません」

 ステイホームを始めてからは手を使って何かをクリエイトすることで癒やしを得ているという。

「庭仕事をしたり、仕事とは関係ないドローイングをしたり。子どもの頃は絵を描くのが大好きだったんだけど、シエス・マルジャンを始めてからは描いていなかった。というのも、それまでずっとたくさんのスタイル画を描きすぎて、ドローイングに疲れていたんだと思います。でも5年たったこのタイミングで何かを描きたい、という意欲が湧いてきた」

 新たなコレクションについては、「世界の情勢は日々刻々と変わっているから、複数のシナリオをもとに準備を進めています。普段なら10分でぱっと終わるような素材の打ち合わせでも、スワッチのやりとりだけで1週間以上もかかる。さわり心地やドレープ感はZoomミーティングではなかなか伝えるのが難しいですしね。でも、このことは僕ら全員にとっての学びでもあるんです」と語る。

 約5年前、ブランドを立ち上げたときもファッション業界は決して好景気とは言えなかったが、これまで着実に存在感を放ちながら成長してきた。

「もちろんたくさん失敗もしてきました。でも、今再び新しいスタート地点に立っているようにも感じています。この危機はファッション業界はもとより、全世界の在り方を変えるかもしれない。これから僕らはどう変わっていったらいいのか? 自分は世界にどんなインパクトを与えられるのか? まだ未来はどうなるかわからないけど、わからないからこそ、エキサイティングでもあるんです」

彼の家の近くにある森。「春になっていっせいに命が芽吹き出す、その自然の美しさに改めて感動しています。母なる大自然は無償で僕らに大切なサインを送っているのだと」

interview & text: Akiko Ichikawa

FEATURE