Grace Wales Bonner / Wales Bonner

Interview with Grace Wales Bonner

PROFILE
グレース・ウェールズ・ボナー●2014年にセントラル・セント・マーチンズ卒業後、自身のブランド設立。ブリティッシュファッションアワードのメンズ・ウェア・デザイナー新人賞、LVMHプライズグランプリなど受賞歴多数。

時代を超越した服作りが
ポストコロナの新基準に

 イギリス系ジャマイカ人の父、英国人の母というふたつのルーツを持つグレース・ウェールズ・ボナーのクリエーションは、常にアフリカンカリビアンの歴史と文化を見つめてきた。黒人文学を中心としたアカデミックな起点から膨大なリサーチを重ね、異なるカルチャーの合流点との対話を試みてきた彼女。新型コロナウイルスの影響で余儀なくされた外出自粛の日々は、自身と再び向き合う時間を与えてくれたという。

「今はすべきことを見つめ直し、自分にとって最も意義のあること、基盤となるものを原点に立ち返って考えることに時間を費やしています。大切にしているのは、そうした“時間”なのかもしれません。この状況が、私の思考や集中力、創作活動の精度をより高めてくれています。それが強い意志を持ったアウトプットへとつながっていくのだと思います」

 今年初頭にロンドンで発表された2020-’21年秋冬コレクションは、ロンドンのユースクラブに集う1970年代のイギリス系アフリカンカリビアン2世の若者たちのルポルタージュから着想。保守的な装いを拒み、多彩な文化を取り入れた彼らの誇り高く個性的な着こなしと感性とをテーマに据えている。その挑戦的な気品を表現したコレクションを、グレースは自身のアイデンティティへの回帰と位置づけた。その思いは、自身との対話に十分な時間の中で熟成され、次季のコレクションへと進化していく。

「現在2021年春夏コレクションの構想を練っていますが、今回のコロナ禍の中で考える時間を与えられたことで、ブランドDNAの核心へと立ち返った、とても本質的なコレクションになると思います。私の思考は常に進化していますが、今回のことで自分の着想源そのものが変化したとは感じていません。依然として核となる命題に寄り添い、今後もカリビアンのアイデンティティと美意識とを追求していくことに変わりはないのです。ファッションにおけるブラックカルチャーの表現を昇華させ、ヨーロッパのラグジュアリーに“アフロ・アトランティック”の精神を取り入れていきたいと考えています」

 そんな中、イギリスファッション協議会は6月開催予定のロンドン・ファッションウィークをメンズとウィメンズを統合した形で、完全デジタル配信で行うことを発表。「全世界対応の未来型プラットフォーム」となりうることを示唆している。デジタルツールを駆使することで、エクスクルーシブ化やラグジュアリー化により閉塞感が影を落とし始めたファッション業界を、作り手と消費者との間のコミュニケーションにより活性化する試みは新しい可能性を秘めている。ランウェイでコレクションを発表してきたグレースも、この新たな形態に期待を寄せている。

「自分のコレクションをより幅広いコミュニティに向けて発信できる、絶好の機会だと捉えています。ファッション業界は、その欠点と限界に気づくべきときに来ている。今こそ、広い視野でサステイナブルな物づくりやビジネスの在り方を考える好機ではないでしょうか。私は伝統的なクラフツマンシップの素晴らしさに心惹かれたことでファッションに興味を持ち、傾倒していきました。ポストコロナの時代では、美と手仕事の追求、そして古きよきロマンティックな手法で、時代を超越した美しい服を創り出すことにこそ価値があると考えています」

 かつて「リサーチを通して、ひとりで過ごすことが世界を巡り、世代や国籍を超えて多くの人とつながる瞬間をもたらしてくれた」と語ったグレース。多文化都市ロンドンで、さまざまな文化の合流点に自身のアイデンティティを模索してきた彼女だからこそ、この危機的状況から生まれた社会的な分断を逆手に取り、新たなマルチカルチュラリズムのスタンダードを表現してくれることだろう。

「今の癒やしは自然の中で過ごすこと」というグレース。「自然に触れると、身近な環境問題に目を向けることができるんです」。チューリップやラッパ水仙など花々を撮影することで、自身のクリエイティビティを違う形で表現できることに気づいたそう。

interview & text: Yumi Hasegawa

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