Christophe Lemaire & Sarah-Linh Tran / LEMAIRE

Interview with Christophe Lemaire & Sarah-Linh Tran

PROFILE
クリストフ・ルメール&サラ リン・トラン●クリストフはミュグレーやラクロワに師事した後、1991年に自身の名を冠したブランドをスタート。ラコステ、次いで2011年から3年間エルメスのアーティスティック・ディレクターに。パリで生まれ育ったサラリンは出版社勤務後、「クリストフ・ルメール」に入社。’16年にはふたりがデザイナー・ユニットとなり、ブランドを「ルメール」に改名。

僕たちが提案するのは、
変化ではなく、進化

 ルメールは、コロナ危機をうまく乗り切っている数少ないブランドのひとつだ。クリストフ・ルメールとサラ リン・トランはロックダウンを早めに予測し、スタッフたちと一丸となって事前に在宅勤務の基盤づくりをしたため、封鎖の条例が出てもパニックには陥らなかった。仕事とプライベートの境がなくなった日常には、決まった時間に起床、食事という小さなルールでリズムをつけた。また彼らはひっそりとした街に、何か詩的なものを見いだした。許される範囲の仕事方法で、新しいクリエーションも少しずつ進めてきた。そして7週間に及ぶ封鎖が一部解除された今、5月に発表された「ファッション業界への公開書簡」に賛同し、署名もしたというふたりに電話をすると、クリストフは初っ端から熱い語りを切り出した。

「常軌を逸して加速したファッションのサイクルに対して、スローダウンを願う気持ちはすでにあった。それに、今の消費社会の状況に疑問を持っていたのも事実。もちろん、デザイナーの存在価値について、また、作り手と買い手のバランスで成り立っている経済について考え直すのは、売る側としては大きなチャレンジだ。でも断固として必要なこと! ノーベル賞を受賞した経済学者たちだって、皆口を揃えて言っている。『この消費のサイクルを壊さないと!』とね」。すると横から、主にウィメンズと小物のデザインを担当するサラ リンが口添えをする。「周知の事実だけれど、ファッションは最も公害を出す産業のひとつ。だからこそ、新しい消費の仕方について考える必要があるわよね」。続けて、再度クリストフ。「“無駄に買わない、賢く買う”ために、僕たちは長く着られる質の高い服を創りたい。パンデミックはこれまで考えていたことを確信する、意味深い時期だと思う」

 ところでサラ リンいわく、もうひとつのポジティブな点は、限られた条件が結果的に合理的なコレクションの構想につながっていること。

「たとえば色バリエーションを厳選し、ユニセックス・アイテムを増やしたの。次のコレクションは、これまでよりますますエッセンシャルで、コーディネートしやすいものになるはずよ」。これを受けてクリストフも「選択肢が少ないだけに寄り道をしないで、統一感のあるコレクションというゴールに向けて、直進! このやり方、悪くないよね。でも、仕方なくこうしたわけではないんだ。むしろ熟考し、納得しての選択」

“熟考”はルメールの鉄則、と前置きをしつつ、彼が描写したデザインプロセスは、こうだ。

「僕たちはデザインをするとき、これは理にかなった服か?と自問自答する。疑問があれば保留にする。服は抗うつ剤でも、注目されるための手段でもない。ワードローブに加わる新しい服は、余計なものをそぎ落としたデザインの中にも、見る人を惹きつける何かを感じさせないと」

 ルメールの神髄は心地よさ、機能性、そして魅力のバランス感なのだ。

「季節を重ねての『ルメール』は、変化ではなく“進化”。もちろんちょっとしたプロポーションで新しさは提案するけれど」

 この夏に予定されているメンズの2021年春夏コレクションのデジタル・ショールームでの発表に向けて、忙しい毎日を送るクリストフとサラ リン。詳細は未定だが、ランウェイショーができない今シーズン、ルメールではプレス向け・バイヤー向けと分けず、ひとつのプレゼンテーションに絞る予定だ。それがかえってユニークなメッセージとなるだろう、とふたりは将来に希望を感じている。

ロックダウンの間は、自宅にホームシネマ・コーナーを設置し、古い映画鑑賞に興じた。この日投影したのは、演劇学校の同胞で住まいもシェアする4人の女性たちを巡る『La bande des quatre(彼女たちの舞台)』(1989年 ジャック・リヴェット監督作品)

interview & text: Minako Norimatsu

FEATURE
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