YOON / AMBUSH®

Interview with YOON

PROFILE
ユン●2008年、VERBALとともにアンブッシュを設立。’17年LVMHプライズのファイナリストに。’18年よりディオール メンのジュエリーディレクターも務める。海外出張のない今は睡眠時間が増え、iPadで絵を描くように。

「日常」が終わったからこそ
自由な発想ができる
 

 今は2021年春夏のコレクションの制作中。実物を見ながら進めるためにも、毎日変わらずオフィスに通っているというユン。

「メンタル的にもいいんです。世の中何が何だかわからなくなっているときにこそルーティンがすごく大事。自分のリズム感を保っていたほうがクリアな頭で新しいことを考えられます」

 ディオール メンのジュエリーディレクターを務め、ナイキとのコラボレーションにも取り組むなど海外とのやりとりも多い。支障が出ているのかと思いきや、コロナ禍を機に普及し始めつつあるリモートワークも以前からルーティンのひとつだった。

「数年前から海外とは主にWhatsAppでやりとりしています。スケッチを送って、WhatsAppで送られてきたサンプルの写真を見ながらその場で調整し、最終的に実物を確認する。スピーディですし、会わなくてもできることはたくさんあります」

 こうしてペースを取り戻すまでには実は紆余曲折があった。2月中旬、出張先のイタリアに向かう途中で新型コロナウイルス感染拡大の影響で出国できなくなる恐れがあるとわかり、急遽帰国。

「そのとき初めて、怖いことが起こっているんだ、とパニックになりました。経営者ですから、スタッフを守るのも自分の仕事。とりあえず迅速な動き出しが重要だと思ったので、2月末には日本でもロックダウンのようなことが起こることを見据えてプランを立て始めました。先が見えず、いつ日常に戻るんだろうと日々不安でしたが、しばらくしてみんなが言う“日常”の世界はもう終わった、戻ってこないんだ、と受け入れたら楽になったんです。日常ではないからこそ、それまでできなかったようなことを自由に考えられる。今はすごく可能性を感じています」

 ただ、店舗をクローズせざるを得ず、海外との行き来が難しくなった結果、インバウンドの売り上げが減ったことは痛手ではある。そこで注力しているのがウェブショップだ。

「新しいコンテンツをたくさん作って頻繁にアップしています。48時間限定でアーカイブを販売したのですが、すごく反応がよくて驚きました。また、インスタグラムのDMやZoomで接客するなど、お客さまとのつながりも保つようにしています。新型コロナ禍で、ますますネットの世界は重要になっていくはず。今年ECサイト、ファーフェッチの子会社であるニューガーズグループの一員になった理由のひとつは、会社としてデジタル化にもっと大胆にチャレンジしていきたいから。ネットショッピングが普及した今、オンラインで買うことに躊躇する人は減ってきています。フィジカルでモノを売っていくのも大事ですが、それができない状況なら仕方がない。発想を転換して、写真を一枚見ただけでも手に取ってみたい、と思わせるコンテンツを作って発信していかなければ。バーチャルでの新しい見せ方を考えていきたいんです」と意欲を見せる。

 コロナ禍で混迷を極めつつあるファッション業界についても、旧態依然としたシステムが変わるいい機会だと指摘する。

「アメリカの百貨店ニーマン・マーカスが破綻しましたが、時代の流れや変化に合わせて進化していくことがさらに大事になっていると感じます。柔軟性が求められているのです。ハイブランドのようにネームバリューがあるわけでも富裕層の顧客が大半を占めているわけでもなく、かといって低価格でもない、今一番大変な私たちのような“真ん中”のブランドは、自分たちがやりたいことをSNSなどを使って自由に発信していけばいいんです。顧客とダイレクトにやりとりできるから、余剰生産せずにもすみ、サステイナブルでもあります」

 時には思い悩みながらも、ビジネスウーマンとして現実的に物事を考え、すでに前を向いているユン。新型コロナ禍にあっても変わらず支持する顧客に力をもらいつつ、状況が整い次第すぐに新しいコレクションを発表できるよう準備を進めている。

ライカのレンジファインダーで撮影した写真。緊急事態宣言発出後時間ができ、カメラ片手に散策するように。「計算しないと撮れないカメラなので脳の筋トレになります。写真を見ることにもはまっていて、ヴィヴィアン・マイヤーの作品が大好きに」

interview & text: Itoi Kuriyama

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