Interview with Erdem Moralioglu
PROFILE
アーデム・モラリオグル●カナダのモントリオール出身。2003年英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業。2005年に自身のレーベル、アーデムをローンチする。2017年のH&Mとのコラボレーションが話題に。
コロナ禍でも人々は
特別な一着を求めている
ロマンティックなコレクションで「フローラルの魔術師」とも評されるロンドンのトップデザイナーのひとり、アーデム・モラリオグル。ロックダウンが始まるや否や、リモートワークによるコレクション作りを模索しなければならなかった。Zoomによるフィッティングやマネジャーたちとのスカイプミーティングを繰り返す日々で、試行錯誤しながら2021年春夏プレコレを完成させた。
「大きな挑戦だったよ! すぐに状況をのみ込み、対処方法を見つけるチームのメンバーの迅速さには驚かされた。まさか家にいながらコレクションを制作できるとは思いもしなかったけれど、みんなでやってみせたことを誇りに思っている」
仕事以外の時間はこれまでできなかった趣味のために有効利用。読書と料理に勤しんだ。今はデレク・ジャーマンの『モダン・ネイチャー』を愛読中だ。
「素晴らしい一冊だよ。庭について多く語っているのと同時に、80年代にエイズと闘い死にゆく自分とその人生を綴ったダイアリーでもある。料理は実験的で、新しいレシピに挑戦しているけど、夫のフィリップは成功率は50%だって言っているね」
多くの感染者を出したイギリスの状況に心を痛め、人生の価値観が変わったと言う。その一方で新型コロナによって与えられたこの時間を有意義なものと考える。今後の働き方やファッション産業をどのように改善できるかを考えるよい機会になったのだ。
「今のファッションにおける“希望”は、立ち止まって状況を反映し、そして変わるためのチャンスを得たことだと思う。特に現行のファッションカレンダーやスケジュールに対して多くの疑問が投げかけられているが、これは本当に重要。業界全体が気づいてはいたけど、新型コロナがもたらしたこの時間がなければ、いつ提言されるかもわからなかった」
とはいえアーデムのビジネスには多大な影響がもたらされている。スタジオは閉鎖し、旗艦店もクローズ中。自身のEコマースサイトerdem.comの販売で耐えしのいでいるのが実情だ。
「ありがたいことにオンラインのセールスは伸びているんだ。そのうえ、売れたピースのほとんどが華やかでスペシャルなものばかりで、買ってくださったみなさんがどこへ着ていくのか不思議に思ったくらい。でもその人たちはコロナ後の生活を考えているんだとわかって、それが僕にとっては希望の光だった。コロナが過ぎ去る日は絶対に来ると思えたんだ」
現在、生産のほとんどがスタジオのあるイギリス国内で行われている。「以前にも増してローカルで生産することが適切だと感じた」というアーデムは、業界全体のサステイナブルな変革を願う。
「この経験は、われわれに思いやりを与えてくれた。それがこれからのファッション産業にインパクトを与えると信じている。生産や販売方法について、配慮を持った取り組みをするべき」
変革の流れは始まりつつある。世界中のデザイナーが今のシステムを変えようと力を合わせて動き出しているのも間違いない。世界的なパンデミックはファッション業界において、海外渡航によって生み出されるエコロジカルフットプリントにもハイライトを当てた。さまざまな面でアプローチを変えることになりそうだが、アーデムにとって2021年春夏プレコレの発表方法は近々の課題のようだ。
「完成したばかりのコレクションをどのように撮影し、発表するか。毎日が新しい経験の連続である今、正直まだ見極められていないけれど、以前とは違うのは確か。モデルがNYから来ることはないし、フォトグラファーがパリから来ることもない。これまでの慣例を繰り返す意味はもうないんだ」
先行きに不透明さを感じながらも、「腰を落ち着けてコレクションのスケッチを描くことのできるこの機会は特別だったと思う」と、彼は困難な時間をポジティブに捉えている。
アーデムの自宅の庭。彼がコレクションに描く、花柄を思い起こさせるバラの花。
「春の訪れはこの事態をみんなで耐え抜き、いつか収束の日が来ると思わせてくれた」
interview & text: Yu Masui