Rok Hwang / ROKH

Interview with Rok Hwang

PROFILE
ロク・ファン●韓国出身。ロンドンでセントラル・セント・マーチンズに学ぶ。セリーヌでフィービー・ファイロに師事したあと、フリーで経験を積み、2016年に「ロク」をスタート。2018年にはLVMHプライズ特別賞に輝いた。

ファッションとは人間性、
エモーション、そしてシェア

 コンテンポラリーながら温かみのある独特のスタイルで、若手デザイナーの中でも際立つ実力を見せるロク・ファン。解体・再構築したトレンチコートやちょっとひねったスポーティ・アイテムは、すでに彼のシグネチャーとして定着している。パリでは2度目となるランウェイショーで、テーラード・アイテムを数多く盛り込んだ最新コレクションを発表したのは、今年の2月末のこと。彼がロンドンに戻って3週間もすると、イタリア、スペイン、フランスに続いて、イギリスでも都市封鎖が行われ、彼も自粛生活を余儀なくされた。

「ロックダウンの間、日常は煩雑さがなくなってシンプルに。その結果、平穏で、集中力が高まった。だから必要なこと、ベーシックなことに取り組めた。この静かで奇妙な時期は、僕に平静な精神をもたらしてくれたよ。暮らし方の新しい意義を発見できた」

 たとえば、時間をかけてお茶を入れることの美しさ。「お茶の葉を洗い、再度洗ったら沸騰したお湯を注いで煎じる。こんな本格的な方法はこれまでしたことなかったけど、心が安らかになるね」

 そして家を一歩出れば、また別の楽しみが。「朝、人っ子ひとりいない道を眺める。この“空っぽ”さに、幸せを感じたんだ。さらに、自然を享受すること。花が咲き、新緑が芽生える春。春の色と匂いを感じるのも、またとない幸せだね」

 こんなふうに静けさを楽しむ一方、恋しかったのは、デジタルではなく実際の人とのつながり、つまり経験やクリエーションの喜びをシェアすること。

「デザイナーとしては人とのコネクションがないと、クリエーションの目的を失ったように感じてしまう。服は人間が着るもの。デザイナーはドレープやカッティングを感じ、さわらないとだめだ。この状況は、広義での“ファッションデザインの意味”について考える機会を与えてくれた。答えは人間性、感情、そして共有だ」

 人間性。ロクにとって服作りの神髄は、ここにある。多くの要素が社会の動きと連動し、ファッションもそのひとつ、とは認める。だが、社会性より自分の気持ちを反映させた創造をしたい、と彼は言う。また、アートを創作する、ファッションをデザインする、クラフトを手がける、それらは社会の動きとは独立したクリエーションなのだ、とも。

「せつない歌を聴きたくなるときだってある。今の時点で、“気分が上がる”デザインをつくりたいと言ったら、正直言って嘘になる。僕はとにかく自分の気持ちに忠実でいたいんだ。今の気持ちは、言ってみれば“静寂”かな」

 デザイナーとしての自身を見つめ直した今。さて、「ロク」は、これからどういう方向に進むのか?

「僕たちはこれまで多様な選択肢のプロダクツとビジュアルを提供してきた。でも今後はブランドの核となる価値観に立ち返ろうと思う。クラフツマンシップとアーティザナルなアプローチに、より専念してね。そして本質的でセンシュアル、しかもタイムレスな服を作っていきたい。より長く楽しんでもらえる、真の服を」

 これは、ロク流のサステイナブル論だとも言える。「ロク」では環境保護への貢献として、自然繊維やバイオデグレーダブル(生分解性)素材を採用しているが、消費を抑えることで責任のある行動を取りたい、と彼は言う。一方プレゼンテーションの方法では、ランウェイよりも人々とのつながりがダイレクトに感じられる何か別の“体験”方法を画策中。まずは現在制作中のいくつかのショートクリップを近々リリースする予定。

「『ロク』らしさのアピールとして、中身が濃く、アーティスティックなビジョンをより多く提供したい。これはビジネス戦略より大事だと思うから」

 ロックダウンを機にリセットされたロク。彼の新しい提案を見られる日も、遠くはない。

愛犬のブーと、人けのない街や公園を堪能。ブーは日本スピッツとコーギーのミックス。

ロックダウンのため技師を呼べなくて、壊れたままになっている自宅のシャンデリア。ロクはこのままの状態が意外と気に入っているそう。

interview & text: Minako Norimatsu

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