Samuel Yang & Erik Litzen / SAMUEL GUÌ YANG

Interview with Samuel Yang & Erik Litzen

PROFILE
サミュエル・ヤン(左)&エリック・リッツェン●サミュエルは中国広東省出身。2015年にセントラル・セント・マーチンズのMAを卒業。2017年からAcne StudiosやJW アンダーソンで経験を積んだ、パートナーのスウェーデン人エリックがブランドに参加。ロンドンベースに上海でコレクションを発表。「LVMHプライズ2020」のショートリストに選ばれた。

デジタルとフィジカルが
今後のキーワードになる

 美しいテーラリングに、ほのかに薫るシノワズリーのフレーバー。今最も実力のある中国出身の若手デザイナーがサミュエル・ヤンかもしれない。英国ファッションの名門セントラル・セント・マーチンズを卒業したサミュエル・ヤンのブランドは、今年のLVMHプライズで20組のセミファイナリストに入選。2017年からはパートナーであるエリック・リッツェンと活動している。ふたりがロンドンでのロックダウン中に感じたことを聞いた。

「イギリスがロックダウンになって以来、リモートワークで作業しています。毎日のようにオンラインミーティングをし、多くの問題を解決しました。誰もが普段のキャパシティ以外にクリエイティブな時間が持てたと思う。実際に自分たちはいつもよりも面白い会話をしているし、服作りのプロセスに必要な新しいアイデアにつながっている。余暇は絵を描いたり、立体作品を作ったり、料理をしたり、走ったり、そしてゲーム『どうぶつの森』にもはまっているよ」とサミュエル。

 そんな中で新しい活動も始めた。エリックは「ロンドンベースの『Solace Women’s Aid』への寄付を募る活動を始めました。ドメスティックバイオレンスの被害にあっている女性たちをサポートしているチャリティです。ロックダウンによって加害者である夫とともに隔離されなくてはならないから、被害者たちには危機的な状況だったんです」と語る。

 近年、多くのデザイン学生が経験値の浅いまま、業界の渦中に放り込まれることが問題になっている。ポストコロナで業界が変わることを期待しているというサミュエル。「ファッション業界で働いている人すべてにとって、今の状況を反映しながら何が重要かを見直す時間になると願っています。2015年に学校を卒業して、ファッションのシステムに足を踏み入れたときには、すでに世界は過剰なまでの飽和状態。そしてただエスカレートするだけで、マーケットは主張とプロダクトであふれかえっていました。正直困惑しましたね。自分たちにとって今は、これまでの経験を見直し、正しい方向性を見定める価値ある時間だと思っています。周りで起きていることの中で、自分たちを見失わないようにも心がけています」

 エリックは、ポストコロナのファッションを変えるのは、業界人だけではないとも言う。

「服を愛する人たちが、消費者としてどのようにファッション産業をサポートし、サステイナブルな未来へと導けるかを考える時間でもあると思う」

 新型コロナはビジネスにも影響を及ぼした。2020-’21年秋冬のセールス時期をプレコレクションやメンズと同じ1月に変更したため、サンプリングにおいては影響は受けなかった。一方、ふたりは新しい試みで見せる予定だった上海におけるコレクション発表の機会を失ってしまった。しかし上海ファッションウィークが大手EコマースサイトTmallと組み、デジタルランウェイが行われることに。

「幸いなことに、ともに活動しているARPAのクリエイティブディレクター、ジャスミン・ラズナハンやフォトグラファーのザヴィエル・マスと、2020-’21年秋冬のキャンペーンの一環でショートビデオを作成していたんです。上海の次世代を担う若手をサポートするプラットフォーム、LABELHOODとTmall、そしてNowness Chinaの協力によって、デジタル形式でコレクションを発表することができました。今後ファッションのコミュニケーションはオンラインへ大きく移行し、クリエイティブな方法で多様に広がりを見せていくでしょう。その一方でパーソナルかつ、フィジカル(体で感じる実経験)なことは、変わらない価値があると思うんです」とサミュエル。

 こうしてデジタルファッションウィークをいち早く経験したふたりは、「デジタルとフィジカルのコンビネーションによって、これからのファッションが変化していくのかもしれない」と希望を語った。

「ロックダウン時でも、ロンドンの家の観葉植物はすくすくと成長していたんだよ」とサミュエル。

着る側と服の関係性を再考した2020-’21年秋冬コレクションから。ペルソナジャケットはドライオーガニックコットンのツイルを使用、合わせられたウールのスカートとともに構築的で3Dなカッティングになっている。

interview & text: Yu Masui

FEATURE