「アントワープ6」展が3月末から来年1月まで開催されているのを機に、ファッションで街おこし。6月にはアントワープ・ファッション・フェスティバルが開かれた。

街中で開催、アントワープ・ファッション・フェスティバル

「アントワープ6」展が3月末から来年1月まで開催されているのを機に、ファッションで街おこし。6月にはアントワープ・ファッション・フェスティバルが開かれた。

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アントワープ・ファッションの若手代表、ジュリ・ケーゲル

二つの文化圏が隣り合う国ベルギーでは、両地域のモード学校もカラーを違える。南部ワロン地域ブリュッセルに位置するアートスクール、ラ・カンブルのモード部門をルポした記事に続き、今回は、北部フランダース地域の中心地、アントワープの王立芸術アカデミーにフォーカス。この学校で一緒に学んだドリス・ヴァン・ノッテンやアン・ドゥムールメステールら6人が、国際的な成功という夢をシェアしてロンドンに遠征したのは、ちょうど40年前。4月27日投稿の記事では地元のモード美術館MOMUで開催中の「アントワープ6」展の内容を紹介したが、本誌8月号の特集では、同校を卒業してこの街に住み続ける若手ホープ、ジュリ・ケーゲルが同展を訪ねて感想を語ってくれた。同じくフランダース地方出身のパンクなモデル、ハナロア・クヌッツも、取材に参加。またジュリは、アントワープでのおすすめアドレスも教えてくれた。

彼女の最新ニュースは、ギャラリー、クール(C OUR)をオープンしたミラン・ヘンデリクスの協力を得て、アート展After Workをキュレーションしたこと。展示作品はジュリによる服はもちろん、ヴィンテージやコンテンポラリーの家具からオブジェまで。友人やコラボレーターたちを巻き込み、仕事と遊びの境目を自由に行き来する女性たちの日常のシーンを、ユーモアを交えて演出した。

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本誌8月号、アントワープ特集の扉。MOMUで「アントワープ6」展に見入るジュリ・ケゲル。Photo: Tom Delaisse

ジュリ・ケゲルのAfter Work展。ギャラリーCOURは無機質な白い箱ではなく、アールデコ様式の美しいアパルトマンの一画。

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ジュリ・ケーゲルのAfter Work展より。Photo: Minako Norimatsu

王立美術館も若手たちをサポート

ジュリのAfter Workは、アントワープ・ファッション・フェスティバル(以下AFF)の一環としての企画。AFFとは市の協力を得て今年初めて実現した、街をあげてのファッションの祭典である。6月初旬にはクリスチャン・ワイナンツウォルター・ヴァン・ベイレンドンクのレトロスペクティブ・ショーのほか、トークセッションや展覧会、インスタレーションなどさまざまなイベントが、100を越える会場で展開された。主要箇所をよく理解しながら回りたければ、ガイドツアーに参加。パーソナルなアイテネラリーを組みたければ、オンラインのインターアクティブマップを参考に……とオーガナイズは完璧だ。AFFのハイライトの一つは、アントワープ王立芸術アカデミー卒業まもない若手たちの展覧会(アントワープ王立美術館KMSKAにて、11月8日まで)。まだ無名ながら才能を秘めた9人と1組のデザイナーたちに、常設展に絡めたインスタレーションで各1体を発表する機会が与えられた。いずれも、同館所蔵のファインアートから選んだ芸術品を着想源とした、アートの域とも言える作品だ。中でもKMSKAの看板作品であるフランドル絵画、マドンナを題材としたPommie Dierickの構築的なドレスは、圧巻。またYuhei Ueda Liu Zexian のデュオはインスピレーションを近代絵画に求め、ベルギーのフォービズムを代表するリック・ウータースの柔らかな線と色合いを服に落とし込んだ。2階の古典絵画のギャラリーの手前には、各作品の制作プロセスを明かすリサーチブックやデザイン画も展示。

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KMSKA x Young Fashion Designers展。2階で一番最初に目に入るのは、Pommie Dierickのドレス。Photo: Minako Norimatsu

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Pommie Dierickのインスピレーション源となった、ジャン・フーケによる「ムランの聖母子」(15世紀)Photo: Minako Norimatsu

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KMSKA x Young Fashion Designers展より、Yuhei Ueda とLiu Zexianの展示は4階に。Photo: Minako Norimatsu

アントワープの未来を担う、王立芸術アカデミーの卒業生たち

AFFは世界各地から多くのモード関係者を集めたが、彼らの一番の目的はアントワープ王立芸術アカデミーの16人のマスター(修士)課程の生徒たちによる卒業制作ショーとプレゼンテーション。“アントワープの6人”以降もハイダー・アッカーマン、デムナ、メリル・ロッゲら大物を次々と輩出した名門校だけに、卒業生たちへの期待は高い。生徒たちには23もの企業から経済支援を伴うアワードが授与されるが、そのうち5つを獲得したのはスペイン出身のCarla Lázaro Bonet。祖母と母の強い個性を炸裂する色彩と誇張されたシルエットで表現した。廃材を利用して手作りした無数の花のモチーフからは、テクニックへのこだわりも読み取れる。まったく違うアプローチで秀でていたのは、地元のStan Peeters 。建築に興味を持ち、マルテ・ドナのキュビスム絵画やアレクサンダー・アーキペンコの彫刻を着想源に、ミニマルで構築的なシルエットを追求した。そしてストーリーテリングのレベルの高さで健闘したのは、ポーランドのBartosz Borowski。リュシアン・フロイドの絵画に見る色合いや彼のモデルとなった人物たちを緻密に分析し、ダンディなメンズルックとドラマティックなウイメンズのドレス12体から成るコレクションに仕上げた。

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アントワープ王立芸術アカデミー外観。Photo: Minako Norimatsu

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バチェラー(学士)とマスター(修士)、すべての学生たちのショーのバックステージににて、Carla Lázaro Bonetのモデルたち。Photo: Courtesy of Antwerp Fashon Festival

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マスター(修士)課程を終えた卒業生たちのプレゼンテーションより、Carla Lázaro Bonetのブース。Photo: Minako Norimatsu

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Carla Lázaro Bonetのドレス、クローズアップ。シーケンスはすべて手作り、手縫い。 Photo: Minako Norimatsu

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Carla Lázaro Bonet。カラフルなコレクションとは対照的に、本人は黒を纏って。 Photo: Minako Norimatsu

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卒業生のプレゼンテーションより、近代アートや建築からの影響が顕著な、Stan Peetersの作品。Photo: Minako Norimatsu

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Stan Peeters はレザー作品が高く評価され、スペインの革製品マニュファクチャー、Movexより賞を授かった。今後技術や素材の支援を受けられる。Photo: Minako Norimatsu

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卒業生のプレゼンテーションより、リュシアン・フロイドの肖像画をインスピレーションとしたBartosz Borowski の展示。Photo: Minako Norimatsu

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Bartosz Borowski によるウイメンズでは、イメージした女性のエレガントかつエキセントリックなキャクターが見事に表現された。Photo: Minako Norimatsu

アントワープ近郊、ハッセルトも創造力の宝庫

場外展としてAFFのプログラムに例外的に組み込まれたのが、アントワープから電車で1時間の街ハッセルトでの展覧会。小さなモード美術館で来年1月31日まで開催中のMemory Is Home展だ。本展では、この街を含むリンブルフ州出身でクリエイティブな仕事に携わる16人の思い出の品や作品を集めている。16人のリストには前述のモデル、ハナロア・クヌッツ、アントワープ6の一人で昨年他界したマリナ・イー、マルタン・マルジェラ、ラフ・シモンズをはじめ、ラフと長年組んでいるスタイリストのオリヴィエ・リッツォ、メイクアップ・アーティストのインゲ・グログナールなど錚々たる名前が連なる。またそれほど知名度はないが、マルタンやドリス・ヴァン・ノッテンのコラボレーターとして欠かせない存在だったニットデザイナー、エルス・アーノルスもその一人。クリエイティブな仕事をパーソナルな視点で語るインティメートな展示には、モード展とは一味違った魅力がある。

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Memory Is Home展より、マルタン・マルジエラの‘’思い出の品“。タビブーツとウルフカットのウイッグで、すぐに彼だとわかる。Photo: Minako Norimatsu

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オリヴィエ・リッツォによる、アントワープ王立芸術アカデミーのモード部門卒業制作の2体(1993年)は、ニットデザイナーEls Arnolsが手がけた。Photo: Minako Norimatsu

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インゲ・グログナールのアイメイクアップ・コラージュ。Photo: Minako Norimatsu

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ラフ・シモンズがリンブルフ州のデザイン学校で卒業時に制作(1991年)したクロゼットは後の彼のファッションデザイナーとしてのキャリアを示唆する。右のドレスは、アントワープ王立芸術アカデミーを昨年卒業したChloë Renersの作品。Photo: Minako Norimatsu

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ラフ・シモンズによるブランケット(2021年)には、スタッフたちの家族の写真がプリントされている。Photo: Minako Norimatsu

ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子プロフィール画像
ファッション・ジャーナリスト 乗松美奈子

パリ在住。ファッション業界における幅広い人脈を生かしたインタビューやライフスタイルルポなどに定評が。私服スタイルも人気。
https://www.instagram.com/minakoparis/