【そろそろ政治の話をしようPART1】チョン・ソヨンさんと岸本聡子さんの対談から見えてくる、日韓の「政治の話」への意識の違い

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世界では、若い世代が積極的に社会参加している一方、政治に消極的な日本の若者たち。でも自分のために、未来のために、そろそろ声を上げる時期がきている

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チョン・ソヨン

1983年生まれ。SF作家。ソウル大学で社会福祉学と哲学を専攻。大学在学中、漫画『宇宙流』のストーリーを担当したことをきっかけに作家に。労働問題の弁護士としても活動。著書に短編集『となりのヨンヒさん』(集英社)、エッセイ集『#発言する女性として生きるということ』(クオン)など。

岸本聡子プロフィール画像
岸本聡子

1974年東京都生まれ。東京都杉並区長。2003年、公共政策研究者として、オランダが拠点の政策シンクタンクNGOに所属。2022年6月、杉並区長選挙に市民団体からの出馬要請を受けて立候補し187票差で初当選。杉並区初の女性区長に。著書に『私がつかんだコモンと民主主義』(晶文社)など。

SF作家で、弁護士でもあるチョン・ソヨンさん。「もともと韓国のSF作家は、とても政治的なんです」と言うように、社会のうねりに抗う人々を描くなど、社会的なメッセージに富んだ作品を書いてきた。2023年、出版されたエッセイ集『#発言する女性として生きるということ』では、女性問題をはじめ、社会問題により鋭く切り込み、日韓で話題となっている。

一方、2022年に東京都杉並区で初めての女性区長となり、新しい時代のリーダーとして注目されている岸本聡子さん。多様性のある社会や環境先進都市、さらに対話と参加による自治などを目指して、積極的に発信を続けている。「声を上げなければ社会は変わらない」という二人が語る、政治の話をすることの意味とは。

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①出所:Instagram @spur_magazine ストーリーズ アンケート調査より2023年11月20日〜2023年11月21日

一人の市民として政治に参加することは誇らしいこと

――リモートかつ、通訳を介しての対談ですが、よろしくお願いいたします。

岸本 今日はまずチョンさんにお会いできたことをとてもうれしく思います。『#発言する女性として生きるということ』が日本の女性に与える影響も大きいと思っていて、チョンさんの存在をとても心強く感じています。

チョン ありがとうございます。区長という責任ある立場に女性がいることは大事なこと。岸本さんのご活躍に勇気づけられる女性も多いのではないでしょうか。今日はお話しできるのを楽しみにしていました。

――では、最初に読者のアンケートをご覧ください。「政治について周りの人と話すことはありますか?」という問いの結果を見ると、「よく話す」という人はわずか。政治の話をしにくい理由は、「政治について詳しくないので意見がないから」がもっとも多い答えになりました。

岸本 そもそも「政治」をどういうふうに捉えるか、ということだと思います。恐らく読者の方々の多くが、「政治=永田町」「政治=国政」と思っているのではないでしょうか。

チョン 岸本さんのおっしゃる通りですね。韓国で永田町にあたるのは、ソウルの「汝矣島(ヨイド)」になりますが、政治=政党政治と考えると、①の結果には、私も共感できます。

岸本 そうですね。でも、まず大事なのは、政治はまさに私たちの生活そのものだということです。物価が上がれば、家計が苦しいと思いますよね。また今起きている痛ましい戦争を見て、「平和が大事だな」と感じると思います。それを言葉にすることが、政治について話すということなんですね。

チョン そう考えると、きっと皆さんも日常的に政治の話をしているんだと思います。一方、②については韓国と違うなと思いました。というのは、韓国の人のほとんどが、政治について、自分の意見をはっきりと持っているんですね。ですから同じ質問をした場合、「よくわからないから話さない」と答える人はおそらく少なくて、「相手と意見がぶつかるから」という理由が多いと思います。

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② 出所:Instagram @spur_magazine ストーリーズアンケート調査より 2023年11月20日〜2023年11月21日

岸本 自分の意見があることは素晴らしいですね。韓国は80年代まで軍事政権だった過去の歴史がありますから、民主主義への希求が社会の中に強く共有されているのだと思います。

チョン そうですね。韓国では大規模な集会や選挙を通じて民主化が成し遂げられたという経緯があります。選挙の結果によって、自分の生活が一変するということをみんな経験していますから、一人の市民ができることに限界はないと、みんな思っているんですね。
「デモや投票で大統領も変えたじゃないか、5年過ぎたら、今の大統領だって変えられるんだ」という思いがあります。

岸本 2017年のキャンドル革命でも、市民運動の高まりで、当時の大統領が弾劾・罷免に追い込まれました。デモに家族で参加する人たちの姿がとても印象的でした(③参照)。

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③ Photo:Aflo

2016年~17年にかけて、韓国で起きた政治的なムーブメント、キャンドル革命。延べ1700万人の市民が集まり、当時の朴槿恵大統領を退陣に追い込んだ。

チョン 韓国では「政治参加」に対してポジティブなイメージが強くて、デモにも友達同士、誘い合って参加します。一人の市民として、政治に参加することをみんな、とても誇らしく思っているんですね。

先日もこんなことがありました。野党のある政治家が政治に無関心な若者にアピールしようとして、「政治はもういらない。私は豊かな暮らしをしたい」という垂れ幕を張り出したところ、「私たちを政治に無知な世代だと思っているのか!」と若者から抗議が殺到したんです。2日後には党が謝罪して、その垂れ幕も降ろされました。

岸本 韓国の若者の政治への関心の高さがうかがえますね。

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ジェンダー不平等を変えるには、意志決定の場に女性が必要

――日本でも選挙のときにSNSで「投票してきたよ」と、若い人たちがハッシュタグをつけて写真をアップするなど、政治への関心が高まりつつありますが、依然として投票率は低く大きなムーブメントにはなりません。
岸本 2011年の東日本大震災後の反原発運動や、2015年に〝SEALDs〟の学生たちが行なった安全保障関連法案反対デモなどで声を上げてきましたが、韓国とは対照的で、選挙やデモによって変化につながる経験がない時代があまりにも長すぎるんですね。それはある意味、日本の政治が利害調整をうまくやってきたということでもあります。富の再配分や社会の変化を対立ではなく、上手に調整しながら、比較的穏やかに進めてきたということで、日本の政治のいい面でもあると思います。

ただ、この10年、経済悪化に伴って利益配分がうまくいかなくなったり、調整型社会の中で、気づいたら日本社会が世界からすっかり取り残されていたことがわかってきました。そのひとつがジェンダー平等です。2023年のジェンダーギャップ指数は、世界125位と過去最低で、男女の格差は開くばかりです(④参照)。

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チョン それは韓国も同じです。実務の場面での男女比は1対1くらいですが、トップに行くほど男性の比率が高くなり、管理職では圧倒的に男性が多くなります。当然、少数派の声は反映されにくくなりますよね。

先日もある委員会で、労働問題に関する意見を専門家として述べました。会議のメンバーは、50代~60代前半のいわゆる上級公務員の男性でしたが、私の意見を一通り聞いたあと、彼らが「そういうふうに感情的にアプローチしては困りますね」と言ったんです。私はまったく感情的に話していなかったのに、彼らの目には「弁護士が話している」ではなく、「女が話している」としか映ってなかったのでしょう。だから「女性は感情的だ=彼女の話も感情的だ」と受け止められていたわけです。とてもむなしいと感じました。

岸本 そういった公の場でさえ、偏見にさらされたり不当に扱われたりするのが、韓国や日本の女性が置かれている現実です。政治の世界は、さらにそれが顕著で、区議会に出る幹部職員は、ほぼほぼ男性。区役所の中で働く人は女性が多いのに管理職クラスになると全体の約20%まで女性比率が下がります。部長級はたった一人。女性が意志決定の場に少なすぎると思います。

チョン それを改善するために、岸本さんは何かなさっていますか?

岸本 まだ始まったばかりですが、目下の課題は、杉並区役所における女性の非正規雇用の割合を減らすということです。じつは区役所の45%が非正規雇用で、そのうち87%が女性なんですね。非正規雇用では、意志決定の場や責任ある立場に就くことはできないですから、まずはこれを変えていきたい。

よく管理職の人事では、「性別に関係なく、能力のある人を配置している」ということが言われます。でも、そもそも女性は、上に立つという機会が社会的に削り取られているわけです。それではいつまでたっても管理職としての能力は備わらないわけで、積極的にそういう機会を女性に与えていく必要があると思っています。

チョン 私も何か機会があれば、とにかく女性を推薦します。でも、女性は「私にはその能力があるだろうか」と慎重になりがちで、辞退してしまう人も少なくないんですね。というのも、社会が女性の失敗に対して厳しいからです。また、女性は男性に比べて使える時間が少ないということもあります。私の場合、労働委員会などは午後2時から始まって、夜8時、9時までかかってしまう。他方で子どものいる女性は、「子どもが塾から帰る前に家に帰らなくては」と思うわけです。子育てに十分な時間を割こうとすると結果的に仕事を引き受けにくいという状況が女性から機会を奪っていると思いま
す。

まずは声を上げて、連帯すること。共鳴が大きな力になっていく

岸本 まったくおっしゃる通りです。
韓国も日本も家事労働の多くを女性が担っていて、性的役割が固定化していますよね。以前発表されたOECD(経済協力開発機構)の統計では、日本では、子育てや介護などのケアワークを含めた家事労働の時間が、男性よりも5・4倍長いという数字が出ていました(⑤参照)。これではいくら能力があっても、専門性があってもフルに働けないわけです。

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――チョンさんは、子どもを産まないという選択をしたと著書にありましたが、その選択には、男性優位な社会であることが影響していますか?

チョン たとえば妊娠・出産・子育てということになると、今関わっている仕事が満足いく状態でできなくなってしまうことが明らかでしたので、自然にそうなりました。これは特別なことではなくて、今、韓国では子どもを持たないという選択が増えています。理由を聞くと、男性の場合、経済的な負担や晩婚が多いのですが、女性の場合、もっとも多い理由が「なんとなく」なんですね。この「なんとなく」に込められた意味は、やはり女性が受ける社会的な圧力を示唆していると感じます。私自身、もし韓国がジェンダーギャップのない社会だったら、きっと2人くらい子どもを産んでいたと思いますから。

岸本 日本でも少子化が進んでいますが、産まないという女性たちの選択は極めて自然だと思います。私は20代から20年ほどヨーロッパで暮らしていて、子育てもヨーロッパでジェンダー平等が徹底しているので、産んだことによって自分のキャリアを妥協したり、中断したりということがいっさいなかったんですね。もちろん仕事を多少ペースダウンすることはありましたが、パートナーと子育てを楽しみながら、自分のキャリアを形成することができました。子育てを女性に任せるということは、その楽しみを男性から奪っていることにもなりますし、家事労働によって女性が能力を発揮できないのは、その人にとっても、また社会にとっても大きな損失だと思います。

――こうした状況を変えるためにも私たち女性が声をもっと上げていかなければならないということですね。

チョン そうですね。私が読者の皆さんに言いたいのは、自分ができる範囲でいいので、勇気を持って発言してほしいということです。たとえばある政治家が女性蔑視発言をして批判が出たとき、我関せずではなくて、「私もおかしいと思う」と反応してほしい。そして連帯してほしいと思います。オンラインで、自分と同じ考えの国会議員を応援することもできますよね。そうして政治参加の場を少しずつ広げていってほしいと思います。

岸本 小さな勇気がつながって力になっていく。#MeToo運動や#WithYou運動もそうでした。社会を変えるには、生きづらさを声にして、共鳴の連鎖を広げていくことが必要です。杉並区では、2023年4月の区議選で女性が多数当選しました。区議の男女比がほぼ1対1になったことで、女性の声も反映させやすくなりました(⑥参照)。もちろん社会を変えるには、時間がかかりますが、諦めずに声を上げ続ける。それは自分自身の力になるし、人々を勇気づけるエンパワーになると思っています。

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⑥ Photo: 亀松太郎

2023年4月の杉並区議選で、当選した女性区議たち。岸本区長が女性候補を積極的に応援したこともあり、女性24人が当選し、男性23人を上回った。

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